第43話 死神の守人へ。。。
甘美な血肉の匂いが鼻腔一杯に広がって、僕は痛みを感じるより陶酔していた。頭の奥が痺れて、思考が麻痺している。このまま、八と一緒になれるなら、それも悪くはない。何て、ぼんやり考えていた。もう、自分は、消えてなくなって、苦しむ事もなく、醜い化け物に変わる事もない。八に任せていればいい。血肉の匂いは、僕に、紫に咲くたくさんの花々を見せている。風に揺れる一面の紫の花。むせる血肉の香。微睡む僕の視界に、幼い少女の顔が、飛び込んできた。
「誰?」
僕は、ぼんやりと滲む影を見つめた。どこか、見覚えのある。。。
「随分、気持ちが良くなっているみたいね」
幼い顔には、似つかわしくない言葉を吐いた。
「いつまでやっているの?恋愛ごっこは、終わりだよ」
少女は、小さな手で、八の顔を押さえ込んだ。
「正体、現せ」
少女の手は、八の顔を押さえ込み、噛みつこうと暴れるのにも、動じなかった。
「何の為に、幼い姿で、黄泉路に来たのか、解りゃしない。結局、あなたの煩悩は、そこなのよね」
少女が、持っている杖に、呪いをかけ、八を叩くと、八は、一瞬で、ガラスの様に砕け散り、後には、紫の花弁が散っていた。
「血肉の花。食魂華よ。その人の一番の夢を見させてくれる。引き換えは、あなたの血肉。お互いに貪りあって、最後には、妖鬼が生まれるわ」
少女は、まだ、意識がはっきりしない僕を見上げて、言った。
「まだ、わからないの?今、地上で起こっている事。わからない者達は、妖鬼を神と崇めているわ」
幼い少女は、薄い金色の瞳で、僕に話しかけていた。あぁ。。この瞳は、見覚えがある。ある時は、白衣の天使として、医療で人を支え、ある時は、老婆となり、僕の前に現れた。
「紗羅。。」
僕の瞳から、熱いものが、こぼれ落ちた。
「やっと。。逢えた」
僕は、随分と、僕より幼くなっている沙羅の体を抱きしめた。
「お礼は、言わなきゃね。。。あなたのおかげで、眠りから覚めた。でも、あなたを見つけたのは、私なんだから、それは、当たり前ね」
沙羅は、抱きしめる僕の胸を優しく押した。
「蓮。八宮に会えるのは、もう、難しいかも知れない。あなたが、進化すればするほど、逢えない。この道を進む事は、諦めて」
「諦められない。八は、僕にとって、大事な人。誰よりも何だよ。沙羅」
沙羅は、首を振った。
「あなただから、ダメなの。」
「無理だよ」
「蓮。」
沙羅の持っていた杖は、沙羅が軽く振ると、柄の長い鎌となった。
「八宮の命は尽きているの。今世ではもう逢えない。。でも、あなたに免じて、迦桜羅を引き受けたあなたに免じて、いつか、逢わせてあげる」
「どうして?」
「八宮の魂は、もう、残っていないの」
八がいなくなってしまった。僕の手からすり抜けてしまった。
「それなら!」
僕は、叫んだ。
「それなら、どうして、あの夢から、覚ました?あのまま、僕は、八に取り込まれてしまって良かったのに」
「あれは。。。八宮ではないんだよ」
わかっているのに、自爆的な言葉を選ぶ僕は、愚かだ。八の魂を追いかけ、黄泉路を着ても、取り返す事は、できない。それでも、僕は、できると信じここまで来た。
「蓮。目を覚ますのよ。あなたが、今、見る世界が本当の世界なの」
沙羅は、黄泉路で、大きく鎌を振り上げた。
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