第168話 スキルの改修

 リーコス村の村長宅では、モリオン村から来た男が意識を取り戻していた。


 とはいえ、酷く混乱している様子で、村長の質問にまともに答えることはできない。


 何があったのか聞こうとしても、同じ言葉を繰り返すだけだった。


「影から奴が! 奴が出て来て、俺の妻と息子を殺しやがった! 隣のザッカス婆を、村長のルーカスを! ジャンとレイラとサイスの死体で悪魔の印を描きやがった! あぁ! あぁ! あぁぁぁぁぁぁぁあ!」


「奴とは誰の事だ!? 盗賊か!? 魔物か!?」


 村長が彼の肩を揺す振った。


「影だ! 影の悪魔! 黒き海の魔人! 奴の足跡には汚らわしい粘液にまみれていた! 魚のような顔が闇から現れた! トック爺さんとボラード一家の死体で、邪神を呼び出す祭壇を作りやがった! ああ! ああ! あああぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヴィルミアーシェさんが、村長の手を男から引き離した。


「お父さま、この方は想像もつかないような恐ろしい目に会われたのでしょう、どうか今はそっとしてあげてください」


「そうだな。だがモリオン村が大変な状況にあることは間違いないだろう。一刻の猶予もない事態が起こっているのかもしれない」


 そう言って、村長は俺の方をチラッと見た。


「モリオン村までの案内をお願いできれば、俺たちが状況の確認に向いますよ。妖異がいたら駆除もしておきます」


 フワデラさんとヴィルフォラッシュに目を向けると、二人も同意してくれた。


「すまんな。では俺と後二人でモリオン村まで案内するとしよう」


 こうして、村長たち三人と俺とフワデラさんとヴィルフォラッシュは、村で用意してくれた馬を駆って、モリオン村へと向かった。




~ 野営 ~


 モリオン村は、リーコス村から北に馬で一日ほど行った場所にある。馬を駆っている途中、陽が落ちて来たので、その日は野営して翌早朝にモリオン村へ向かうことになった。


 野営の食事は、いつものようにネットスーパーで注文。異世界のおいしい食べ物に村長と若者二人が感動していたのは、もう定型と言って良い反応だった。


 食事を終えて、焚火を囲む。さすがに酔ってしまうのはマズイので、ノンアルコールビールを飲みながら、皆で色々な話をしていた。


 その間、俺は脳内でココロチンとシリルと会話をしていた。


(ココロ:スキル開発部の皆さんが、田中様の日ごろの差し入れのお礼にと、ちょっとしたスキルの改修をしてくれたみたいです)


(えぇ! それは本当に嬉しいんだけど、くれぐれも無理しないよう伝えておいてね)


(ココロ:わかりました。それで改修の内容なんですが)


(シリル:私がご案内します)


 ピロロン! と音がして、俺の視界にコンソールが現れて、そこにスキルの修正が表示された。


(シリル:まず【索敵】の際、マップ内の妖異マーカーが紫色のお化けアイコンで表示されます)


(へぇ、これまで敵と言えば人も妖異も同じ赤いバッテンだったから、区別できるのはいいね)


 早速俺は「索敵マップ」とつぶやいて【索敵】を発動させた。視界にミニマップが表示される。


 中央に俺の位置を示す白三角。その周囲に緑色の点が5つ並んでいた。これは焚火を囲んでいる面子だな。それと……


(なるほどなるほど、この紫のクラゲっぽいマークが妖異なのか)

 

(シリル:はい。マップ表示中に【幼女化ビーム】の恥ずかしいポーズを取ると、その有効範囲を確認することができます)


(恥ずかしいって……。まぁいいや。こんな感じ?)


 俺が立ち上がって腕を十字に交差させると、白三角マーカーから白い棒が伸びて行った。


 俺が急に立ち上がったので、村長たちがギョッとして腰を浮かせたが、フワデラさんが手で落ち着くように制止すると、静かに腰を下ろした。


 先ほどネットスーパーを利用した際、村長たちには支援精霊のことを話していたので、今の俺が精霊と会話中であることを理解したのだろう。


(この【幼女化ビーム】の有効範囲がわかるのいいね)


 俺は身体を回転させて、マップに表示されている白い棒を、紫色のお化けマークに重ねる。


「【幼女化ビーム!】(1秒)」

 

 ボンッと音がして、1秒後にまたボンッと音がした。


 紫色のお化けマークが消えた。


(これいいね! 目測で距離を見誤ることがなくなるわけだ!)


(シリル:はい。【幼女化】を範囲で発動する場合は、同心円が広がって有効範囲を確認することができます。ただ範囲発動のポーズを事前に登録しておく必要がありますので、お忘れなきよう)


 俺がシリルとの会話を終えて、村長たちに意識を向けると、全員が俺の方をジッと見つめていた。


 フワデラさんが、今の状態について解説してくれた。


「突然【幼女化ビーム】を出されたものですから、私を含めみんな驚いています」


「あっ、そうなの、ごめんごめん。【幼女化ビーム】をより正確に撃てるようになったんだ。だから試しに妖異に撃ってみたんだよ」


「そうですか……えっ?」

 

 フワデラさんが、俺の言葉を聞いて首を傾げる。


「いやだから、【幼女化ビーム】を妖異に撃って……ハッ!?」


「「妖異がいた!?」」


 見事に俺とフワデラさんの声が重なった。


 そして俺は慌てて妖異のマーカーが示されていた場所に駆け寄った。


 フワデラさんを始め、全員が俺の後を追ってくる。


 焚火から12メートル程の草陰。


 そこには、


 半魚人っぽい姿をした妖異の粘液まみれの遺体があった。

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