第175話 シャイニング・アイ! 

 ここ最近、明らかに妖異や魔族との遭遇率が上がってきている。


 それは女神クエストに限らない。


 単体の妖異や魔族……というより魔族兵をここ一カ月だけで四度も遭遇している。


 彼らは、少なくとも目につく場所に紋章のような身バレアイテムを身に着けていないので、どこの組織に属しているのかはわからない。


 だが少なくとも、その部隊に妖異が加わっているようなのは、セイジュウ神聖帝国の尖兵と考えて間違いないだろう。


 しかも彼らの動き方が妖しい。俺たちが近づこうとするだけで、すぐに逃げてしまうのだ。単に俺たちを恐れての逃亡なのか、あるいは俺たちを誘い込むための罠なのか分からない。


 部隊の中に妖異や強力な魔物がいる場合は、普通に向ってくるので、単に戦力差による判断の可能性が高い。


 ということで現在、俺たちが対峙している魔族部隊は、岩トロルを三体も伴っているので、勝つ気満々で向ってきているっぽい。


 しかも今は夜で、岩トロルたちは、その強靭な肉体を自在に動かすことができる状態だ。目をランランと輝かせている岩の巨人は、見ているだけでお漏らししてしまいそうなほど恐ろしい。


 【索敵】スキルで表示されている視界のミニマップには、三体の岩トロルを取り囲むように、赤いマーカーが沢山表示されていた。


 紫色のお化けマーカーはないので、この部隊には妖異はいないらしい。


「とりあえず近くに妖異はいないみたい。ライラは傍にいて俺を守ってくれ!」


「はい!」


 いきなり「俺を守れ」と言い切るのは、いくらヘタレな俺とて自尊心がゴリゴリ削られる発言ではある。


 だが現在レベル22の俺に対してライラのレベルは36。この世界のレベルは、実績評価という側面が強い。なので、レベル差がそのまま実力差ということではないが、それでもレベル14の差は格違いと考えて間違いない。

 

 そもそも近接戦闘については、元拳闘士だったライラは、俺よりも圧倒的に格上の存在だ。しかも最近は、フワデラ夫妻に師事して特訓を受けているらしいので、以前よりさらに強くなっているはず。


(だから、これは単なる適材適所の判断なんだよ!)


(ココロ:そんなに言い訳がましく言わなくても大丈夫ですよ)


(シリル:そう大丈夫。私たちはわかってるから)

 

(そ、そうなの?)


(ココロ:それにライラさんに任せる方がよいと思いますよ)


(シリル:うん。魔族兵の中にアサシンがいる。アサシンは危険)


 ピロッと音がして、赤マーカーの横に情報が表示された。


(た、確かにアサシンがいるね……)


 星の智慧派のアサシンやミリアさんたちと出会って、アサシンの能力には十分警戒する必要があることを俺は学んでいる。


 特に、彼らの察知力は正に神憑り的と言ってもいい。ゲームのアサシンみたいに、鷹や隼を使って空から監視でもしているのかもしれない。もしくは俺の【索敵】スキルと似たようなものを持っているのかも。


「ルカちゃん、敵の中にアサシンがいる。妖異はいないみたいだから、グレイちゃんと二人にお願いしていいかな」


 アサシンには、なるべく【幼女化】のことを知られたくない。これは単なる俺の感に過ぎないし、もしかすると既に知られているのかもしれない。


 だが、もし知られていないのなら、その状態は維持しておきたい。


 というわけで【幼女化】を使うのは、全員を確実に仕留められる状況。もし大型妖異に使う場合でも、ルカやグレイちゃんの攻撃に被せるようにしている。


「わかったのじゃ! 今日はグレイちゃんに任せるとしよう!」


 ルカの言葉を聞いたグレイちゃんが、任せろと言わんばかりに胸をドンと叩いた。


 ちなみ今のグレイちゃんは幼女姿だ。

 

 今日の俺たちは女神クエストに応じてここにいるわけではない。もし女神クエストなら、そもそもライラを連れて来ない。


 このグレイベア村北方にある山深い場所には、ライラの研究所で必要な薬草を集めるために来ていただけなのだ。


 そこで偶然にも遭遇したのが、この岩トロルを率いた魔族部隊というわけである。


 ルカが胸元のペンダントに手を当てると、そこに嵌められている賢者の石が光始める。


「いくぞグレイ! 幼女変身! グレイベア!」

 

 ピカァァァ!


 賢者の石から放たれる光が大きくなって、グレイちゃんの身体を包み込む。


 いつもの変身シーンなのだが、今回はいつもと違うことが起こった。


 ピカアァァァァ!


 ライラの右目に埋め込まれた賢者の石からも、ルカの賢者の石に呼応するかのように強い光が放たれたのだ。


「ほわっ!? ライラぁぁぁ!?」


「はい? シンイチさま? どうかしましたか?」


 どうやら本人には自覚がないらしい。まさかこの光が自分の目から出ているとは思っていないのだろう。


 いつもより強烈な輝きが周囲を照らす。


「ライラ! こう横ピースして『シャイニング・アイ!』って叫んでみて!」


 俺は右手を自分の顔の前に持ち上げて横ピースし、ライラにポーズを指示する。


「こ、こうですか?」


 ライラの横ピースの間から、強烈な光が放たれる。


「しまった! 逆光で全く見えねぇぇ!」


 ぼふんっ!


 光が収まると、巨大なグレイベアが俺たちの前に聳え立っていた。


「ぐぉぉおおおおおおお!」


 グレイベアは大きく吼えると、そのまま岩トロルたちの下へと走っていき、


 ボゴンッ!


 ドガンッ!


 ゴガンッ!


 三体の岩トロルを巨大で凶悪な爪で、文字通り破壊していった。


 俺は【索敵】マップに表示される赤マーカーを確認する。


「うひっ!?」


 視界のマップには「アサシン」と表示されているマーカーが、俺たちの直ぐ近くまで寄って来ていた。


 全ての赤マーカーが俺たちから離れていく。


 その中でアサシンたちのマーカーは、俺たちから一番近い場所にいたにも関わらず、最も早くマップの範囲外へと消えていった。


 こえぇぇ。やっぱアサシンこえぇえ。


 だが、とりあえず危機は去ったようだな。


 などと油断している俺のところへ、ルカがやってきて難しい質問をしてきた。

 

「ところでシンイチよ。シャイニング・アイというのは何だったのじゃ?」


「私も知りたいです。シンイチさま、シャイニング・アイって何ですか?」


 ライラが横ピースを決めながら、同じ質問を俺に突き付ける。


 えっと……


 シャイニング・アイ?


 なんだろうね。


 新しい危機が訪れた。

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