第22話 助かる為に、犠牲にする命

牛頭と馬頭は、黙って顔を見合わせていた。石棺の前には、大きめの黒いフードを被った女性が立っていた。仮面で、顔を隠してはいるが、沙羅と同じ匂いがする事は、わかっていた。

「ルールを守らないから、こうなるのよ」

静かに女は、言った。冷たく、感情のない声。沙羅も、冷たさの中に、凛としたものがあったが、その女には、残虐性さも感じる。

「あの。。。」

牛頭が、恐る恐る声を上げた。

「瑠眞様」

瑠眞と呼ばれて女は、冷たくも厳しい目を向けた。

「終わる命を狩るのには、紗羅様の何ていうか。。。ポリシーというか。。。がありまして」

瑠眞は、返事もせずに、手に持った細い鎌の刃先を向けていた。白い刃先が、牛頭の頬を撫でている。

「そんな事より、急がないと。沙羅様の身体が。。。」

馬頭は、叫んだ。意識朦朧とする沙羅の胸は、内側へと、向かい崩壊していっている。

「簡単な事よ。ここで、イエスといえば、力は貸してやる。その刃先を向けた男を殺すくらいのね。だけど、その為には、私達のルールに従って、狩るのよ」

「狩るって?」

沙羅は、うっすらと目を開けた。

「紗羅様!気がついたの?」

牛頭と馬頭は、身を乗り出していた。

「何をしろと?」

「決められた通りに、狩るの。冥府から、言われた通りに、」

「無理だわ」

沙羅は言った。

「生きられる人まだ、この世界で、役目を果たす人は、狩れない」

「なら、消えるのね。替わりは、いくらでも、いるんだから」

瑠眞は、沙羅に背を向けた。

「あちらの世界と、こちらが繋がってしまって、分別のつかない状態になっているの。沙羅。選んでいる場合ではない。黄泉に送りなさい。言われた通り」

沙羅の身体の状態を気にして、牛頭と馬頭は、もう、黙っていられないと、背を向けた瑠眞のマントの裾を掴んだ。

「私達が、やります。いくらでも、何人でも、魂を持ってきます。そうしたら、助けてくれますか?」

「あの医者を狩ればいいんですか?」

牛頭と馬頭の、申し出に、瑠眞は、ゆっくりと微笑んだ。

「そうね。今までの、帳尻を合わせてもらおうかしら」

「辞めて!」

沙羅は、叫んだ。

「私は、望んでいない。いつまで、こんな事をさせるの。牛頭。馬頭。命令よ。あなた達は、動いては、ならない」

瑠眞は、沙羅の首元に、鎌の刃先を突きつけた。

「なら、消えなさい。今すぐ!」

瑠眞は、沙羅の首元から、鎌を振り下げようとして、ある事に気づいていた。

「え?」

瑠眞の様子に、牛頭と馬頭も気づいて、沙羅の胸元を見つめた。

「止まってる?」

沙羅の崩壊が、止まっていた。

「これは?」

牛頭と馬頭は、顔を見合わせた。崩壊が止まっている。。。という事は、市神の身に何かが、起きた事を知らせていた。だが、沙羅の身体が、元に戻る訳ではない。何かが、起こり、一時的に、崩壊が止まっただけに過ぎない。

「何かが、起きたようね」

瑠眞は、遠くを訝しむように目を細めた。

「だからと言って、助かった訳ではない。誰か、若い魂を連れてきなさい」

沙羅の強い眼の前で、牛頭と馬頭は、動けないでいた。

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