第25話 いつもの風景(自宅編)③

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 あたしがドアの前に立って、そっとドアを開いたときに―――――、


「イ、イクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!」


 よく知っている住民の蕩けた声が嫌でも耳に入ってきた。

 明らかに摩耶ちゃんの声だ。

 しかも、絶頂してるなんて――――!

 今は朝の6時半よ! 健全な高校生ならば、そういうことは絶対にしない。

 もちろん、この部屋の住民及び通い妻と化している摩耶ちゃんはそういう健全さはどこへやら吹き飛んでしまっているのは間違いないようだ。

 そっと中を覗き込んでみると、顔をピンク色に染め上げた乙女がハァハァと甘い吐息を漏らしつつ、激しい攻めの後だったのか、息を整えているようにも見える。

 その瞳はどことなく陶酔しているようで、かつ蕩けていた。

 な、何なの!? あのエッチな瞳は…………。

 普段、学校で見ている凛々しい学年2位の秀才でありながら、摩耶財閥の跡取り娘とは思えないようなエロい顔をしている。

 いや、これ、普通に彼女のお父さんに見せた瞬間に家に引き戻されるんじゃないかしら………と心配すらしてしまう。

 どうやら、ハァハァという吐息を漏らしつつも、まだ動こうとしないのは、先ほどの快感の余韻を楽しんでいるようにも見える。

 身体はピクピクと小刻みに震えているのが、その証拠だ。

 うーん。やっぱエロいよ、摩耶ちゃん。

 どう考えても、あたしと目が合ってもおかしくないはずだが、自分たちの世界に浸ってしまっているのか、気づく様子すらない。

 それどころか――――――、


「ちょ……ちょっと!? 祐二! あんっ♡ ダメだよ! そ、そこはさっきので敏感になってるから……♡」

「いいだろ? 何度もイクの気持ちいいって前も言ってたじゃん」

「そ、そうだけどぉ……」

「今日は休みなんだからいいじゃんか……」


 祐二くんにそう誘われて、普段のツンデレ摩耶ちゃんならば、即否定するのでしょうけれど、今日は「う~ん」と少しばかり悩む表情を見せて、


「ちょっとだけだよ?」


 と、認めるのだった。


「て、ダメに決まってるだろうが―――――――――っ!!」


 あたしはドアを勢いよく開けて、それを制止するしかなかった。

 てか、あたしの前で乳繰り合い続けるんじゃね―――――――っ!!


「う、うわぁっ!? 江奈!?」

「え、江奈ちゃん!? どうしたの?」

「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す(ニコリ)」

「え、江奈ちゃん!? 顔は笑顔だけど、瞳の奥が笑ってないよ!」

「ええ、だって、朝から、恋人同士だからといって、不健全極まりないイチャラブ見せつけられたら、こうもなりますよね?」

「そ、そうね。でもね、これは『死の宣刻』のリセットのためで……」


 摩耶ちゃんは言い訳をツラツラと述べてますけれど、さすがにその呪いについては、あたしだって知識を持っている。


「あれ? 『死の宣刻』のリセットって症状が出た時に行うんでしたよね? それに、そんなに裸同士で肌をこすりつけあうような卑猥な解除方法だったかなぁ……」

「………う゛っ!?」

「それに確かキスでしたよね? 摩耶ちゃんってキスだけでイっちゃうんですか?」

「………う゛う゛っ!?」


 あたしの言うことにひとつひとつ素直に摩耶ちゃんは反応するので、嘘がバレバレなんだよなぁ……。

 摩耶ちゃんは祐二くんの布団で体を隠しつつ、どう言い繕うかと悩んでいるようだが、学年2位の頭脳とは思えないくらい頭の回転は回っていない様子なのが伝わってくる。


「あ、祐二くん!」

「ん!? あ、はい!」

「ここは今、みんなで暮らしているんだよね?」

「あ、ああぁ、そうだな……」

「決して、摩耶ちゃんと二人きりの同棲生活が始まったわけじゃないんだから、勘違いしていつでも摩耶ちゃんを襲うの止めなさい! 今の祐二くんは、まるで盛りの付いた犬だよ?」

「い、犬………」

「これ以上、過激なことを続けるようであれば、あたしとしても二人に罰を用意します」

「「ば、罰!?」」

「もう! 二人でハモらないの! 何だか、腹立たしいんだから! と、とにかく、今のような状況を続けるようであれば………」

「「あれば……?」」

「黙認している通い妻の禁止を言い渡します!」

「ええっ!? そ、そんなことになったら、私の身体の奥底から湧き上がる祐二のテクニックを求めるこの欲求不満はどうすればいいの!?」

「そんなの摩耶ちゃんの部屋にある祐二のアレと同様サイズの梁型を使って処理してください」

「そ、そんなぁ……って、なんで私がアレを持ってるって知ってるのよ!?」

「ゆ、友理奈……」

「あー、祐二もそんな目で見ないで! 単なる私の探求的な欲求から買っただけよ!」

「買っただけ?」

「…………ごめんなさい。いつもお世話になっております………」


 ねぇ、本当にこの人って学年2位の秀才で摩耶財閥のご令嬢なんだよね!?

 なんでいつも梁型で寂しさを紛らわせるようなことしてるの!?

 いつの間にか摩耶ちゃんが完全に壊れちゃってるのかしら……。

 でも、さすがに慈悲の念を持とうとは思えない。


「と、とにかく! 通い妻は週1回だけ!」

「がぁ―――――――――――――――ん!!!」


 衝撃音を自身で吐き出しながら、布団にうずくまる摩耶ちゃん。

 すべすべのお肌が丸見えなんですけれど……。


「祐二くんも分かったね?」

「あ、あぁ………」


 あたしが振り返って、部屋を出ようとするときに、ふと祐二くんに言葉を投げつけた。


「祐二くんのことを好きなのは摩耶ちゃんだけじゃないんだからね! ぜ、前世のつながりがある、み、みんなが、狙ってるんだから!」


 あたしはそういうと、部屋から足早に立ち去った。

 振り返ることもなく――――――。

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