万引きは犯罪ですっ!〜スキルを持つ俺の万引きGメン奮闘記〜

八隣 碌

第1話 店内ヒーロー万引きGメン!

 白石 誠 27歳は今日は本屋の中を見回っている。

あさ10時開店の店には既にお客さんが立ち読みを始めている。

パジャマの様な服、スーツ、お出かけの為かおめかしした人多種多様だ。


本屋で立ち読みをする理由は人それぞれだろう。

買い物ついで、目当ての書籍、暇つぶし、そして…万引きに盗撮。

今日は俺の体験談を思い出しながら話していこうと思う。


 だが思い出に集中して万引きを逃す訳にもいかない。目は常に光らせておく必要がある。

但し、これは素人だ。余談だが本屋で万引きGメンをしていると、お客のふりをする為立ち読みをすることがある。俺はこの店で5年間続けている。だから既にこの本屋の中にある様々な書籍を網羅しているのだ。


ライトノベルというのはGメンになって初めて読んだがとても面白かった。独特な世界観がこの疲れる現代社会において現実逃避出来る娯楽だと感じた。魔法やスキル。この概念はとても素晴らしい。

ドラえもんの秘密道具の中に【もしもボックス】というのがあるが、もし今使えるなら「もしも魔法とスキルのある世界だったら!」と俺は叫ぶだろう。


だがここだけの話俺には特殊スキルがある。それは【万引きする人物が分かる】というスキルだ。

まぁカッコつけてみたが、これは経験則からなる技術の様な物だろう。

だが、店内を徘徊せずとも、入店する瞬間を見れば万引きするかどうかかなり高確率で分かる。


例えば、店内に入った瞬間目を上に向ける奴。これは読者でも分かるだろう。単純に防犯カメラを探しているのだ。奴らは自らの罪を暴こうとする物に敏感だ。

これは多くの万引き犯がもつ【探知】というスキルだろう。


奴らの【探知】スキルはかなり厄介で、高レベルのスキル持ちになるとGメンすらも探し当ててしまう。


 おっと。こんな話をしていたら早速俺のスキル【万引きする人物が分かる】に引っ掛かった奴が着たようだ。早速尾行を始める。


【鑑定】スキルを使い万引き犯(仮)のレベルを調べてみる。


――鑑定結果

性別:女

年齢:40代後半

状態:服装や装飾品からお金は持っている。目はキョロキョロと落ちつかない。歩く速度も若干早く、緊張からか肩が強張っている。


総合評価:万引き初心者


―――


以上が【鑑定】の結果だ。この手はストレスから心に闇が宿ったばかりのレベル1~3といったとこだ。

高レベルGメンの俺の敵ではない。だが低レベルでもスキル如何によっては状況は変わる。

念の為【隠密】のスキルを使い商品棚に隠れ【無音】で足跡を消し【擬態】で買い物客に扮装した。


万引き犯(仮)の女は雑誌を手に取ってパラパラ捲っては置いて違う本を手にとってはパラパラ捲ってを繰り返す。どうやら物色しているみたいだ。

手に取る本に統一感は無い。


隠しやすさを考えているのかもしれない。まだまだ【隠匿】のスキルレベルが低いのだろう。

こういった手合いは大抵小説を選ぶ傾向が高い。

商品が欲しいわけではない、ただただスリルを楽しみたいだけなのだ。


万引き犯はスキル【探知】を使い死角を探している。

犯行まではさほど時間は掛からないだろう。

そしてタイトルも内容も確認せず歩きながら本棚から適当に文庫を手に取る。


すかさず俺は時計を確認して時刻を記録する。

万引きを立証する為には三原則がある。


①手に商品を取った時間(これを着手という)

②商品を隠した時間(これを現認という)

③そして声を掛けて捕まえた時間(これを捕捉という)


この三原則が成立して初めて立件できるのだ。

万引き犯(仮)は店内徘徊時に見つけたであろう死角に素早く移動する。

だが悲しきかな、まだまだレベルが低く行動に怪しさが溢れ出てしまっている。


そして店内の角、レジからも離れ、防犯カメラも映らない場所へ移動して持っていた手持ちカバンに隠匿(隠す)したのを確認した。すかさず時計で時間を確認して控える。


後はこの万引き犯が店外へ出るのを待つだけだ。

いつでもそうだが、万引きを確認した瞬間は俺でもアドレナリンどばどばで脈が上がり呼吸が荒くなる。だが、すぐさまスキル【鎮静】を発動して平常時へと状態を戻す。


万引き犯は店から出るまで挙動不審になりながら辺りを警戒して外に出ていった。

俺はスキル【隠密】と【高速移動】を使い一気に追いつき、スキル【交渉】を使い話しかけた。


「お客様~大変申し訳ございませんがお会計をお忘れになっている商品がバックの中に残っているようなので事務所までご同行願います」


端的に要点を丁寧に伝える。これこそ俺が高レベルGメンだからこそなせる業なのだ。

万引き犯は項垂れ「すいません」を繰り返しながらトボトボ歩いて事務所までついてきた。


今回の万引き犯はまだ低レベルなので倒すのは容易い。

事務所で名前や住所 年齢などを聞いて親族に迎えに来させた。

万引き犯のレベル低すぎて、警察呼んでしまうと店に損失が出てしまう。

事情聴取に店長達の時間を割くからだ。


俺は再び戦場(店内)へと戻った。

大体1日1~3体のモンスターとエンカウントする。

スキル【万引きする人物が分かる】を駆使しながら次の獲物を探す。

だが今日は不思議と探知網に獲物がかからない。仕方ないので一旦店内を探索する事にした。

店内への入り口は全部で4か所ある。俺が見張っていたのはメインゲートなので他の入り口から入り込んでる奴を探し出す事にした。

だが店内に入った万引き犯は大抵が【お客擬態】を発動してしまうため見つけ出すのが難しくなる。

仕方ないので俺は【魔眼】を使う事にした。これはかなりマジックポイント消費する。使用後は眼精疲労が半端ないのだ。だがプロとして弱音を吐くにはいかない。

【魔眼】を発動した。使用中は微妙な動きの違和感などを見極めることが出来る。しかし目が合うと【魔眼】の使用は見破られてしまう。大抵は【隠密】と合わせて使用するのだ。


【魔眼】使用は効果があった。ついに万引き犯(仮)を探し当てた。犯行はまだしていないようだ。なぜ分かったかというと店員【魅了】のスキルを使用していたのだ。

自分が警戒されてないか伺いたい心理が働く為、店員と仲良さげに話し込むのだ。


【魅了】を使い店員に怪しくないですよ~と刷り込むのだ。

だが高レベルGメンの俺は【魅了】程度なら看破できる。

対象者にバレないよう【隠密】【無音】【魔眼】の同時発動で尾行を続ける。


この対象者は【不動】のスキルを持っているようだ。挙動不審な事をしない。

高レベルの万引き犯だ。


この手にはこちらも今のスキルだけでは少々不安だ。

追加スキル【擬態】と【アイテム召喚】で複数の本を適当に手に持ち買い物客に扮するのだ。

だがこの対象者は思ってる以上に強敵だった。


まさか【探知】の高レベル所有者だったのだ。突然振り返り俺の方を見た。

しかし俺も高レベルGメンだ。【無面】のスキルをすぐさま発動してポーカーフェースを維持する。

Gメンとバレなかったのだろう。再び対象者が動き出した。

だが一度姿を見られてしまったので次見られた時には警戒される。


アルティメットスキルの発動を余儀なくされた。

【色変わり】のスキルだ。これを発動する事で洋服の色を一度だけ変えることが出来るのだ。

躊躇している猶予はない。すぐさま発動し追跡を続けた。


流石に高レベル万引き犯。そう易々とは盗る事はない。既に店内の尾行は40分を超えていた。

だが諦めない。ここで諦めてしまえばこの万引き犯はさらにレベルを上げてしまう。

そうなるとマズイ。俺の天敵ともいえる究極犯罪形態へ移行するのだけは避けなくては。

〖万引きGメンを狩る者〗に進化されてはこちらが殺られる場合もある。

正直俺の仲間も数名殺られてしまった。


万引き犯を見つけたと思い声を掛けて事務所に同行してもらう際、もしそれが誤認逮捕だった場合、逆に店側がペナルティーを負う。

この仕組みを逆手に取り万引きGメンを狩るのだ。

アルティメットスキル【逮捕監禁罪】の使用。これは防ぐスキルが無いのだ。


だから、この万引き犯は必ず今回で捕まえる。そう覚悟を決めて【魔眼】を発動し続ける。

追跡中の万引き犯(仮)は目にも止まらぬ速さで本を棚から抜き取り、角を曲がる瞬間に隠匿した。


常人では目で追う事すら出来ないだろう。

【魔眼】を使っていたことが勝因だった。


万引き犯は流れるように店を出た。店を出る瞬間後ろを何度も確認して追跡者がいないか確認していた。そこまでは俺も読んでいたので、距離を離して追跡していたのだ。

そして【神速】を発動し一瞬で追いつくと、すぐさま肩を掴み捕捉した。


だが流石高レベル万引き犯。俺に対してすぐさま【魅了】を使用してきた。


「あぁ~違うんですぅ~ちょっとお財布忘れちゃってぇ取りに行こうと思っててぇ~」


「まだ僕何も言ってませんよ?声を掛けただけです。自ら自白するとは詰めが甘いですね。とりあえず事務所まで来てもらいましょう」


そのまま事務所へと連れて帰ったが、【魅了】や【偽称】【偽涙】など様々なスキルを使用し、一般人の店員たちを味方につけようと翻弄してきたがそうはいかない。


【強制退室】のスキルで従業員を部屋から出し、召喚魔法で【警察官】を呼び出した。

流石に被害額は少ないが悪質すぎる。そのまま万引き犯は謝る事も無く警察署へと連行されていったのだった。


俺の1日がようやく終わった。今日はスキルの使い過ぎで体が悲鳴を上げている。

また明日も1日頑張る為に今日はすぐ寝よう。そう心に決めて退店のカードを押すのだった…

万引き犯との戦いはまだまだ続く…



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