第6話 迷える五行
「桃莉さん、よろしくお願い致します」
「ああ。互いに悔いのないように」
ROUND1
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『さあ準決勝第一試合が始まりました! 前回までのすべての対決を相手の棄権で勝ち進んできた犬神選手と、前回一撃で大逆転勝利を収めた大川選手の好カードです!』
『大川選手の抜刀術のようなインパクトやロマンはさる事ながら、対する犬神選手がいかにして戦意喪失に至らしめるのか注目しましょう』
昨日の戦いを見た限りでは、確か犬神は武器を持たない術の使い手。それを武器で弾く事は可能なのかどうか。まずはそこからだな。
『大川選手、何か考えがあるのかその場で構えています』
『犬神選手は術師。距離が開けば開くほど厄介な相手です。ここは大胆に攻めて行ってもいいかもしれませんよ』
犬神の周囲から燃えたぎる炎のようなものが浮かび上がると、こちらへと襲い掛かる。
『犬神選手のファーストアタック! 対する大川選手、振り払うような動作を見せるが……おおっとこれはすりぬけていく!』
この後もあらゆる攻撃が飛んでくるものの、弾くには至らなかった。
『大川選手、目論見が外れたのか次々とダメージが蓄積していきます!』
『犬神選手は、これまでに
地を這う蔦の動きは大体掴んだ。攻撃を弾くのは諦めて、接近戦に弱いだろう術師の実力を測ってみせる。
『またもや蔦が伸びていき大川選手の足元を狙う! が、ここで抜刀! それを真っ二つに断ち切りすぐさま納刀、一気に犬神選手の方へと駆けていきます!』
『迷いのない太刀筋。早くも順応してきていますね』
犬神には防御策が恐らくあるのだろう。後退するような動きはない。何を仕込んでいるのか見せてもらおう。
『さあ大川選手、攻撃射程内に入りました! 素早い抜き身が犬神選手を襲う!』
『対する犬神選手がどう対処するのか見守りましょう』
ガキンと何かに衝突するような手応えを体全体で受け止める。目の前では大きな塊が刀身の行く道を阻んでいた。
『まるで土の盾のような物体が大川選手の攻撃を防いでいます! さて、大川選手、攻撃を重ねますがびくともしないぞ!?』
これでは
ましてや犬神からはやはり何の表情も読み取る事はできない。これでは揺さぶりも掛けられそうにない、やりづらい相手だ。
『反撃と言わんばかりに犬神選手、なにやら金属片のようなものを操り雨のように浴びせます!』
『火、水、木、土、金。これらは五行の属性、つまり彼は
この攻撃を
ROUND2
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犬神紫苑 |||||||
大川桃莉 |||||
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『第二ラウンドが始まりました。今のところ犬神選手がリードしています! 先ほどの展開を見る限りこの後も有利に事を運んでいきそうです!』
『しかしながら大川選手には一撃がありますからね。油断はできませんよ』
物事には必ず
『大川選手、ここは一転して突き攻撃だ! しかしながらそれを
その盾見切った。
『力強い突きがついに強固な盾を打ち砕いた! だが次々と盾が生成されていく! だが、それにも負ける事なく続々と無に帰す!』
『瞬時に
防御策を封じたのにも関わらず、それでも動かないか。
納刀。
多少強引だが局面を変えてみせよう。
『おおっと、大川選手がここで姿を消す! ようやく来たか、これは決めにいくつもりか!?』
背後に回り一気に刀身を引き抜く。
――絶。
手応えあり。
『これは決まったか! いや。体力を大幅に持っていかれましたが、犬神選手これを耐えます!?』
『生み出した金属が剣のような形を取って防いだようですね。そのため致命傷を
その瞬間、振り返りざまに犬神は口角だけをあげた。身震いとともに一旦距離を置く。何が来る。
次第に意識がぼやけていくのを感じた。
『どうしたのでしょうか、両者動きません! これは一体――』
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*****
「桃莉ー! 大変だよ!」
ここは……道場。そうか、俺は次の戦いに向けて稽古をしていたんだったな。
「ねえ、聞いてる?」
その声をあえて無視して水飲み場へ向かう。
「おーい、待ってよー。わたしが急いでここまで来た理由、知りたくないわけ?」
「どうせいつもの買出し手伝ってくれ、とかだろ。それの何に
言って呆れながら彼女に視線を送る。
「それはそれで大変だけどさ。もっと、もーっとだよ。これからわたしが言う事、聞かないと絶対に後悔すると思うよ?」
「まったく大げさだな。わかったよ」
対する彼女は咳払いを一つして、
「それでは発表します。しますよ、いいですか?」
「はいはい。わかったわかった、早くしてくれ」
「桃莉のお父さんを追い詰めた男を見つけたよ」
彼女はこれまでに見た事のないくらい冷徹な顔をしていた。
「どこだ、案内してくれ」
「ついてきて」
彼女に連れられて道場裏の山道を進む。しばらくしたところで話し声が聞こえると、木の陰に隠れて様子を伺う。
「あんな小さな道場に何があるんですかね?」
「秘伝の書がどこかに隠されてるはずでなあ。あれは高く売れるぜ?」
「ほうほう、そりゃあいい!」
二人の男の声だ。一人の顔と声に覚えがある。
「知ってるでしょ、あの人。昔よく来てた人」
と湊は小さな声で囁いた。
「しかしうまくやったもんですね。あの道場主を騙して葬り去るなんて、つくづく悪いお方だ」
「造作もねえよ。あとは残った女子供を始末すればいいだけってな寸法さ」
二人の男はそれぞれに
怒りは炎のように巻き上がった。だが――
「ほらね、」
湊は口元を歪ませてこちらを見た。
「ねえ桃莉、」
「あいつら、殺しちゃおうよ?」
「お前、自分が何言ってるのかわかってんのか」
「そのつもりだよー。でもあいつらはそれだけの事をしたんだよ? だから何をされても文句は言えない。桃莉はそうは思わないの?」
「もちろん捨て置くわけにはいかない。だけどそれとこれとは話が別だろう! お前正気か!?」
湊に背を向ける。
背後から大きな溜息が聞こえると、
「あーあ。桃莉じゃだめかー。じゃあ
それはにやにやと薄気味の悪い笑みを浮かべていた。
「――なあ、お前は誰だよ」
「え、何言ってるの。湊だよ? 幼馴染の顔を忘れたっていうの?」
「俺の知ってるあいつは、お前みたいな事は言わない。そんな顔もしない。その声でその姿で俺を惑わせるな!」
柄に手を掛ける。
「え、嘘。どうしてわかってくれないの……?」
「いいから正体を現せ!」
「やめてー!」
それは砂塵のように崩れていく。
やはりあれは人ではなかったのだろう。そこには当然手応えはなかった。
周りの景色が歪み、気づくと俺は真っ暗な空間に立っていた。
これは夢か幻か。それはわからないが、間違いなくここには何かが刻まれた。
*****
****
***
『両者とも一体どうしたのでしょうか? にらみ合ったままだ!』
そのアナウンスやざわめき声が耳に届くと、目を覚ました時のような感覚に包まれる。
「まさか、戻ってきてしまうなどとは……」
犬神は驚いた様子で俺を見ていた。
「今のはお前の仕業か?」
彼は小さく頷く。
幻の中でとは言え、俺は湊を斬った。斬ってしまったんだ。
この記憶が消える事はないだろう。自分の正しさのためなら近しい人間であっても俺は、斬ってしまう人間なのだ。
『大川選手、ふらふらと体を揺らして膝をつきます! 何かしらのダメージを負っているのでしょうか?』
「桃莉さん、申し訳ございませんでした。あなたの大事にしていたものをわたくしは……」
『犬神選手もまた地に伏せる! これは異常な事態と言うべきでしょう!』
「犬神、お前が気に病む事はない。もしあれが本物だったとしても、俺は迷わず斬っていただろう。だから気にする必要はない!」
「ならば、あなたは何故泣いているのですか」
「馬鹿言うなよ、これは汗だ。俺がこれしきで涙を流すものかよ。さあ犬神、続きをしようぜ……!」
『ようやく大川選手立ち上がります。試合が続行される模様です!』
「違う! これはわたくしがしたい事などではないっ……!」
直後
『試合終了です! 犬神選手の棄権により、大川選手が決勝の舞台にコマを進めました――』
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