Play1♨「チュートリアル」

♨『ようやく始めれるぞぉおおおおおッ!』

✿『うっさーい』

☀『テンション高いなぁ』

☘『ほんと』


 パソコンの画面。その中央には、三頭身の人型のキャラクターが居座っている。

 タイニー。それがこのキャラクターの種としての名前であり、そしてこのゲーム≪ちいさきもの・オンライン≫において、プレイヤーの分身となる存在だ。

 現在はいわゆるキャラメイク中。画面左側で並ぶ欄の最上部には≪名前・ぬるめ≫と表されている。

 どうやらかなり優柔不断な正確らしく、何度も何度も容姿の変更が繰り返され、この画面に至ってから既に1時間。

 特に決めかねていた≪肩書き≫の欄を先ほど≪羊飼い≫で埋めると、カーソルは最下段の≪ゲームを始める≫に合わせられた。

 画面中央のタイニーは、肩書きの選択から少し遅れて姿を変える。

 首に笛を下げ、胸の高さ程ある羊を引きつれる羊飼い。羊が彼の周囲をぐるりと回り、羊飼いはそれを目で追っている。


♨『よっしゃ! 皆の者準備は良いか!?』

✿『てか今更なんだけどさ、ボイス繋げるの早くない?』

☀『おーグラ結構いいねぇ』

☘『チュートリアルあるし、当分は一緒にプレイできない。相変わらず考えなし』

♨『う、うっせぇな! 冒険を始める感動を共有したかったんだよ! つか一人、もう始めてるよな!?』

✿『実を言えばウチも始めてるけどねー』

☘『同じく』

♨『一緒に始めようって言ったじゃぁあああん!?』


 乱暴に≪ゲームを始める≫が選択され、ウィンドウが画面中央にポップした。


 ——ゲームを始めますか? はい/いいえ


♨『ハイッ! 始めますッ!』

✿『あーみんなちっこくてかわいー』

☀『へぇ、お金は必要ないんだ。お? このローブ男怪しいぞ?』

☘『熟練度上がった』

♨『皆さん一体、どこまで進めちゃってます!?』


          ♨✿☀☘


 ——ちいさきもの・オンライン


 壮大な音楽と共に、タイトルが大きく画面に表示される。

 その背景には島を空から眺めた様子が映し出され、タイトルがフェードアウトしていくと、島の一部分へとカメラがズームアップした。


「……?」


 森の中で倒れていた一人のタイニーは体を起こし、不思議そうに辺りを見渡した。その側では、彼の従者である羊が身をすり寄せてくる。


♨『おい始まったぞ! 始まったぞ!』

✿『あーそのあとね、街に連れてかれてー』

♨『やめろ!? ネタバレすんな!?』


 ——森


 画面右下にフィールド名が表示される。

 森の中では泉でのどを潤す鹿や、木に空けた巣穴に食糧を貯えるリスなど、さまざまな動物たちが生活していた。

 羊飼いの≪ぬるめ≫はしばらくその場で呆けていると、ざっざっ、という足音が聞こえてくる。


「おや? こんなところで何をしている?」


 話しかけてきたのは、ノコギリを持ちひげを蓄えたタイニーだ。


♨『オッサン出て来たぞ! ノコギリ持ってるって事はこいつと戦うのか!? それとも仲間にするのか!?』

☘『街に連れて行ってもらう』

♨『あ、うん。言ってたね……』


 話しかけられても返事をしない羊飼いを不思議に思ったノコギリ持ちのタイニーは、更に質問を重ねた。


「もしや≪はぐれ≫か? 言葉は喋れるのか?」


 すると画面に選択肢が現れる。


 ——自己紹介をする/黙り込む


♨『まあ無難に名乗っとくか』


「ほう、≪ぬるめ≫と言うのか。それに≪羊飼い≫の≪肩書き≫持ちとな。だったら≪コネクション≫はいないのか?」


♨『はぐれは大体ニュアンスで分かったけど、コネクションってなんだ?』

☀『なんか、肩書きを持ったタイニーは、同志を集めて一緒に暮らす習性があるらしいよ。ありていに言えば子分だね』

☘『子分をこき使って村作ったり、採取や農業させたり出来る』

♨『あー、そこがスローライフ要素か』


 羊飼いは首を横に振って、コネクションの不在を伝える。すると、相手は更に目を丸くした。


「これはまた珍しい。というか聞いた事ないの。≪はぐれ≫で≪肩書き≫を持っているなんて。≪はぐれ≫という事は、ここに来た記憶もないのか?」

「………」

「とりあえずは≪街≫に行くか。なに安心せい。記憶がなかろうと、皆お前さんの事を快く迎え入れてくれるわい。ってああ、忘れておった」


 一度動かしかけた足を止めて振り向くと、壮年のタイニーは皮手袋を嵌めた右手を差し出した。


「ワシは≪草木伐り≫のゲンだ。よろしくの」


 ノコギリを持ったタイニー——ゲンの手を取ると、彼はにこやかな表情を向け、案内を再開する。


「さあついて来い」


♨『……ところでいつ、一緒にプレイ出来るかな?』

☘『チュートリアル終わったらってさっきも言った』

☀『ちなみに俺終わってるよー』

✿『ウチはたぶんもうすぐかな?』

☘『新しい技覚えた』

♨『ねえ、もうちょっと足並み揃えて行きません?』





——TIPS——

【タイニー】

 小さな体を持つ種族。互いに協力し合い、一つの技術を極めた≪肩書き≫を持つ者は≪コネクション≫という集合体を作り、志を同じくしたタイニーたちを率いる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る