忘れられない…
〈タツヤ視点〉
タツヤ「・・・・アイツ…」
去年同様、企業説明会の担当を任されて
嫌々ながら仕事をしていると
陽兎の姿を見て驚いたが
何でここにいるのかも直ぐに分かり
「はぁー…」とタメ息を吐いた…
(・・・・まだ探してんのか… )
陽兎は企業説明会の会場内を
首をキョロキョロと動かしながら歩いていて
明らかに誰かを探している…
タツヤ「・・・・・・」
年末に帰って来ても
三ヶ日が明けると直ぐに帰ろうとする
陽兎を見て、白玉とデートをするのかと思い
またじーちゃん家まで送ってやったが…
多分…いや間違いなく白玉とは別れている…
じーちゃんも気づいてるようだったしな…
陽兎はデートに行ったんじゃなく
去年の様に白玉が買い物に来るじゃないかと思い
あのショッピングセンターに探しに行ったんだろう…
( 一方的にフラれたか… )
俺の視線に何か感じたのか
陽兎はパッとコッチに顔を向けて
明らかに気まずい顔をしている
いくら規模のでかい説明会とはいえ
こんなに離れた場所に来なくとも
陽兎の地域側でも
それなりの企業説明会は行われている…
そしてここに集まってるのはそこそこ大手で
正直陽兎の大学からの入社率は…低い…
タツヤ「 ・・・・そんなに会いたいか…」
陽兎と俺の距離は遠く
コレだけの人混みじゃ今の俺の呟きは聞こえない…
だけど陽兎は俺の口の動きで分かったのか
さっきまでの気不味そうな雰囲気は消え
真っ直ぐと俺の目を見返している…
タツヤ「・・・・・・」
白玉はここにはいねぇ…
昨日この会場に着いて直ぐに俺も探したが
白玉の会社からは去年来ていた二人じゃなく
別の担当者が来ていた…
陽兎が自分を探し回る事を考えて
ワザと担当を外れたのか…
陽兎の兄である俺に会いたくなかったのか…
タツヤ「・・・・来い…」
また小さくそう呟いてから
後輩に15分抜けると言って会場から出て行き
一回ロビーの脇にある自販機の前に達小銭を入れた
カツっと聞こえた足音に向かって
「どれがいい?」と聞くと後ろから手が伸びてきて
微糖の缶コーヒーのボタンを押した…
( ・・・・微糖になったのか… )
ガコンッと落ちてきた缶コーヒーを腰をかがめて
取り出し後ろの陽兎の方を向き差し出すと…
ハルト「ありがとう…」
タツヤ「・・・・どうやってきたんだ?」
ハルト「・・・・じーちゃんに車を借りて…」
タツヤ「・・・・・・」
去年の初売りに連れて行った時の陽兎は
甘たらしいコーヒーを飲んでいて…
その缶コーヒーを両手で握りガキみたいな顔をして
俺の助手席に座っていたのに…
今目の前にいる陽兎は
あのガキくさい雰囲気が抜け
リクルート用のスーツをそれなりに着こなし
少し大人になっているのが分かった…
タツヤ「白玉を探しに来たのか?」
俺が自販機の横にあるベンチに腰を降ろして
そう問いかけると陽兎も隣りに座り
「なんでヒナがいるって知ってるの?」と
質問しかえしてきた
タツヤ「あんだけキョロキョロしてれば分かる…」
ハルト「・・・・そう…」
タツヤ「・・お前ちゃんと自分の就活してるのか?」
ハルト「・・してるよ…」
タツヤ「どこ受けるんだ」
俺の問いかけにだまりこんだのを見て
「やっぱりな…」と呟き手に握っている
ブラックコーヒーを一口飲んだ
タツヤ「白玉を見つけてから始める気か?」
ハルト「・・・・」
タツヤ「見つからなかったらどーする気だ?」
陽兎は顔を下げたまま
俺の問いかけには何も答えず
「はぁ…」と呆れたタメ息がでた…
タツヤ「・・・・なんてフラれたんだ…」
ハルト「・・・・素敵な大人になってねって…」
タツヤ「・・素敵な大人ね…」
何でそうなったのかは分からないが…
自分は社会人として、陽兎には大学生として
お互いそれぞれの道に戻ろうって意味なのかと思った…
タツヤ「・・・・会ってどうしたいんだ?」
ハルト「・・・・会って…話がしたい…」
タツヤ「・・もう別れてんのに…何の話があるんだ…」
ハルト「あの日…ヒナは笑ってたんだ…」
タツヤ「・・・・・・」
ハルト「前みたいに笑ってて…甘えてきたんだ…
だから、だからヒナも俺の事を…」
タツヤ「・・・・・・」
( ・・・・尚更だな… )
陽兎の言う通り
白玉は陽兎への想いが
なくなったわけじゃないんだろうが…
大学生の陽兎と付き合う事に
何か問題が生じたか…
陽兎との未来が想像出来ずに
離れたんだと思った…
( ・・・・30歳だったな… )
ハルト「・・・・会いたいんだ…」
きっと…
白玉は陽兎に会いたがっていないだろう
だからこそ今日も来ていないんだろうと思った…
タツヤ「陽兎…探すのはもうやめろ…」
ハルト「・・・・・・」
タツヤ「白玉が離れるのを選んだんなら…
お前一人が追いかけても意味はねぇ…
それよりも今やらなきゃいけねー事をしろ」
ハルト「だけどッ!!」
タツヤ「就職した先に白玉がいるのか不安だから
後回しにしてんじゃないのか?」
ハルト「・・・・だって…」
タツヤ「見つからなかったらどーすんだ?
じーちゃんの所に住み続けて
どっかでバイトでもすんのか!?」
ハルト「約束したんだよッ!
来年の春になったら一緒に住むって…」
タツヤ「ガキみてぇなダダこねるなッ!
白玉は大学生のお前とは
離れた道を選んだんだ
好きだからとかは関係ねぇんだよ
いい加減目覚ましてやる事をしろッ!!」
俺は立ち上がって
飲み終えた缶をゴミ箱へと入れ
ベンチで俯いたままの陽兎に顔を向けた…
タツヤ「就活で来たんじゃないなら帰れ…
真面目に来てる学生にも企業側にも迷惑だ」
ハルト「・・・・・・」
そう言ってそのまま会場へと戻って行きながら
白玉の会社のブースに目を向けて
陽兎に白玉の会社を教えるわけにはいかないと思った…
教えたらアイツは白玉の会社に
会いに行くような気がして
同じ社会人の立場としてそんな恥ずかしい真似は
やめてほしかったからだ…
タツヤ「もう…諦めろ…」
そう呟いてから
自分のブースへと戻った…
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