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「それから、そのっ、背中の傷……隆二から聞いた」

「ん。そっか。彼は真面目だね。ちゃんと話してくれたんだ。ならいい」


 可憐は立ち上がると、オレンジジュースだけでは喉の渇きが癒えなかったからしい、机の上の2Lのペットボトルの水を豪快に飲んだ。


「姉ちゃん……僕……本当に……ごめん」

「なんだよ、別に謝って欲しくて隆二さんに託したわけじゃないぞ」


 可憐は僕にコツンと頭に拳骨をぶつけた。


「うん」

「お前が謝る必要もないし気に病むこともない。悪いのはあいつらだしね」

「でも、本来なら、僕が受けるべき傷だったんだ」

「そんなわけあるか、お前は決闘なんかしないだろ? あたしだから受けただけだよ、それに……お前じゃなくてよかった」

「可憐……」

「それにお前は未来ある俳優さんだ。体は綺麗なままでいなきゃな」


 軽くウィンクされて、僕はまた目の前が霞んできた。

 涙が溢れて止まらない。そんな僕の涙を可憐は何も言わず、汗臭いタオルでぐしゃっと拭った。

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