第27話 江奈は幼馴染と一線を越えたい②

 摩耶ちゃんは、コーヒーカップをソーサーの上に音もたてずにおくと、あたしの方を見据えるようにしつつ、


「江奈ちゃんって祐二のこと、好きでしょ?」

「――――――!?」


 あれ!? ジャブで来ると思っていたのに、どうやら、突如の右ストレートを繰り出してきたんですけど!?

 あたしは思わず仰け反りそうになる。


「ど、どうしてそう思うの?」

「あ、いや、普通に普段の様子から見ていて……。一応、私も女だから、そういう匂いが何となく分かるから」

「ううっ……」

「まあ、それに私もまだ期間が短いとはいえ、祐二の彼女になったわけだし、好きな人の周辺がどうなっているかって気になっちゃうしね」


 そう言いながら、摩耶ちゃんは黒髪を指でからめとるようにクルクルと巻く。

 あたしは仰け反りかけていたものを元に戻し、


「そうよ! あたしは祐二くんのことが好き」

「目の前に本妻がいるのに、堂々と言うのね……」

「本妻って言わない! まだ、結婚してないでしょ?」

「ふんっ! エッチはしたわよ。ヴァ、ヴァージンは彼に捧げたわ」

「摩耶ちゃん!? 公衆の面前って言い出したのは、摩耶ちゃんの方だよね!?」

「そ、そうね……。私も焦っててちょっとどうかしてたわ。あなたからマウントを取らないといけないとなぜか思ってしまったの……。さっきの発言は忘れて……」

「いやいや、絶対に忘れられないでしょ!」

「それも……そうね…………」


 いや、そこでちょっぴり恥ずかしがるの止めてよね!

 こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃないの!


「そ、それに……お二人のエッチの様子は、あ、あたしたちで見てましたから……」

「……………………………………え?」


 いや、すっごく長い間だったわね。

 思わずズッコケそうになっちゃったわ。

 摩耶ちゃんは、それどころではないほどに目を点にして、あたしのほうを見つめている。


「み、見てたって……どういうこと?」

「まあ、先日のデートの時に祐二くんが獣になり過ぎちゃったり、それに摩耶ちゃんも結構堕ちるととことんメスになっちゃうから、もしものことがあったら、困るって言うことで、あたしと藍那先輩と黒崎先生の3人でデートを監視させてもらっていたんです」

「…………………へ、へぇ……」


 あ、摩耶ちゃんのお顔が真っ赤だわ!

 これは午後以降のいけないシーンが走馬灯のごとく蘇っているわね。


「じ、じゃあ、もしかして、海辺のベンチで――――――」

「あのすぐ後ろにいました……。もう、溢れ出る蜜の音まで聞こえるほどに………」

「ひぃっ!?」


 ちょっと引いてしまう摩耶ちゃん。

 あ、本当にごめん。でも、それだけじゃないじゃない。


「あ、あの、もしかして、ホテルでの―――――」

「ええ、明け方までの獣のように狂ったお二人のセックスも黒崎先生の使い魔で全部見てました……。その辺のAVよりもエロ可愛いかったです……」


 ガシャンッ!!!

 カフェテラスのオシャレなテーブルに頭から摩耶ちゃんは突っ込んだ。

 いや、まあ、そうなるよね。だって、午後以降……というよりもマッサージ以降、明らかにメス堕ちした摩耶ちゃんが祐二くんに甘えているっていうのが全編で展開されてたんだもんねぇ……。

 そのうち、横で藍那先輩が足をモジモジさせちゃうから、抑え込むのが大変だった……というのはまた別の話。


「あは……あはははは…………」

「摩耶ちゃん。彼氏に甘えるのは普通だし、付き合い始めたばかりなんだから、そういうのが楽しい時期だって言うのも納得はできるわ……」

「―――――――。」

「でもね、さすがに朝まであの激しさは身体に悪いと思うな。呪いで死んじゃう前に腹上死が待っていると思うな」

「腹上死!?」

「こ、こらぁ!? 公衆の面前だよ!」

「ご、ごめんなさい……」


 思わず摩耶ちゃんが挙げた声で周囲が一瞬ざわつく。

 いや、そりゃそうだろう。摩耶財閥の御令嬢様だぞ……。

 周囲は落ち着いて、コーヒーカップを傾ける摩耶ちゃんを見て、「聞き間違い」だと勝手に悟ってくれたようだ。


「と、とにかく、全部見られてたってことね……」

「ま、まあ、黒崎先生も心配だったんだよ……。呪われた者同士が行為をすることに……」

「で、でも、さぁ……。さすがに見られるのは恥ずかしいって言うか……」

「いや、それはあたしも分かるけどね。でも、あたしにとってはいい勉強になったわ」

「勉強? 江奈ちゃん、あなた、何を企んでるの?」

「摩耶ちゃん。摩耶ちゃんはすでに祐二くんとお付き合いしているのは重々に承知しているつもりです。でもね、あたしだって負けられない戦いがあるんです」

「あんた、まさか――――!?」

「あたしだって、恋の好敵手ライバルなんですからね」

「江奈………」


 摩耶ちゃんはあたしを少し睨んでくる。

 まあ、そりゃそうよね。自分の男を狙われてるんだもの。


「きっと祐二くんは優しいから、二股なんてしないと思う。でもね、こっちに振り向かせることはできるよ。幼馴染には幼馴染にしかない魅力があるもの。それに前世でカグラのことを好きだったのは、摩耶ちゃんだけじゃないってこと……」

「あら? 職業の問題ってのもあったってこと?」

「ご想像にお任せするわ。でも、これだけははっきりと言っておくから。あたしは祐二くんを諦めてなんかいないんだから。取られたら、奪い返すだけよ!」


 あたしは宣戦布告を叩きつけた。

 摩耶ちゃんもまだ日が浅いから、チャンスはあるはず。

 それに摩耶ちゃんにないものがあたしにもあるはず!

 だから、諦めるなんてもったいないんだから――――――!


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