第37話 終わりのない戦いの始まり

市神は、湖に浮かぶ自分の姿に満足していた。無くしていたものをようやく取り返し始めている。そんな気分だった。湖の底に沈んだ蓮の姿とは、瓜二つであるが、手には、炎の剣を持ち、それは天を焦がす勢いで燃え盛っていた。蓮の息の根を止めなければ、全ての力を手に出来ない。市神は、望んでいる訳ではなかった。最初は、三那月の自分を取り入れるためだけの嘘だと思っていた。が、連から取り返した迦桜羅の姿になった時に、忘れていた記憶が蘇ってきた。

あの日。。。自分達は、信徒達と静かに暮らしていた。それは、理想の国であり、豊かで、争う者がいない信じる者達で満たされた世界。貧しい者には、手を差し伸べ、人を守り、病を治す神官の勤めを迦桜羅として行っていた。何年も、そんな日が続くと思っていた。が、ある日、突然、変わってしまった。信徒の中に裏切り者が現れた。彼は、黄泉の者。紛れ込み、信徒達を殺め始めた。迦桜羅を誘き出すために。戦いは、終わらず地上を巻き込んだ。迦桜羅のみならず、いくつかの化身たちも現れ、戦ったが、忽然と現れた1人の女神に、次々と、倒されていった。市神も例外ではなく、女神の剣に、地に落ちる事となり、致命的な怪我を負った。

「本当の後継者ではない」

吐き捨てるように、女神は言った。

「お前が、手にすべき者ではない。修行者が、手にしてこそ、力をもたらす者」

女神は、信徒達が、誤った方向で、世のバランスを崩したとも言った。市神は、信じられなかった。何も争わず、暮らしていただけなのに。誤解だと。地の者は、どうか?争いだけではないか。地を正すために、黄泉があり人は、悔やみ、行いを正す。市神は、最後の力を振り絞り、女神に挑み、敗れた。記憶はそこまでだった。気がつくと、自分は、寂れた街の医者として、生活をしていた。富める者、貧しい者も平等に、医療を施す。それで、自分は、満足だった。蓮が、自分の前に現れた時。自然と気になった。おどおどして、周りの目を伺い落ち着かない青年。得体が知れず、それでいて懐かしい匂いがする。気になったのは、迦桜羅のせいだった。自分には、認めないと言ったのに、何もない青年が、得るのは、許される事なのか?市神は、体の中の血液が逆流する思いだった。

「自分には、ふさわしくない。それなら、蓮の何が、ふさわしいのか。見てやろう」

市神は、蓮を消滅させる事にした。あの女神の言う事が、本当なのだとすれば。

「指1本、残らず昇華してやる」

望んだ事に、再び、この街で、不穏な渦が生まれつつある。黄泉より現れし者が空を覆い、信徒達の中から、神となる者が現れ、互いの力を争う事が始まっている。まとめ、治める者が、必要だった。

「他愛もない」

湖に沈んだ後、湖面には、真っ赤な花が咲いたかの様に、血の海が広がっていた。市神は、満足した様に、見下ろし、飛び立とうとした時に、湖面が大きく盛り上がり、爆発した。

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