第11話 ワタシ ノ キモチ。アナタ ノ キモチ。①

     1


 あたしたちは息を切らしながら、階段を駆け上がる。

 前世のそれと違い、今の身体は残念ながら、鍛えられたものとは違う。

 だから、そんなに力が出せるとは思えない。

 それに前世の時のことを思い出すと、幾分か魔力の力を借りることで、走るスピードを速めていたことに気づく。

 うーん。あれは明らかにズルだな……。

 あたし以外に優紀ちゃん、そして藍那先輩がともに息を切らしている。

 周囲から見たら、何事かと思われてしまう状況だ。

 何とか5階にたどり着くと、その奥にある「呪術・法術同好会」の教室までもうひと踏ん張りする。

 そして、あたしは勢いよくドアを開けた。

 すると教室の真ん中には、摩耶ちゃんの膝枕で優しい寝顔をしている祐二くんの姿があった。

 一瞬、あたしたちは息を止めてしまう。

 そう。呼吸を忘れてしまいそうになったのだ。

 目を閉じていた摩耶ちゃんがそっと目を開ける。


「……あら。遅かったじゃない?」

「「「……………………」」」


 摩耶ちゃんの口調はいつもと同じなのに、誰も何も言い返せないでいた。

 何かがいつもと違う。

 何だろう。この重圧感プレッシャーは――――。


「あれ? どうかしたの? 神楽なら、さっき、『死の宣刻』の症状が出たから、リセットしてあげたわよ」

「摩耶ちゃん」


 あたしが話しかける。

 すると、愛おしそうに見つめていた祐二からあたしに視線だけを彼女は動かす。


「何かしら?」

「今日の摩耶ちゃん、何か変だよ?」

「そう? 別に何も変わったところなんてないと思うけれど?」


 そういって、身体をフリフリして見せる。

 もちろん、着衣の乱れもない。外見上は正真正銘の摩耶友理奈だ。

 だが、ここにいるあたしだけじゃない。後ろの二人もその変化に気づいているはず。

 摩耶ちゃんの中身がおかしい………。

 これがあたしたちの感じた結論だ。


「あなた、摩耶さんじゃないわよね?」


 優紀があたしよりも一歩出て、そう告げる。

 摩耶ちゃんは、呆けた表情をして、


「本当にもう、何言ってるのよ? 私は私なんだけど……? どうして、私が摩耶じゃないというのか理解できないんだけど……」

「そうです。あなたは摩耶友理奈ではありません!」

「あーはいはい。って納得できるわけないでしょ? 何言ってるのよ。そのうち、私も怒るわよ! それよりも今は静かにしてよね。折角、私の膝枕で神楽が寝てるのよ。すっごく幸せな時間なんだから、邪魔させたくないわ」


 そう言うと、再び摩耶ちゃんは視線を神楽へと移す。

 愛おしそうに見つめている。


「まあ、別に膝枕くらいどうでもええんやけど? それよりも、摩耶の身体は何ともないの?」

「はぁ? だから、さっきから言ってるじゃない。何てことないわよって」

「いや、それがおかしいねん」

「はぁ!?」


 膝枕の姿勢を崩したくないらしく声だけ荒げる摩耶ちゃん。

 藍那先輩は確信を持つように、摩耶ちゃんの近くに寄っていく。


「あんた、何で、身体が熱くならへんのや?」

「はぁ? 別にこれで普通じゃない」

「いいや、ウチは知ってるで。神楽にキスをされた中で、一番エロい自慰行為をしてたんが、アンタやってことをな」

「いや、だから、それがどうっていうのよ」

「つまり、神楽をそんなに近くにして、しかも膝枕にしても、気分の高揚が認められないなんて、アンタ、何かおかしいなっとるで」

「人を変態女みたいに言わないでくれる?」

「いいや、アンタが一番症状がキツク出るのには、理由があるんや……。せやから、敢えて言わせてもらうわ。アンタは前世で神楽と世界樹で永遠の愛を誓った恋人なんでしょ?」

「「ええっ!?」」


 あたしと優紀ちゃんは驚きの声を上げる。

 だって、あたしは朝、神楽に告白されている夢を見たじゃない。

 一体、あれは何だって言うの?


「あらぁ? 気づいちゃったんだ……。もう少し、伸ばしてくれても良かったのに……。で? いつから気づいていたの?」


 摩耶ちゃんはニヤリと意地悪く笑うと残念そうにそう呟く。


「最初は確証がもてへんかったけど、アンタが性欲が人一倍出ていることを聞いた時やな」

「ふんっ! あれは本当に失言だったわ。周りもみんな、同じように性欲が溢れ出ていると思っていたんだけど、そうじゃなかったのね。何だか、私だけがエッチな人みたいに見えて、恥ずかしかったわ……。正直なところ」

「せやけど、確証を持てたのは、あの夢を見たときやったわ……」

「へぇ……?」

「ウチはあの告白された場所がわからんかった。それに後ろの二人も場所までは深く考えてなかったみたいやけど、分かってへんようやったから、消去法で最終的にアンタに行きついたってわけや」

「ご名答。藍那先輩ってやっぱり頭良いですよね」

「褒めてるつもりなん? それとも貶してるん?」

「褒めてますよ。でも、だからと言って、私は神楽を話したりしませんよ……」

「何でなん? 運命の人やからか?」

「そうよ……。そして、私は彼のことがす………」


 摩耶ちゃんが、話の途中で苦悶の表情を浮かべる。

 胸を掻き毟るように苦しみ始める。


「また、光の杭が邪魔をするのか……。でも、舐めるなよ……。白之魔女リジェ、私が常にお前の言いなりになると思うな……」


【―――そうはさせない。貴様は不幸を味わい、そして成就されない恋心にさいなまれ続けるのだ】


 摩耶ちゃんの後ろから、突如気配もなく現れたのは、黒崎先生だった。

 どういうこと?

 黒崎先生が、どうしてこんなところにいるの?


「黒崎先生!? どういうことですか?」


 あたしの持っていた疑問を、優紀ちゃんが投げつける。

 黒崎先生はニヤリと口元を歪めると、


「黒崎か……。貴様たちは本当にこの身体の持ち主のことを好いておるな……。いや、信用しておるのか? まあ、良い。今、目の前にいるのは、白之魔女リジェじゃ。この身体の持ち主である黒之魔女フィアには眠ってもらっておる」


 え!? え!? どういうこと!?

 ちょっと状況把握が追い付いていないんだけれど!?

 あたしの頭の中には、新しい単語が突如押し込められて、理解不能に陥ってしまいそうになる。


「この子には魔王の力を持たせてあげたの……。制御なんか不可能よ……。私が光の杭の本当の力を作動させてしまえばね」

「何をするの!?」

「魔王ユリナールには命を燃やして、彼の前であなたたちを皆殺しにしたうえで、死んでもらうの。そうすれば、ユリナールが幸せになることはならない。世界樹の力から解放されることになる。そして、私の最愛のユリナールを誰にも渡さない」

「止めて!」


 あたしがそう叫んだ時、黒崎先生の姿をした白之魔女リジェは、指をパチンと鳴らした。

 それが合図かのように摩耶ちゃんはあたしたちに腕を払った!


「横に跳べ!!」


 藍那先輩の言葉にあたしと優紀ちゃんは従う。

 バリィンッ!!!!!

 何も見えないかまいたちのようなものがあたしたちの横を通り抜ける。

 と、同時に後方にあった窓ガラスが割れ、飛び散る。

 さらに、その通りになった床が捲れ上がり、壁には大きな斬撃跡が出来上がる。

 て、待て待て待て―――――――い!!!


「あんなの喰らったら死んじゃうじゃない!」

「んふふふ。だから言ってるじゃない。殺そうと思ってるって」

「ちょっと! 摩耶ちゃん! こんな奴の言うことを聞いちゃダメだよ!」

「ウ…ルサ…イ……」


 相変わらず摩耶ちゃんは神楽に膝枕をしたまま動こうとはしない。

 せずともあたしたちを殺すことが出来るのだろう。


「藍那先輩、どうします?」

「うーん。困ったことになったわぁ……。そもそも窓ガラスが割れた時点で、他の部室の連中にも知れ渡ったやろうし、それにきっと先生にも報告がいくやろなぁ……」

「じゃあ、みんな来ちゃうじゃないですか!?」

「せやねぇ……」

「いや、何を落ち着いているんですか!?」

「いや、もう落ち着いていいひんかったら、やってられへんわぁ……。だって、このままウチら死んでまうんやろう?」

「そんなことないですよ! きっと何か解決策があるはずです!」

「でも、ウチら、逃げ回るしかあれへんで?」

「まあ、そうなんですけどね……」

「ゴチャ……ゴ…チャ……ウ……ルサイ!!」


 ドスの効いた摩耶ちゃんの声が部室内に反響する。

 と、同時にあたしたちは再び逃げる。

 刹那、もと居た場所はプレス機に掛けられたかのように、破壊される。


「摩耶ちゃん! お願いだから、意識を取り戻して!!!」


 あたしは無我夢中で、彼女のもとに飛びつき、身体を揺さぶっていた。

 そして、摩耶ちゃんと目が合った瞬間。


「―――ねえ、私と神楽の幸せを邪魔しないで」

「――――え。」


 ハイライトが消えた瞳の摩耶ちゃんに耳元で囁かれた瞬間、あたしの胸が急に熱を帯びる。

 と、同時にあたしは気づいた。

 摩耶ちゃんの左手があたしの胸を突き刺していることを………。





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作品をお読みいただきありがとうございます!

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