第15話 彼氏と彼女の戦い(一学期末考査)①
1
昼休みの屋上――――。
6月に入り、気象庁が梅雨入りを宣言して、ジメジメと熱くなり始めている。
聖天坂学園も夏服への衣替えが行われて、肌の露出、そして身体の造形がはっきりとわかるようになるこの季節!
男どもの視点はもちろん、女子の胸元に向かい、性の目覚めへと
そのような煩悩の塊とは無縁な男女が、屋上の目立たないところで昼食後のお楽しみをしていた。
「「んちゅ……ちゅるちゅる……はむ……れろれろ……」」
それは最近、お互いが恋人になれた俺、神楽祐二と目の前で少し頬を赤らめながら、目もとがとろけてしまっているのが、摩耶財閥のご令嬢である摩耶友理奈である。
俺たちは前世で世界樹の一番高いところで、愛を誓った。が、
そして、俺は紆余曲折(第一章参照)の上で、友理奈が本当の世界樹で愛を誓った恋人であることが証明されて、付き合うことになった。
だが、さすがに友理奈の知名度の問題もあり、学校では「苗字呼び」「仲良くしてはいけない」など色々と制約をかけられてしまった。
だが、我慢できないのは、友理奈の方である。
「友理奈……、我慢できなかったの?」
「そういういい方しないで……。まるで私が絶倫女みたいに聞こえるから……」
「いや、エッチしたことないからしらないけど……」
「いやらしいことしたときに見たでしょ……? 私の痴態を………」
怒っているのか、恥ずかしがっているのか知らないが、顔を真っ赤にしながら、友理奈は俺に抗議してくる。
あ、確かに言われれば見た……。
お互いの感情が高ぶってしまって、つい本番手前まで行ってしまい、そこで黒崎先生に止められるということがあった。
あの時の友理奈はすごかった……(語彙力)。
まるでサキュバスかと思えるような、エッチなフェロモンを出しつつも俺の身体の気持ちいいところを的確に当ててきた。
て、俺も少し恥ずかしくなってしまう。
「でも、こうやって昼休みにキスしてるじゃん」
「今日は朝、江奈に祐二が奪われたからよ……。本当、幼馴染には優しいわね」
「まあ、それは許してやってくれ……。アイツは小さいころから体が弱くて、俺が兄同然として面倒見てきたからな……」
「ふーん、あ、そう。じゃあ、今は私があなたの彼女としてイチャイチャしてもいいんでしょ?」
「ま、まあ、構わないぞ。ただ、エッチなことは止めておけよ。見つかったら、後がまずいからな」
「わかってるわよ……。すでに私は1つペナルティを学校から受けているんだから……」
先の事件で、友理奈は加害者とされて、退学にはならなかったものの、何か他の問題が起きれば、退学やむなしというペナルティを学園からありがたく頂戴している。
「でも、私だってこうやって甘えたいときもあるわよ」
と、友理奈は言いながら、俺の胸にもたれかかってくる。
俺はそれをそっと受け止める。
「私もあなたに出会わなければ、きっと何もないまま、ただ、お父様の言いなりに社交界に出て行って、家のことを教わって、財閥を引き継ぐという運命になっていたはずだもの」
「それが俺と出会って……」
「変わっちゃったわねぇ……。まさか、あなたと偶然、唇が触れ合ったあの日に、あなたが新たな呪いをかけられて、それを助けるためにキスをさせられて……。結果として、私はあなたとの前世のことを思い出した」
「そして、俺と付き合うことになった」
「本当よね。それが一番想像もしてなかったことだもの」
友理奈は体を起こし、意地悪く笑う。
「最初は急にキスしてきた変態だと思ってたのに、いつの間にか、祐二のことしか考えられないようになっていた。自分でも言っても恥ずかしいけれど、こんなに祐二のことを思うだけでドキドキできるようになっちゃうなんて………」
そういって、再び友理奈は俺と唇を重ねてくる。
俺もだ。俺も口には出さないが、今は隣に友理奈がいないと不安だし、なんだか気持ちが悶々としてくる。
このキスをしてもらえることで、安心を与えてもらえるようだ……。
「さ、そろそろ昼休みも終わりね。あ、そうそう。今日からあんまり自由な時間が取れないと思うから分っておいてね!」
「え? なんでだよ!」
「あんたねぇ……。もう少しで期末考査でしょ!? 中間考査はゴタゴタしてて、十分に勉強できなかったんだから、今回はしっかりと復習に取り組んで、あんたを倒すのよ!」
なんじゃそりゃ!?
めちゃくちゃ勝負を挑まれてるじゃねーか!
こうなったら、こっちも四の五の言ってられない。
「ほほう。王者の貫禄を見せつけてやるよ!」
「な、何よ! 吠え面をかかせてやるわ!」
「じゃあ、買った方が負けた方の命令を聞くっていうのでどうだ?」
「いいわよ! 絶対に勝ってやるんだから!」
お互いが挑発に乗った形になってしまったような気がしないでもないが、1学期期末考査の戦いの火蓋が切って落とされたのであった。
「あ、でも、毎日キスはしてよね……」
そういって、友理奈は最後に俺にキスをして、階段を駆け下りていった。
取り残された俺は、呆然と立ち尽くして、
「くそっ! 可愛いなぁ、もう!」
悪態をつくのであった。
2
放課後、さっそく、勝負を挑んできた友理奈は普段のように俺の様子を伺うでもなく、教室を出て行った。
たぶん、学校に設置された自習室か、図書室に籠る算段だろう。
ふふふっ! しかし、甘いな!
俺が自身の勉強だけで終わると思ったら大間違いだ!
「なあなあ、祐二~」
大変馴れ馴れしい声が隣から聞こえてくる。
当然、声の主は、幼馴染の洞泉江奈だ。
クリッとした瞳で俺のほうを見てくる。
「うっ!? お前はチワワか!?」
「おおっ!? あたしがチワワみたいに可愛いって!? さすが、祐二は分かってるなぁ……」
すげぇ……。自分のことを可愛いチワワだと認めやがった。
江奈は腕を組んで、うむうむと頷きながら、
「最近は祐二の隣に泥棒猫がくっついてしまって、江奈は寂しかったのだよ……。さあ、今日からみっちりとあたしに期末考査の指導をよろしく頼むよ!」
「はぁ!? 江奈は頭いいんだから、自分でやればいいじゃないか……」
「じゃあ、何か?」
大きな瞳から涙が溢れてくる。
こ、これマジ泣きか!?
「祐二は、あたしが普段、祐二のおかげで頑張れているっていうのに、見捨てるんだね……!?」
もう周囲は俺に対して敵意のまなざししか向けられない。
そりゃそうだ。
最近でこそ、摩耶が転校してきて、クラスの憧れの女の子ランキング1、2位が同率でいてるこのクラスの片割れである江奈を泣かそうとしているのである。
しかも、普段から仲がいいと言われている、この俺が……。
そんなこと周囲が許してくれるはずがない。
「わ、わかった……。ちゃんと教えるから……」
「わーい! やったぞ! 嬉しいなぁ~、じゃあ、スタバでも行く?」
「お前、勉強する気あるのか?」
「あははは……。冗談だって、じゃあ、二人の秘密の部屋に行こ?」
周囲の男子生徒が、ガタッと大袈裟に音を立てて立ち上がる。
江奈は「ん? どうかしたの?」と周囲を見渡しているが、俺の心の中はそれどころではない。
「お前なぁ!? そんないかがわしい店のような言い方するんじゃねー!(ボソボソッ)」
「ええっ!? あたしはそんなこと何も言ってないよ!?(ボソボソ)」
「《秘密の部屋》って言ったじゃねーか!?(ボソボソッ)」
「え、だって、祐二の部屋って言えないじゃないか!(ボソボソ)」
「そりゃそうだけどよ……。言い方ってものがあるだろ!?(ボソボソッ)」
「ご、ごめんって……(ボソッ)」
「分かればいいよ……(ボソッ)」
江奈はふぅーと深呼吸を一つ入れて、
「じゃあ、あたしたちの未来のために頑張ろうね!」
俺は教室内の男子生徒の悪意ある視線で刺殺されたのは言うまでもない……。
本当にコイツの天然ぶりはヤバすぎるぞ!!
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