第54話 在りし日の…

「人もいるんで、桜雪さん、しばらく休んでないから明日バイト休みでお願いします」

 急なバイトのキャンセル、とはいえ、やることと言えば…製作途中のプラモデルを作ることくらいである。

 それすら塗装してしまえば乾燥待ちで、やることもない。


 とりあえずリビングの掃除を始めてみたのだ。


「ん?」

 多人数掛けのソファを退かすと「ネズミの玩具」が出てきた。

 チョビさんが遊んでスポッと入れてしまったのか?

「なぁーっ」

 ガサガサ掃除していたので、チョビさんを起こしてしまったようだ。

 眠そうにリビングに入ってきて「ネズミの玩具」をクンクンと嗅いでいる。

 少し遊んでいたが、すぐに飽きてしまった。

 あまりチョビさんは、この玩具で遊ばないのだ。

「もしかしたら…」

『クロさん』かな。

 クロさんは、この玩具が好きで、よく遊んでいた。

 何かの拍子でソファの下に入って、そのまま忘れたか、あるいは…

『クロさん』は気に入っている玩具を隠すクセがある。

 隠したまま、大体忘れるのだが…。

 この玩具も、もしかしたら。

「クロさん…」

 少し肌寒い休日、ホコリ塗れのネコの玩具に想いを馳せた日の夕方。

「あの臆病で大きな黒猫が、とても懐かしい…」

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