第23話 ゴブリン洞窟の戦い3
まずマーカスが手斧を投げて扉の左側にいるゴブリンを絶命させ、ネフューの矢がもう一方を射抜いた。
ゴブリンが倒れ込む前に二人が駆け寄って死体を掴む。
扉の前に立った二人は息を合わせて扉を蹴り開き、その中にゴブリンの死体を投げ入れた。マーカスは俺に視線を一瞬送った後、すぐにネフューと共に中へと飛び込んでいく。
そこから先は全てがスローモーションで進んでいった。
俺だって中身は大人だし、残虐なゴブリンが捕らえた人間にR18Gでどんなことをするのか少しくらいは想像できる。
そして飛び込んだ先には、俺の想像なんて遥かに超える地獄絵図が広がっていることも分かってる。
だから俺はマーカスが指示した通り、ゴブリン以外は一切考えないことに決めた。
血と糞尿の臭いが俺の意識を現実に戻そうとするのに逆らって、ただ視界に移る索敵マップとゴブリンの位置を照合することに集中する。
マーカスとネフューが俺の前にいなかったら、きっと足が竦んで動けなくなっていたに違いない。だが彼らの背中が見えていたから、俺はゴブリンに向かって走り寄ることができた。
だから、床に転がる白い手首が視界に入っても無視できた。
だから、足元に転がっている生首と目が合っても無視できた。
だから、視界の端に浮かび上がる白い裸体とその上の影を捉えても無視できた。
正面にいるゴブリンだけに意識を集中することができた。
「【幼女化ビーム】!!」
俺が手を正面のゴブリンに向けて叫ぶと、手からジグザグの光線が出てゴブリンに命中する。
ボンッ!と煙が出てゴブリンが緑色の幼女と化した。
「よし、次だ坊主!」
俺は意識を次のゴブリンへと向け【幼女化ビーム】を放つ。視界の端でマーカスの剣が緑色した幼女の首を刎ねるのが見えた。
「シンイチ!」
ネフューの声に反応して俺は次のゴブリンへと意識を向け【幼女化ビーム】を放った。
幼女の額をネフューの矢が貫く。
それ以降は、もう迷うことなく【幼女化ビーム】を放ち続けた。
「これで最後!」
6回目の【幼女化ビーム】で必要な魔力デポジットが残存魔力を超えた。視界にはまだ赤い点が二つ残っていたが、それもすぐに消える。
「赤が全部消えた」
俺がつぶやくと、マーカスが俺の傍らにやってきて肩に手を乗せる。
「よくやった。お前はもう一人前の戦士だ」
「俺が? 正直に告白すると、俺のズボンはびしょびしょなんだけど」
マーカスが俺をまじまじと見てニヤリと笑った。
「そいつは大したもんだ。俺のときはそれだけじゃ済まなかったからな!」
「ははは……マジで?」
「ああ、だがその時は俺だけじゃなかったから、そのままみんなで示し合わせてなかったことにしたけどな」
「ぼくもシンイチを一人前の戦士として認めるよ。シンイチのスキルがなかったら、酷い被害が出ていたかもしれない」
ネフューが俺の方に向き直って言った。
「最悪、ぼくらだって犠牲者に加わっていたかもしれない」
「兄ちゃん! 大丈夫か! 最初に一番でっかいゴブリンに向かっていくなんて、さすが兄ちゃんだな!」
「シンイチ、すごい、ゆうき、すごい」
「えっ、そうなの?」
俺がマーカスの方を向いて尋ねると、
「そうだぜ。たぶんそいつがここのリーダーだったと思う。あの図体の大きなゴブリンが幼女になったのを見て、他の連中が怯んで逃げようとしていたからな」
「俺、マーカスの後ろを付いて行っただけなんだけど」
マーカスが俺の顔を見てウィンクした。
「まぁ結果良ければなんとやらだ」
おっさん……俺を一番危険な奴にぶつけようとしたな。
「ゴブリンってのは、とにかく頭を真っ先に潰すのが一番なんだよ」
「人の心を読むのは止めろ!」
「なら顔に出すんじゃねーよwww まぁ、それはともかく……」
マーカスが周囲を見渡しながら言った。
「後始末が大変だな」
マーカスの言葉を聞いた瞬間、俺の意識がようやく戦闘モードから通常モードへと切り替わった。
これまでゴブリンだけしか見ないようにしていた意識が、周囲の状況を徐々に認識し始める。
「ネフュー! おまえ、坊主を連れて、ここ以外にゴブリンがいないか探ってくれ」
「わかった。シンイチ、行くぞ!」
「あっ、あぁ……」
俺はなるべく周りを見ないようにして、ネフューの後について部屋を出た。
扉を背にしたとき、部屋の中から複数の呻き声がしていることに、俺はようやく気が付いた。
結果的に、この洞窟にはもうゴブリンは一匹も残っていなかった。
生き残っていた捕虜と犠牲者の遺体は、マーカスやコボルトたちの手によって、洞窟の外へと運びだされた。
その間、俺は洞窟の入り口で座ったまま、黙々と作業が行われるのをじっと見つめていた。
最後に洞窟から出てきたのは、ハーレムパーティのリーダーだった男だ。
男はマーカスに支えられて、片足を引きずりながらゆっくりと歩いていた。
男の顔には一切の表情が浮かんでおらず、光を失った目は虚ろで真っ暗な穴のように見えた。
そして、かつてハーレムパーティーのリーダーだったその男は、その左腕の肘から先を失っていた。
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