第26話 いつもの風景(学校編)②

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 自宅(と、言っても摩耶ちゃんのお父様が借りてくれている家)から学校までは徒歩で行ける距離のところになっている。

 あたしたちは朝食を終えるころには、優紀ちゃんが一足先に学校へと向かう。

 学級委員のお仕事が色々とあるらしく、忙しそうに走って出ていく。

 とはいえ、彼女が走るのは世の男たちの目に毒だ。

 特に6月も半ばになり、ブレザーから夏服へと変わると、如実にその武器が現実的になる。

 たゆん! たゆん! たゆん!

 あたしは思わず食べていたハニートーストを落としかけてしまう。

 いや、あたしは別にないわけではない。ちゃんと(?)、Eカップはある! だから、どこぞの無い乳女とは一緒にしないで欲しい。

 たとえ、あるとは言えども、IだかJだか知らないが、あの爆乳は武器になるなぁ……。

 優紀ちゃんが本気になってしまって、あのお胸で祐二くんをたぶらかしたりしたら……ってそんなことしないはず!

 だって、優紀ちゃんはあたしが祐二くんのことを好きだってこと、分かってるはずだもん。

 で、でも……ううん! 大丈夫! 信じるしかない!

 で、問題はこっちの娘よね……。

 と、あたしはそっと右側に目をやる。

 そこにはあたしと同様にハニートースト(シナモントッピング)を食べていた摩耶ちゃんだった。

 摩耶ちゃんはハニートーストをすでにお皿に落としていた。

 そして、今にも泣きだしそうな瞳。わなわなと震えあがる唇。

 いやぁ、無い乳のダメージは恐るべきものだねぇ……、なんて納得している場合じゃないんだけどね。


「……ね、ねえ……江奈ちゃん?」

「どうしたの? 朝から声震わせて」

「やっぱり祐二っておっぱい好きなのかな……?」

「ま、まあ、そりゃ男なんだし? 適度に好きなんじゃない?」

「なんや急におっぱいのでかさの話なんかして……。ははぁ~ん、久遠寺の乳見たからやな? あれは武器というより、凶器やな……。あんなもん、普通の男やったら、揉んでみたいやろうなぁ……。まあ、ウチでも揉んでみたいと思うもん」

「ええっ!? 藍那先輩まで!? やっぱり祐二も揉んだりしたいのかな……」

「何で急にそんなこと気にしたりしてるのよ……」


 あたしはため息一つついてから問い返す。

 すると、人差し指の先端をツンツンと重ねるようにして、


「ま、前、エッチしたとき、メチャクチャ、乳首責められたから………」

「朝から惚気ですか? お疲れ様です。はぁ……。いい加減にしないと本当にぶん殴りますよ?」

「ちょ、ちょっと!? そこは穏便にお願いしますぅ~!」

「何だか、摩耶って神楽と付き合い始めてから、アホになってない?」

「だ、誰がアホですか!?」

「いや、普通に今の様子見たらそう感じるんだけど……」

「そんなことありません! た、ただ……久遠寺さんのおっぱいにはどうしても負けるから……」

「いやいや、普通にここに住んでるみんなに負けてるからね……。勝ってるのは祐二くんくらいにかしら……」

「え、江奈ちゃん!?」


 さすがにあたしのツッコミがガッツリと、無い胸に刺さったのか、両手で胸を押さえる。


「わ、私だって胸が大きくなりたいのよ! だから、毎日豆乳を飲んだりしてるんだから!」

「巨乳になるサプリメントとかあればいいのにね……」

「ぐふぅっ!? 何か、今日の江奈ちゃん、暴力的じゃない!? 私の胸に何か恨みでもあるの!?」

「いや、さすがにそんな胸に恨みはないです。こう見えて、あたし、Eカップなんで……」「Eカップ……!?」


 摩耶ちゃんはそう叫ぶと絶句して、指を折りつつ、ABC……と数え始める。

 そして、何度数えても無駄な足掻きだというのに、心を折りそうになりながら、指を折るのであった。

 あたしは残っているハニートーストを平らげると、食器をササッと洗い終え、洗面所で歯磨きをする。

 すると、ドアを開けて入ってきた人物を見て、あたしは一瞬固まってしまった。

 だって、それは幼馴染だけど、あたしの中では好きになってしまった、お兄ちゃんこと祐二くんだったんだから……。



 あたしと祐二くんは歯磨きを終えると、何かブツブツと呟いている闇深そうな摩耶ちゃんは放っておいて、一緒に登校することにした。

 何だか、祐二と一緒に登校するのは久々で懐かしさすら覚える。

 それほど長い道のりではないけれど、こうやって二人で歩くのは何だか懐かしさすら覚えてしまう。


「ねえ、祐二くん!」

「ん? どうした?」


 うん。いつも通り、あたしに対しては気だるそうな返事。

 冷たそうに感じるかもしれないけれど、実はこれが普通だったりする。

 小学校・中学校とあたしのことをサポートしてくれていた祐二くんとあたしは中学校後半からお互いのことを幼馴染としてではなく、男女として認識するようになってしまい、接し方がこんな感じになってしまった。

 とはいえ、あたしの恋心は変わってないんだから。

 そして、心に決めていたことがある――――。


「ねえ? 久々に手ぇ、繋いでもいい?」

「ええっ!? で、でも……」


 まあ、そりゃ、摩耶ちゃんという彼女が出来たんだから、それは問題とでも言いたいのだろう。

 でも、学校ではそもそも祐二くんと摩耶ちゃんが付き合っていること自体知られていない。

 だからこそ、別に手を繋いだっていいのだ!(自己的都合解釈)


「大丈夫だって。摩耶ちゃんは今日は近くにはいないんだから」

「あ、うん……。分かった。幼馴染として……な」

「……うん」


 何だかモヤモヤしちゃうな。

 幼馴染として―――――か。

 でも、諦められないんだもん。

 あたしは決めたんだ!

 今日から、あたしは積極的に祐二くんに好きをアピールするって!!!

 あたしは笑顔で繋がっている手を見つめると、そのまま彼の腕をギュッと抱きしめた。


「ちょ、ちょっと江奈!?」

「えいっ! 逃がさないぞ!」


 あたしはそのまま行き交う学園の生徒たちの視線を横目に、奪える時は奪うと決めて行動することにしたのであった。

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