10 戦いの終焉と浄化神術
一人当たり十何体とリザードマンを退治し続け、ついにその時が訪れる。
ミュレットの制御から完全に離れた業火が、あの巨大であった緑の龍を焼き尽くしたのである。
最後となった尻尾の先が焦げ炭となり、魔素として宙に溶けていく。
「ようやく終いとなりましたな――」
待っていたと言わんばかりに声を上げるヴィンド。
グリーンドラゴン自体は焼け消えていったが、そこから生まれたリザードマン達は未だに武志達の前に立ち塞がっている。
ヴィンドの言葉を受けて、ノールが前に出てヴィンドと対峙していたリザードマンの相手を受け持つ。
魔素が形となった斧を振りかざすリザードマン、それを大剣で受け止めるノール。
ヴィンドは僅かに頷くと、距離を開けるように後ろに跳ねた。
低い跳躍から着地すると、刀を仕込んだ杖を垂直に構える。
「白銀の月よ、この手に集い来たれ。祓えよ、
大気を震わせる詠唱。
鬱蒼とした森の木々が揺れる。
ヴィンドの構えた杖が神々しく光り出すと、ヴィンドは杖の先端で地面を叩いた。
杖から大地へと伝う光、瞬く間に辺りへと広がっていく。
波のように押し寄せる光が、廃墟となった村中に広がっていき、光に触れたリザードマン達を飲み込んでいく。
光に飲み込まれたリザードマンは、ゆっくりと元の魔素として宙に霧散していく。
リザードマン達の様子を見て、武志は足下に広がる光を避けようとするが、すぐ様ノールの、大丈夫だよ、という助言が入る。
「ヴィンド爺みたいな僧侶が扱う神術のひとつさ。穢れた魔素を神の御力で浄化するんだって。仕組みについて知りたかったら、ヴィンド爺に後で聞くといい」
魔素と同じで俺は使えないから、ノールは付け加える。
神術というものの仕組みはわからないが、魔素も神術も使えないということを別段残念であると捉えてないような表情をノールがしてるように、武志には見えた。
忌み子と蔑まれてるはずなのに、それを苦と捉えていないのだろう。
あるいは、捉えないようにしてるのだろう。
「神術の仕組みをヴィンド爺に聞くって、それって、
武志とノールの側にミュレットが寄ってきて、小声気味の忠告をしてくる。
「ええ、信仰の賜物です」
ヴィンドに聞こえないようにと遣った気が、無駄になったことを知ってミュレットは、げ!、と零した。
「め、女神は私も信仰してるけどさ、あの、長話はちょっと……」
「ミュレットには、信仰のことよりも魔法の扱いについて話をしなければなりませんね?」
「え、いや、今回はほら、アースカがやれって言うからやったまでで。私もほらあそこまで大きな火球は制御出来ないって自覚はあったし」
面倒な説教というわけではない。
ヴィンドの話は、実際為になる授業だとも言える。
しかしながら、集中出来る長さというものは考慮してくれない。
長い長い眠気との戦いは、一種の修行のようで嬉々として受けたいものでは無かった。
ミュレットは、アースカに視線を向けて救いを求める。
頼んだのは事実なので、アースカは渋々頷いた。
「ヴィンド爺、ミュレットの言ってることは本当だ。オレが彼女にあの火球を頼んだ、だから――」
アースカは一歩前に出て、言葉を悩む。
だから、長話をするのはやめてやってくれ。
という言い方は正直好ましくない。
アースカ自身はヴィンドの講釈を好んで聞いているからだ。
かつての戦功を混じえた、偉大なる先人の有益な教えだ。
どこを取ってもこの先の旅への糧となる話だ。
「――あー、オレも一緒に話を聞こう」
「え? ちょっ、アースカ!?」
助け舟どころか単なる同乗者になったアースカに向けて、抗議の視線を向けるミュレット。
ヴィンドはうんうんと頷き、では後ほど、と授業の確定を宣言した。
「俺も聞いた方が良いのかな? 魔素とか、神術とか、わからないことだらけだし」
「タケシは勉強熱心だな。遠慮なく聞いてやってくれ、年寄りってのは話が好きだからな」
そう言って武志の肩をぽんと叩くと、ノールは霧散していったリザードマン達の跡に向かって歩き出した。
リザードマン達、そしてグリーンドラゴンがいた場所まで歩くとノールは屈み、地面から何かを拾い上げる。
「これで、四つ目か……」
ノールが拾い上げたのは、ボロボロに錆びた金属製の小さな鎖だった。
武志は気になって近寄ってみると、そのサイズ感から首に巻いていたものだと推測する。
「四つ目って、その首飾りみたいなヤツを集めに来たのか?」
「いや、違うよ。これはこの村の住人の遺品さ。四つ目と言ったのは俺達が浄化してやれた村の数だ。やっと、四つ……まだ、四つ目って感じだよ」
自分のことについて何とも思ってないような表情を見せていたノールが、苦しみを帯びた悲しげな表情をしていて、武志はかける言葉を思い悩んだ。
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