第1話

 私はその場で彼らに連行された。

 素っ裸の女の子が、剣を持った男達数人に拉致されるなんて、考えてみれば大変なことだけど、あのまま砂浜に放置されていたら、私は熱射病にでもなって倒れて、下手すると命に別状ぐらいはあったかもしれないから、助けてもらったんだと思ったほうがいいかもしれない。

 私に外套を貸してくれた男は、イルスと名乗った。イルス、なんとか、かんとかだ。長い名前が後に続いていたけど、そっちのほうは忘れてしまった。彼もそのことは全然気にしていないようだった。

 連れて行かれた先は、りっぱなお屋敷で、どうやらそこはイルス・なんとか・かんとかの家のようだった。門のところで待っていた人たちが、彼に「お帰りなさいませ」と言ったからだ。

 拉致ってきた娘っこを連れて入るにふさわしく、外套を私の頭からすっぽりと覆い被せたまま、彼は私を横抱きにして足早に門をくぐった。迎え出た人たちに、「水、風呂、着替え、それから食事を」と早口に言いつけた。言われた彼らは黙って頭をさげた。

 やっぱり偉い人なんだ。イルス・なんとか・かんとか。

 お姫様抱っこで廊下を突っ走られながら、私はそう思った。

 ところで、どうしてこの人走っているんだろう。なにをそんなに焦っているの?

 外套の端をめくって、ちらりと盗み見た彼の表情は、かなり必死だった。

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