勇者だからどんな困難も乗り越えられるよな?ごめんムリ!!

エイル

勇者だからどんな困難も乗り越えられるよな?ごめんムリ!!

 大学卒業間近の二人はカップルが大学の出入口で待ち合わせて合流した。男は竹地 拓斗(たけち たくと)で専攻は西洋史だ。もう一人の女は長谷川 真悠奈(はせがわ まゆな)専攻は国際貿易だ。

 

 就職も決まり卒論もまだまだ期間がある。というか優秀な二人は卒論なんて簡単すぎると思っていている。

 

 婚約もしてお互いの親に挨拶もした。大学卒業したら新婚夫婦になる予定だ。そんな彼らの目的はデート、それも大学のか思い出にとこのまま4泊5日のデジタルデトックスな車中泊に行くつもりだ。

 

 社会人になったら出来ないちょっとした刺激的で非日常を求めて、彼らは車で山奥に泊まり翌朝を無事に迎えた。

 

 そこにありえない異変がおこる。足元に輝く魔法陣が出現したのだ。

 

『どうか異世界の若き賢者よ、悪魔を信仰し破滅に導く者から世界を救うために知恵を貸してもらえないだろうか?』

 

「拓くんなにこれ!!サプライズ?」

 

「まーちゃん俺は仕込んでないよ」

 

 二人は顔を見合わせる。その表情はなんじゃこりゃ?である。


 もう厨二病は卒業したし、賢者とか言われても平和ボケしてる日本人に世界を救えと言われても出来るわけないんだよ。


 そこまで二人の思考は一致して阿吽の呼吸で意思疎通を終了する。

 

『どうか信じてくれ、もう我らの力だけでは勝てないのだ』

 

「なんかのイベント会場かな?ちゃんとスマホも圏外だし謎解きゲームみたいな?」

 

「山奥だし大掛かりなイベントだよね?なら勝手に参加したら怒られるよね?」

 

「飛び込み参加が、出来たらやってみないか?」

 

「そうだね~。こういう山奥のイベントなら飛び入り参加させてくるかもね」

 

「「よし、やる!!主催者はどこ?」」

 

『ありがとう。それでは転移を開始する』

 

 二人は車内から忽然と消えたのだった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 白いのに眩しくないそして浮遊を感じること十数秒。抱き合った二人は西洋中世そのままという感じの城の中にいた。

 

「神の使徒様。ようこそ我がダファーセツ王国へ。我はこの国の王をしております。グランドル・ダファーセツです」

 

「ふふふっそれはまた・・・ごめんなさい、くふふっ」

 

 真悠奈にツボったらしい。国王の名前から大きい赤字と連想してしまったらしい。経済学的になしらしい。

 

「俺は竹地拓斗、彼女は長谷川真悠奈です。普通の大学生です。ダファーセツ王国なんて初めて聞きました。神の使徒とかはよく分かりません」

 

 使い物にならなくなった彼女を素早くフォローする拓斗に、真悠奈は惚れ直した!!という感じで見つめている。

 

「月神ウー様から神託がありまして、先の戦で敗北し大打撃を受けた我らに助けとなるものを遣わすという内容だったのです。その者は魔法もステータスもない世界で生きてきたが武に頼らず知の力で世界を支配しているとも。なのでこの国のだけでなく共に戦った国々のありとあらゆる資料を集めました。どうか我らに力を授けて下さい」

 

 そこまで言うと王や明らかに上位貴族な面々が頭を下げる。


 それどころか土下座までする者がいる。それはたぶん王子だ。貴族達がぎょっとして土下座していく。

 

「分かったから、とりあえず資料を読んでみますから頭を上げて下さい」

 

 真悠奈はこの状況にドン引きして折れた。歴史専攻の拓斗は興味深そうにしている。

 

「ありがとうございます。メイドに軽食と飲み物を用意させます。他にも必要な事はなんでも仰る通りにします」

 

 そこから魔法と現状の説明を受けた。最大の問題点は異世界転移を信じる事と魔法を信じることだった。実演されたり、地名やら聞きまくりなんとかクリアした二人は資料に向かい合う。

 

「ラノベの流行ってる異世界に転移なんてことになるなんてな」

 

「ええ、帰れる可能性が神頼みというのも辛いところよ」

 

「帰る方法を探すためにも先ずは実績作りだな」

 

 何が何でも帰りたいというかスマホもパソコンなどの電子機器はないし、自動車や飛行機などの内燃機関を積んだ乗り物もない、もちろん家電製品も存在しないし魔法での代替も出来ない世界だ。

 

 意外と真悠奈は受け入れていて拓斗と暮らせれば帰れなくても良いと考えている。逆に拓斗はこの環境は無理、近いうちに発狂すると早い帰還を望んでいる。彼女に恥ずかしい姿を見せないための虚勢でなんとか耐えているだけだ。

 

 そんな話し合いをしながら資料を読んでいるとメイドが紅茶を持ってくる。

 

 真奈美は一口飲んで

「あれ?たっくん砂糖が入ってるよ。砂糖入れるのは日本だけじゃなかったけ?」

 

 すかさず歴史には詳しい拓斗が解説する。

 

「イギリス発祥だし富の象徴だから王宮ならおかしくないよ」

 

「へぇそうなんだ」

 

 メイドと同じく部屋の隅に控えて空気になっていた王女が初めて喋る。

 

「あのー、砂糖とかは値崩れしてまして、庶民はもっと甘いです。えっと、勝ったマキリ帝国の商人が天罰を恐れて激安で大量に売ってくれるからだとか・・・」

 

 どうやら神の使徒(勇者)に緊張しているらしい。そして紙の資料では分からない事への回答要員として王女が配置されていたので、仕事を一生懸命したようだ。

 

 勉学を施せる人数に限りがあり、最も知識があるのが王女だったのだ。

 

「おいおい、この技術レベルで砂糖の大量生産は難しいはずだぞ。砂糖の生産には産業革命か大量奴隷が必要になるし、輸送も問題になるはずだ」

 

「それより何でわざわざブルーオーシャンなのに薄利多売するのよ?戦争に勝ったなら高く売りつけたらいいでしょ?」

 

「なぁもしかして貿易で攻撃を仕掛けてないか?」

 

「まさか!でも調べてみるわ。私は貿易の情報とか生産物品を調べる。たっくんは他の影響をお願い」

 

「そうだな。ここ最近の変化を調べてみる」

 

 そして数時間後二人の答え合わせが始まる。

 

「まるで支配戦略の見本市・・・いやこれを考えたヤツ天才だな。政治的に独立してると見せかけて、植民地にしてる」

 

「えぇ、生命線を握られてるわ。これは戦争出来ない状態よ」

 

「だよなー。立て直すのは相当難しそうだ」

 

 発言のチャンスと見て王女は勝手に割り込む。だいたいそんな認識を王族も他国もしていない。

 

「現状は先の戦で負けて、戦死者多数により戦える人口と指揮官になるべき王侯貴族が減ったから仕方ないとしても、これからどうやって勝てるだけの力を蓄えるかだと思います」

 

「そっかぁ、そう思うよな。マキリ帝国はそんなに甘くないという、すり潰すつもりみたいだぞ」

 

「そんな!!食糧を安く売るのも、我々から高く買うのも、我々を滅ぼせば神の怒りに触れるから誤魔化そうとしているはずです。そのスキにマキリ帝国の想定を上回る力を蓄えるための使徒様なのでしょう?」

 

「違うわ。逆らえないようにしてるのよ説明するね。先ずは大量にマキリ帝国がこの国へ売ってる品目は4つ、砂糖、小麦粉、食用油、塩、これは分かる?」

 

「ええ、ものすごい量をほぼ無料くらい安く売ってるから貢物かと思うくらいです」

 

「そのせいで、どこの国も農業生産品目が変わってる。特に増えたのは畜産で輸入した小麦粉で育ててる」

 

 真悠奈はここまで説明して拓斗と入れ替わる。

 

「そして戦争になれば当然輸入を止められる。そうなれば人が生きるために主食の小麦粉を食べる。なのに生産量は全く足りない」


「人を優先するから、まず家畜は飢えて死ぬし、畜産農家は家畜を育てられないと収入を失う。そうなれば食料を買えなくて、反乱か餓死かを民は選ぶしかない」

 

「そんな!!でも畜産業から転換すれば良いですよね?」

 

「それも難しいだろうな。主食の小麦を育てても余りに大量の廉売で利益どころか赤字になる。だから畜産なんだ。そして油と砂糖、塩もヤバい」

 

「どうしてですか?嗜好品ですし無くなっても困らないはずです」

 

 ここで真奈美にチェンジする。

 

「美味しいし少しなら体にいいのよ。最低限は必要だけど、どれも多すぎたら中毒性があるのから私達の世界では規制も検討されてる」

 

「えっと、もし中毒になったらどうなるのでしょう?」

 

「太り過ぎで不健康な上に、たくさん食べ過ぎるのやめれない人達が増えるよ。結果として寿命も縮むわ」

 

「そんなぁ。子供達が飢えずに太れるほど食べられて幸せになってると思ってましたのに、兵士になると兵糧は無駄に食べるし貧弱な身体という弱兵になるのですか・・・そうだ!!輸入を止めれば解決しますよね?」

 

「働き盛りの大人はかなり戦死してて生産力不足、畜産地からすぐに農業は出来ないから餓死と経済混乱で崩壊になると思うよ」

 

 拓斗が追い打ちをかける。

 

「先の大戦もカタフラクトに対して縦深攻撃と電撃作戦を併用して殲滅戦をやられてる」


「という事は圧倒的に技術力も戦力も統制能力も我々は足りてない。食糧まで握られる現状、更に勝ち目はない。それと兵糧攻めと爆撃まで受けてるみたいだし農地も都市もボロボロにされてて自力じゃ回復できないところまでやられてる。こうなるところまで予測して攻撃してるとしか思えない」

 

「マナミ様の説明はわかりましたがタクト様の話がさっぱり分かりません」

 

「騎兵騎士相手に圧倒的移動速度を活用して混乱させ半壊、縦に並んだ縦深攻撃部隊が正面から包囲殲滅する事での兵への攻撃」


「街道破壊による都市への兵糧攻めで市民へ攻撃。そして公共施設への空からの攻撃で指揮系統への攻撃と公共サービスの崩壊。これらを同時に的確かつ高速でやられたって事だよ」

 

「確かに強かったです。ならどうすれば勝てるのですか?」

 

「近代化して総力戦かなぁ?」

 

 軍事の専門家じゃない拓斗には勝利の方法はすぐに思い付かないようだ。まずは総力戦が可能になるまで技術力を高めなければどうにもならない。宗教の教えで近代化は不可能なのだが。

 

「ボロボロにされて食料依存させられてるし、貿易でも依存させられてて近代化の前に依存から脱却しないと無理ね」

 

「マナミ様まだ何かあるのですか?」

 

「えぇ、こちらが対価で支払ってるのとマキリ帝国が買付けてる品目は分かる?」

 

「えっと、金、銀、銅、鉄などの金属を対価で小麦粉を売り、綿花を金で買い付けてます」

 

「金こそ全て綿花にしてるけど、他の金属はたぶん直接流出してる。実際に金貨と銀貨は発行量が跳ね上がってるわ。つまり金貨銀貨もマキリ帝国に回収されてるわ」

 

「おかしくないですか?なぜ金貨も発行量が増えてるのでしょう?」

 

「綿花を北の国々に持って行って服に加工して独自に販売させてるわ。その綿花を売るときに金貨を回収してる。北の国は服飾産業で潤ってるけど金貨は最終的にマキリ帝国へ流出よ」

 

「綿花でそんなことになりますか?流出の何が問題何でしょう?」

 

「綿花の買付はマイルドドラッグの食糧と金貨で大量にして、綿花を育てられない北の国々で綿を適正価格で大量に売ってる」


「南の売値と北の買値の差額分だけ北の国々から金貨が流出してるわ。北の国々は綿花で作った服飾品を、解決ここや南の国々へ売って対価として食糧を輸入しているわ。これもマキリ帝国の商人が海運料で金貨を回収してるわ。それでも今は食糧が格安で綿花も大量に供給されてるから大丈夫だし、工房は女性と子供が働けるから収入も困らない。もしこのバランスが崩れたら北の国々は経済崩壊して民の生活が破綻するのよ。例えば金貨や銀貨が流出しすぎて服飾品を売っても綿花と食糧を買うだけの利益がなくなったりとかね。他にも食糧か綿花の値段が上がれば終わりよ」

 

「どうして流出したら利益がなくなるのでしょうか?」

 

「金が減れば金の価値は上がるわ。でもマキリ帝国側では余るから金の価値は下がるわ。そうなるとマキリ帝国よりたくさんの金を要求するか少なくとも価格を据え置くでしょう。我々側は金の価値が高くなってるから同じ服飾品なら得られる金貨の量が減ってしまう。相対的に綿花の価値がどんどん上がっていつか食糧が買えなくなるわ」

 

「そんな!!そうだ!我々が綿花とかを運べば解決しますよね?」

 

「大量の食糧と綿花、商品を運ぶ輸送力があるの?元々は畜産と狩りで獲ていた食糧だからその分も追加で、地元で生産しようにも重労働出来る大人の男は戦死してて農業もむかない土地なのよ?」

 

 寒い地域では放牧が主流で牧草を求めて移動する。ただし飼うのは魔物なのである程度の実力が必要なのだ。弱いと家畜に殺される。牧場のも働き手は良い戦士なので戦死してて、子供やステータス、低い徴兵されなかった人々には難しいのだ。

 

「そもそも街道が破壊されてて陸路で大量輸送は無理だし、補給艦も交易船も港も先の大戦で壊滅してるだろ?」

 

 拓斗がヤバい問題を提起する。技術的にも馬車で大量輸送は出来ないため海運しかない。

 

「そうでした。橋も再建出来てませんし馬車が通れないところも多くなってます、船も船乗りも足りないのでした」

 

 王女はもう泣きそうだ。

 

「南の国々は綿花生産をどんどん増やして儲けてるのよね。農地を綿花にどんどん転換してるみたいね」

 

「なんかだか嫌な予感がヒシヒシとしてきました。なんの農地が減ってるのでしょう?」

 

 王女も少し賢くなってきたようだ。

 

「もちろん小麦と砂糖、食用油の生産地よ。価格崩壊で作っても作っても儲けもなければ余ってるから減産は当然よね」

 

「そんな事って・・・もしかしかしなくても、食べ物を止められたら、我々が勝手に仲間割れしません?」

 

「金貨流出を緩やかにするために他の金属も流出させてると思うの。気がついたらもう遅いというかすでに手遅れだよ。武器の原料を回収されてるから。それに市場を独占されたら値上げされてもすぐには打つ手が無いわ。いつでも資金は回収出来るようになるわ」

 

「見事に南と北、中央で分断出来るよな。同盟の中心であるこのあたりの国々を裏切らなければ北で綿花を値上げする、南では安く買い叩かれくわけだ。更に食糧も止めておいて、止めてた食糧も中央へ攻撃すれば輸出再開するといえばそれだけで、仲間割れどころか次は軍を出さないでも自滅させられる。簡単に負けるかな」

 

 拓斗がえげつない可能性を話すが支配方法として分断は基本である。その結果差別とかいろいろ問題も地球で発生して解決できていない。ヤバい施策であることも知っている。

 

「これだけ敵の思惑が分かったらなら対策出来ますよね?」

 

 王女は期待して二人に問いかける。

 

「たぶん資料にない計略もたくさんあると思うよ。経済統計の資料も少な過ぎるしね」

 

「おそらく寝返り工作とかスパイあたりも全く資料ないけどやってるだろうな」

 

 拓斗も真奈美も不可能という顔になる。これだけ経済と軍事でボコって、内政に手を出してないとは思えない。

 

「これ諦めたほうがいいかな。俺たちにはムリだって」

 

「えっ・・・とにかく、今日は夕食を食べて眠りましょう。私は父に報告と対策を考えます。使徒様も何か思いついたら小さな事でも、教えて下さい」

 

「そういえばもう夕暮れか。確かに今日は休もうか」

 

 メイドの案内で食堂に行くと超高級フルコースを用意されていて二人共にビビったり、お風呂にメイドが裸で接待するために待ってて拓斗が鼻の下を伸ばして真奈美がブチ切れてビンタしたり、色々とあった。


 今はなんとか天蓋付きの凄い広いベッドと豪華な装飾がなされた寝室に案内されたのだった。

 

「たっくん、お風呂ではごめんなさい」

 

 眠るときも護衛兼雑用としてメイドが付くと言われたがなんとか扉の外に待機として追い出したのでやっと二人っきりになれた。だからこその真奈美の発言だ。下手な事を言うとメイドが酷い罰を受けそうだったのだ。

 

「いや俺が悪いし気にしてないよ。むしろ俺の方こそまーちゃんが最高なのに目移り仕掛けてごめんな」

 

 拓斗の頬には真っ赤な真奈美の手形が付いている。ここで対応を間違うと別れる可能性があると拓人は必死だ。

 

「たっくん、えへへ」

 

 どうやら大丈夫そうだ。思いっきり叩いてスッキリした事や余りにも非日常的な出来事なのも良かったかもしれない。風俗とか浮気したら殺されないか心配だ。

 

「ねー、イチャイチャしてるとこ悪いんだけどさ。ちょっとだけ時間いい?」

 

「「ヒッ、エッ!誰!?」」 

 

 絶対にいなかったはずの少女が話しかけてくる。胸こそないが同姓の真奈美でも思わず見惚れて性欲さえ感じさせる可愛さと僅かなエロさがある。耳が長い事からエルフのようだ。

 

「おー、やっぱり日本語だね。という事は同郷の転移してきた勇者で間違いないかな。あっもしも敵対するつもりなら殺しちゃうよ」

 

 この世界の人間の強さと魔法を見ている二人はおそらくこのか弱いそうな少女にも勝てないだろうと予想するし、日本を知ってるなら帰れる可能性があると思い至る。

 

「敵対するつもりはないどころか帰りたい。なんでもいいから教えてくれない?」

 

「私はマキリ帝国側だからね。お兄さんとお姉さんがいろいろやると困るんだよね。ま、このままだとお兄さんとお姉さんこの国の人に殺されちゃいそうだし、そんなの後味悪いし」

 

 すでにいろいろマキリ帝国の手の内を暴露してると焦る真奈美。拓斗はエルフ少女の外見が良すぎて、直視すら出来ていない。

 

「もう簡単にはどうにもならない段階だけどさ、超戦力でひっくり返されるかもでしょ?だから貴方達には退場願いたいかな」

 

 まさかの死亡フラグに言葉が出ない。

 

「でもさ、せっかくの同郷者だしまだ敵じゃないしお・は・な・しとかしたいなって、あっ私はユウキだよ。よろしくね」

 

 コテンと少女がどうかな?と首をかしげる。SAN値にダメージが入るほどの可愛さだ。

 

 拓斗は思わず見惚れて、ハッと頬のもみじマークに触れて慌てて目線を逸らす。

 

 真奈美もその様子には気が付くも生命のピンチなのと、目の前の美貌には勝てないし、男の性も理解する。


 ぶっちゃけこの娘に興奮しないと自分の身体に興奮して貰える気がしない。ここまでレベルが違うと嫉妬しないものなのだ。メイドとユウキなら月とスッポンほど、違う。 

 比べるなんて烏滸がましい。

 

「彼は竹地拓人、私は長谷川真奈美よ。今日転移して来たばかりで何も分からないの。貴女は日本人なの?」

 

「タケチさんにハセガワさんね。私は転生者だから元日本人かな。日本では地方の派遣社員やってたよ。交通事故で死んじゃって気がついたらエルフだったんだよね。この世界の兄は私を逃がすためにオークに踊り食いされちゃたんだよ」

 

 サラッと重すぎる話をする。これは空気を読む日本人には辛い。

 

「えっ・・・ご愁傷様です。ご冥福をお祈りします」

 

「気にしなくていいよ。大陸からオークは絶滅させたし、3歳の頃の話だしね」

 

「あははは、すごいですね。私達は○大の普通の学生です。卒業間近で就職も決まってて婚約も私達してるの」

 

 こいつやべぇと拓斗と真奈美は思うが機嫌を損ねれないからポーカーフェイスで頑張るしかない。大陸からオーク絶滅ってチート系小説でも聞かないパワーワードだ。


 地球では結構の生物を沢山絶滅させてる人類だけどさ。

 

「おおぉー!日本一のところじゃん!!もしかしていろいろな策略見抜かれて対策される?それよりも結婚するの?おめでとう!」

 

「あんなのどうにもなりません。どうあがいても滅ぼされるか植民地になるしかないですよね?私達は少し経済攻撃と分断作戦に気が付いて、何も気がってなかったこの国に教えたくらいです。対策は思い付きませんでした」

 

 真奈美は嘘はついてバレたら機嫌を損ねそうだし、いずれバレる策略だから大丈夫だろうと喋る。

 

「えっ、どんだけポンコツなの(笑)気が付いてて対策されてる予定だったんだけど!?ちょっと支配者層を殺しすぎたかな?本当なら想定より楽になってるかもな〜。でも手加減も舐めプもしない家族たちだけどさ」

 

 どうやら王侯貴族は予想よりも頭が悪かったらしい。

 

「それで私達は亡命したいのだけど大丈夫かな?」

 

 拓斗も頷いている。同郷で勝確なのだから乗り換えるのは当然だ。

 

「ぶっちゃけさ、召喚した月神ウーに嫌がらせしたいよね?しかも帰らせる魔法技術ないも魔力も月神ウーには無いと思うしさ。ふたりを帰還させたら当てつけにもなるし魔力無駄にさせられるしね」

 

「帰れるのか!!」

 

 拓斗は帰還の可能性で煩悩に打ち勝ったようだ。それほどスマホやパソコンの一生ない生活は辛いらしい。

 

「もちろんダンジョンマスターには出来るよ。私はあなた達を送り返すために来たんだよ。おっ問題の魔力確保だけどそろそろ終わったみたいだね。持ち出しも考えてたけどなくて良さそうだね」

 

「ダンジョンマスター?それに神様に出来ない事を可能にするほどの魔力を集めたの?」

 

「世の中には知らない方が良いこともあるよ♪死にたくないでしょ?なんにしても無関係な人にこの星が迷惑かけてごめんね。それじゃ帰還に合意してくれるかな?今すぐ送り返すよ」

 

「「お願いします」」

 

「バイバイ〜、そうそうちょっとだけ魔力余ったからサービスしたから向こうで確認してね。じゃあね」

 

 少女がバイバイと手を振るとグニャリと空間の繋がりが歪み一瞬白く光ると、そこは山奥の車の中だった。来た時より浮遊感もなく早い。これが技術的な差なのだろう。

 

「帰ってきた!?夢じゃないよな?」

 

「夢はないと思うわ」

 

「ん?こんなの持ってきたけ?」

 

 明らかに高級感漂う縦長の桐箱がダッシュボードに置いてある。

 

「もしかしてユウキちゃんからのサービスじゃない?」

 

 恐る恐る開けてみるとお揃いのネックレスと手紙が入っている。

 

 拝啓 ハセガワマユナ様 タケチタクト様

 

 この度は異世界の戦争に巻き込んで申し訳ございませんでした。ささやかなお詫びと結婚のお祝いの品をお受け取り下さい。

 

 このネックレスについて

 

 トップ カット済の天然ダイヤモンド 3カラット

 チェーン プラチナ製

 効果 高く売れるよ。男女用にセット仕様だよ。

 

「このダイヤ大っきいよ!何百万かするやつじゃん」

 

 真奈美は3カラットのダイヤの価値を知っていたようだ。

 

「まじで!!」

 

 拓斗も理解が追いつく。

 

「置いておく?売る?」

 

「まーちゃんに似合うから使おうよ」

 

「じゃあ着けてよ」

 

「はい、うんカワイイよ」

 

「ありがとう。たっくんも着けてあげる。おー似合うよ」

 

「よし、それじゃもう夜だし一晩泊まって帰ろうか?」

 

「うん、そうしようよ」

 

 こうして刺激的な非日常から普通の非日常へと帰ったのだった。二人はダイヤのネックレスを生涯外す事なくお守りのように大切にしたのでした。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 蛇足


 ダファセーツ王国では天然の魔物と聖職者、王侯貴族がかなり消える事件があり、召喚された勇者どころではなくなったらしい。その後もちろん国家は崩壊した。

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