第88話 ダンジョンマスター

 扉を開くと部屋の中央にはフラフラになっているグリフォン、そしてその隣には青銅のゴーレムが立っていた。


 青銅のゴーレムがグリフォンをかばうようにして前に出る。


 と同時にフワデラさんが俺の視界から消えた。


 ザンッ!


 次の瞬間にはフワデラさんが青銅のゴーレムの目の前に立ち、刀を振り切っていた。


「岩切」


 フワデラさんがつぶやくと青銅のゴーレムの首が地面に落ちる。


 ゴオォォン!


「やったか!?」


 と叫んだタクスは後でちゃんと叱っておこう。


 青銅のゴーレムは首を失った身体で腕を振り上げてフワデラさんを攻撃する。フワデラさんは一歩引きながら、振り落とされる腕に合わせて刃を走らせた。


 ズドン!


 青銅のゴーレムの右腕が落ちる。


「ま、参った! 降参だ! お主たちの勝ちじゃ! 青銅もそれでいいじゃろ?」


 グリフォンが必死の形相で声を上げる。


「う、うむ」


 青銅のゴーレムが降参に同意すると天上から声が響いてくる。


「パーパパパーパーパーパー! ダンジョンを攻略しました。拠点32を開放しました。攻略された皆様にはダンジョンマスターの称号が与えられます」


 ゴゴゴゴゴ


 部屋の中央の床から祭壇のようなものが出現した。


「攻略報酬として賢者の石が付与されます」


 音声にルカが反応する。


「賢者の石じゃと!?」

「知っているのかルカちゃん!」


 俺の脊髄反射に対して、タクスが親指を立てる。なんだろう、分かってくれる人がいるだけでこんなに人生って素敵になるんだな。


「賢者の石は、魔力の根源に最も近いと言われている魔石じゃ。これを使うことで命そのものさえ作り出すことも可能と言われておる」


 そう言いながらルカが床に転がっているゴーレムの頭を指さす。


「そこのゴーレムも賢者の石の欠片を加工したものが使われておるのじゃろう。砂粒の如き小さな欠片でさえこのようなゴーレムを作り出すことができる。それが賢者の石なのじゃ」


「なるほど、それはすごい! いまいちよくわからんが凄いことはわかったん。だけど……」


(ココロ:賢者の石はスキルレベルをMAXに上げる際に必要になります)


(スキル:また加工することで最上位の治癒の魔石である身代わりの魔石を作ることも可能です)


(そ、そんなに凄い石なのか……いや、だけど、だけどね……)


 俺は祭壇の上を指さす。


「その賢者の石ってどこにあるの?」


 俺がグリフォンと青銅のゴーレム(の頭)に目を向けると、二人はサッと目を逸らせた。


「ぬっ……」


「そ、それは……」


 俺たちのジト目を受けてグリフォンとゴーレムが気まずそうな表情になる。


「お待たせしましたぁぁぁ!」


 突然、奥の壁が回転し、そこから銀髪の女性が飛び込んできた。


「「「「えっ?」」」」


 銀髪の女性を含めたその部屋にいる全員の目が点になって時間が静止する。


「あっ、あー、なるほど」


 最初に動いたのは銀髪の女性だった。とことこと部屋の中央まで歩き、懐から青く輝く石を取り出して祭壇の上に置く。


 顔に掛かっている髪を振り払って、パッ、パッと身なりを整えてから、俺たちに向かって言った。


「さぁ冒険者たち、ダンジョン攻略の報酬を受け取るのです」


 銀髪の女性がなんとか格好を付けようとしているのは伝わってきた。


「「シュモネーさまぁぁぁぁぁ!」」


 グリフォンと青銅のゴーレムが、嬉しさと恨みがましさが混じり合った絶叫を挙げた。




 ~ ダンジョンB12F 祭壇の間 ~


  俺たちは、シュモネーという銀髪の女性とグリフォン、そして青銅のゴーレムと共に車座になってガツンと愛媛ミカンを齧っていた。


「なるほど、それでシュモネーさんは冒険者の報酬になる賢者の石を探し回って遅れてしまったと」


「はい。皆様をお待たせしてしまって大変申し訳ありませんでした」


 ペコリと頭を下げる。カワイイ。珍しいオレンジ色の瞳がシュモネーの神秘的な美しさを引き立てている。スタイルもいいし……。


 グイッ!


 ライラが俺に身体を寄せてくる。俺を見上げるその顔はほんの少し頬が膨らんでいた。嫉妬するライラやばカワすぐる。ヤバイ、下半身に燃料注入開始……。


「フワデラ!? もしかしてアンゴールの方ですか?」


 シュモネーが突然大声を上げてくれたおかげで、俺はギリ下半身への燃料注入を中断することができた。ホッとした。


 気が付くとシュモネーがフワデラさんの横で身体をぴったりと押し付けている。


「あ、あぁ、そうだが」


 フワデラさんがシュモネーの密着にかなり動揺している。ピコーンと俺は閃いた。そのまま視線をタクスに向けるとヤツも頷く。やはりそうか……。


 フワデラさん……DTだな。


「あ、ごめんなさい! あんまり嬉しかったのでご無礼を」


 シュモネーが身を離す。しかし、彼女の両手はフワデラさんの腕を掴んだままだった。


「アンゴールではフワデラ家の方々に大変お世話になったもので、ずっとずっといつかそのお返しができればと思っていたのです」


「そ、そうか……。こんなところで我が家の縁者と遭うとは、世の中は意外と狭いものだな」


 フワデラさんがガチガチに固まる様子を俺とタクスはニタニタと笑って楽しむ。


「フワデラ様、何かお困りのことがございましたら何でもシュモネーにおっしゃってくださいまし。必ずやお力になってみせますわ!」


 この銀髪も妙にテンション高いな。もしかして……乙女なのだろうか。


「おいフワデラ! 賢者の石をもう一つ寄越せと銀髪に言うのじゃ!」


 ルカが小声でフワデラさんに耳打ちする。さすがルカちゃん、吹っ掛けるなー。


「はい。どうぞ」


 シュモネーが懐から賢者の石を取り出してフワデラさんの手に握らせた。


「「「「へっ!?」」」」

 

 どんだけ~! と俺は心の中でシュモネーにツッコミを入れた。



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