異世界鉄道おまけ ブルーベルさんの遠出

異世界鉄道おまけ 王国歴156年 ブルーベルさんの遠出⑴

注:久しぶりにブルーベルさん視点のお話となります。時期的には第255話と第256話の間、王国歴156年のお話です。


■■■■■■


 外出は苦手です。

 ただそんな私でも出かけなければならない時がごくまれにあります。

 今回がまさにそうです。


 2週間ほど前、ブローダス領からリチャード様のお屋敷経由で私宛に封書が届きました。


 差出人は連名。

 リチャード様の妹で現在はブローダス子爵家の次男に嫁いでいるパトリシア様と、昨年末までこの屋敷のキッチンで一緒に働いていたスージーちゃん。


 前々から計画していたお店がついに王都バンドンで開業したから、ちゃんと出来ているか確認に来て欲しい。

 そんな招待状がスウォンジーから王都バンドンまでの往復乗車券や宿泊券とともに入っていました。

 

『レベッカがいるし来客の予定もないから心配しなくていいよ』


『そうですね。折角ですからスージーちゃんと色々話をしてきて下さい』


 リチャード様やローラ様にそう言われては断るわけにもいきません。

 それにスージーちゃんがどんな様子なのか、どんな場所で働いているのかは確かに気になります。


 ただ私は外出が苦手です。

 人見知りはかなり直ってきましたが今でも知らない人に会うことがとにかく苦手です。

 話しかけられると一瞬固まって頭の中が真っ白になりかけます。


 あとは極度の方向音痴だったりもします。

 出かけないせいか、道を覚えるという事がどうしても出来ないのです。


 ただその辺はスージーちゃんもパトリシア様もご存じです。

 ですので招待状も鉄道の乗車券も2人分、宿もツインベッドの部屋になっていて、手紙にも夫とくるようにと書いてありました。


 ミロスはもともと王都バンドン出身です。

 それに地下でもわかる方向感覚なんて特異な能力を持っています。

 道案内という意味では最高です。

 それに私と違って人見知りという事もありません。


 ですのでミロスに道案内兼盾として同行して貰えばちょうどいいでしょう。

 そんな計算でスウォンジー北門駅から王都バンドン中央セントラル駅行きの高速急行に乗車したのです。


 ◇◇◇

 

 北部大洋鉄道商会線はダーリントン領東端のダラムまでです。

 ですがこの列車は王都営団線直通王都バンドン中央セントラル駅行き。

 ですのでダラムが終点では無く王都営団線を更に先へと進みます。


 大きな倉庫等が建ち並び活気があるダラムを出た列車は大きな川を渡り、海沿いの堤防のような場所の上を少し走った後、地下へ入りました。

 途端にミロスの調子が少しおかしくなります。

 目線がおちつかなくなったり、目をつむったり、手を握ってひらいてを繰り返した後。

 ミロスは済まなそうな顔で私に訴えました。


「なあ、帰りは面倒なのだけれど王都バンドン中央セントラルから路面鉄道かゴーレムバス経由でダラムまで戻っていいか」


 ミロスがこう言った理由はわかっています。

 リチャード様からこんな話を聞いていますから。


『ミロス課長がフェリーデ北部縦貫線のアルコ峠トンネルの工事をしていた頃の話だけれどさ。

 トンネル掘削作業の責任者のエドモント顧問がとにかく地中の研究が好きで、仕事が終わっても休日でも地中を調べることに夢中でトンネル内から外に出てこない。

 

 ミロス課長はエドモント顧問の王立研究所時代からの直属部下で他の勤務員のまとめ役もしていてさ。結局自分の権限で他の勤務員は就寝時や休日には外へ出したんだが、自分は仕方なく顧問につきあったんだ。


 その結果、地中にずっといる事がトラウマになったらしい。その後はトンネル掘削業務中であっても、休憩等ではこまめに地上に出るようになったんだ。


 あとは室内でも雨が降っていなければ窓を全開にしているし、時によっては外に机を運び出して作業したりなんて事もしている。だからまあ、休日の日中は務めて窓を開けて風通しを良くしてやってくれ』

 

 ですので私もミロスが努めて地下を避けるようになった事は知っています。

 それに地下よりは地上にいたいというのは人間としてきっと正しいのでしょう。


 ですが私は同時に『とにかく地中の研究が好きで、仕事が終わっても休日でも地中を調べることに夢中でトンネル内から外に出てこない』方の気持ちもわかってしまうのです。


 なにせ私自身、結婚するまではお屋敷の食料庫、調理場、食堂、自室、そしてお風呂とトイレ以外に出る事はまれでした。

 この環境でやりたい事がほぼ全部出来ましたので、他へ出る必要が無かったのです。

 むしろ外に出て面倒な事をやるより、中にこもって料理の研究をしていた方がずっと気が楽ですし楽しいです。


 そんな生活を送っていた結果、周囲やリチャード様、ローラ様からも心配され、

『そういう人物の扱いに慣れている』

というミロスと見合いをする事になったのですけれど。


 そして確かにミロスは私のような人間を扱い慣れているようです。

 家にいるときはほどよく不干渉でいてくれますし、それでいて料理の試作品は『美味しい』と言って実際美味しそうに食べてくれますし。

 まあ何を作っても美味しそうに食べてくれるので、試作品の評価を求めるには向いていないのかもしれませんけれど。


 しかも休日、外出が苦手な私のために買い出しに行ってくれたり、こうやって外に出なければならない時は一緒に行ってくれたり。

 私にとっては得がたい夫だと思っています。

 だからまあ、帰りに少し大回りするくらい文句はいえません。


「わかりました。帰りは路面鉄道でハスヌトまで行って、川を渡ってダラムへ戻りましょうか」


「ありがとう。そしてくれると助かる」


「何でしたら次の駅で降りて路面鉄道に乗り換えましょうか?」

 

 私は方向音痴ですが一応今回の目的地へ行く方法の予習はしています。

 次の駅、エイダン港入口で降りれば路面鉄道に乗り換えが出来る筈です。


「いや、目的地までせいぜい30分だ。仕事の時はこれくらい大丈夫だしなんとか我慢する」


 私はローラ様からお借りした懐中時計で時間を確認します。

 現在は昼2の鐘と4半時間14:15

 招待状の時間は夕5の鐘17:00で宿とお店は王都バンドン中央セントラルから歩いて行ける範囲。


 元々宿で一休みしてからお店に行くつもりでした。

 だから時間的に余裕はかなりあります。


「次のエイダン港入口駅で降りましょう。初めての王都バンドンですから路面鉄道で街を見てみたいです」


「ありがとう。そうして貰えると助かる」


 ミロスは少しだけほっとした表情をしました。

 まだ地下なのであまり余裕はなさそうですけれども。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る