第31話 彼とあたしの秘密の特訓②

 そっと祐二の手を握る。あたしの温もりが伝わるはず。

 そして、それだけでは終わらず、あたしはそっと彼のほうにパイプ椅子を寄せて、肩を触れ合わせる。


「ね、ねえ………こ・こ・な・の♡」

「ん? えっ!?」

「あたし、ここがさっきから………はぁ~」

「―――――!?」

「あたし、こういった種類の攻めには弱いみたい……」

「そ、そうなのか?」

「もう、見てるだけじゃなくて、手伝ってよ……」

「ん……。あ、ああ……」

「もう! どうしてそんななの? もっと手取り足取り教えてくれないとぉ……」

「ここは初めてか?」

「うん。そう、初めてなの……。だから、優しくしてくれると嬉しいかな……?」

「じ、じゃあ、優しくするぞ」

「うん。お願いね♡」

「て、江奈? どうしてそんな顔を真っ赤にしながら、俺に密着しつつ、もじもじしながら質問してくるの? てか、これって質問しているんだよね? 何だか、耳に吐息をかけるのは、青年男子に対してはよろしくないと思うんだけど……」

「えー、別に二人きりなんだからいいじゃない?」


 あたしは甘えるように猫撫で声で、祐二の身体に頭をすりすりとすり寄る。

 そう。実は今は絶好のチャンス―――!!!

 さっきまで一緒に勉強していた優紀ちゃんは、学級委員関連の仕事で担任から呼び出されたのだ。

 そして、優紀ちゃんはその時に、


「どんなこと頼まれるか分からないから、今日はそのまま直帰するね。それに私の分からないところは質問できたから。じゃあ、江奈ちゃん、頑張ってね!」


 と言い残して、生徒会準備室を去っていった。

 最後の「江奈ちゃん、頑張ってね!」というのはどういう意味でとらえればいいのだろうか……。

 そのままの意味で、勉強頑張ってね! という意味なのだろうか……。

 それとも、今回、あたしが祐二との関係を発展させたいということを知っている優紀ちゃんなのだから、もうひとつの意味……つまり、「二人きりで頑張って!」という意味でとらえても良いのだろうか。

 あたしはもとより後者という都合の良いほうを選択するわけだが……。

 こんな二人きりの時間、甘えなきゃ損でしょ!


「本当に江奈は甘えん坊だなぁ……」

「あー! また子ども扱いして!」

「あはは。だって、こうやってる姿は、小学生や中学生のころと何も変わらないじゃない」

「そうかもしれないけれどぉ……。大人になっているところもあるよ!」

「まあ、身長と体重の学力は少しずつ大人になってきているかな」

「むーっ! やっぱり馬鹿にしてるなぁ!」


 あたしは拳を振り上げて、そのまま祐二のほうに体重をかける。

 祐二が支えてくれる。そう考えていたから―――――。


 がしゃんっ!!!


 あたしの考えは脆くも崩れ去り、パイプ椅子はバランスを崩して、祐二とあたしとともに床に倒れる。


「…………………………」

「…………………………」


 あたしたちはお互いの視線が交わりながらも、無言の時間だけが過ぎていく。

 こ、こういうときってどうすればいいのか……。あたしは焦りめいたものを感じる。

 あたしはそのまま、祐二の胸元に倒れこむ。もちろん、わざと………。


「お、おい……江奈……?」

「ちょっとだけ、このままでいさせて」

「………………………だけどさぁ……」

「さっき、子ども扱いしたよね?」

「あ、あれは冗談みたいなもんだろ……。いつものノリっていうか」

「あたしも大人になったよ」


 そういうと、祐二にキスをする。

 もしかしたら、告白したあの日以来かな――――。

 あの時は唇を重ねるだけのキス。

 でも、今日は違う! あたしだって本気なんだって分からせたい!

 ちゅぱちゅぱちゅぱ………くちゅくちゅくちゅ………

 あたしの舌は彼に受け入れられ、絡み合う。

 やっば! すっごく好きが溢れてきちゃう!

 こんなキスを摩耶ちゃんは、祐二としているの?

 こんなのずるいよ! こんなの好きになっちゃうに決まっているじゃん!

 あたしの中の何かがパリンッ! と音を立てて割れたような気がした。

 もしかして、これが理性ってやつかしら? それとも羞恥心?

 とにかく、今のあたしは、止まらなかった。恋の暴走特急なんて言われても全然問題ない。そんなの気に何てならない。


「んんっ♡ しゅき♡ しゅき♡ だ~いしゅき♡」


 あたしはそのまま祐二を抱きしめてしまう。いつの間にかカッターシャツがはだけ、乱れたせいでブラジャーから胸がはだけていた。

 祐二の手をつかみ、そのままはだけた胸にそえる。


「ほら、あたしも大人になってきているんだよ?」

「………江奈………」

「無理やりしちゃってごめんね。でも、あたしは後悔なんてしてない。いいえ、そもそも公開をする暇なんてないんだよ。祐二に分かってほしかったの。摩耶ちゃん以外にも、あたしも祐二のことがということを……。そして、それは今も変わらないってことを……」

「江奈……。俺はどうしてやればいいんだろう?」

「一番はやっぱり摩耶ちゃんが好きなの?」

「え……それは………」


 あたしは意地悪だ。祐二にとって、摩耶ちゃんが前世でも特別な存在だと分かっていて、この聞き方はとっても意地悪だ。

 それにその答えを、今のあたしに心優しい祐二が言えるわけがない。

 でも、構わない――――。


「あたしは祐二のことが好き。それだけは分かっておいて。今はそれでいい」

「俺も江奈のことは好きだよ?」

「それはラブ? それともライク?」

「意地悪だな……」

「でしょ? でも、あたしも諦めないから。絶対にあたしのことも好きにしてみせる。もちろん、ラブのほうでね」


 あたしはそう言い切ると、もう一度、祐二にキスをした。

 胸のつっかえが吹き飛んで、キスの余韻まで味わえたような気がした。

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