第17話 そして…婚約 1

「なんらぁ?小僧⁉︎」

 オーイ。呂律アヤシイぞ?

 その割には足元フラついてないし目も据わってるし。酔っ払っても冒険者か…。何だかなぁ。


 褒賞の陞爵、皇太子殿下達との密談。

 気楽な冒険者やって、と思ったオレの思惑がビミョーに崩れてる気がしないでもない不本意な時間も終わり、街へ繰り出したオレは、中心街の屋台等もある広場で、とある少女と連れのメイドに絡む酔っ払いの2人連れと遭遇したんだ。

 でも、うん、確かに酒飲んでるみたいだけど足元なんかのフラつきとか、何か違和感があるんだよね。そこ迄酔ってない。その上で女の子達に絡んでるんだ。


「ロディ?」

「アリス、電撃」

「えー?ま、いっか」


 肩から飛び立ったピクシーアリスはちょい軽めの電撃呪文ジオンを酔っ払いに放った。


「ぐげ、が!」


 流石に瞬発力は失われていたか。酔っ払いは痺れて崩れ落ちる。

「あ、アニキ。てめ、このガキ!」

 もう1人の酔っ払いがコッチに向かって来ようとした瞬間、メイドが懐に飛び込んだ。


「は、ギャア」


 うわぁー、大の男をぶん投げた!まさに一本背負いだ。


「そこ、街で騒乱を起こしているのはお前達か」

 帝都の衛士?何か不本意な言われようだな。

 4人の衛士がコッチに向かって来る。で、状況を見廻すと、

「この酔っ払いに、そこのお嬢さんが絡まれて、その少年が助けに入った、と。そのまんまの状況だが、この認識で間違いないか?」

 そう大声で問い掛けてくる。オレもだが、周りの野次馬達も一斉に頷いた。当然少女と連れのメイドも。

 どうやら正義感溢れる真っ当な衛士みたい。

「一応役目によって問う。君達の名は?」

 少女とメイドは顔を見合わせる。名乗れないのかな?

「騎士ブヌア家のカミーユ」

「カミーユお嬢様付きのリネットです」

 2人の答えに衛士も居住まいを正してくる。

「では皇太子殿下直属の近衛騎士たるブヌア家の?」


 成る程。皇家直属…と言うか皇太子殿下の陪臣だ。騎士ファブリ=ブヌアと言えば殿下の護衛であり乳兄弟でもある直臣。ブヌア夫人のアンリエットさんは殿下の乳母の1人って話だ。…こういうのまで『世界の知識』に入ってるのが笑うよね。


 いや、顔には出さないけど。


「で、そちらは?」

「えーと、一応クロノ准男爵です」


 少し前に決まったばかりの爵位。とは言え皇都で偽名を使うのは色々不味い気がする。


「これは失礼致しました、准男爵閣下」


 同じ下位貴族とは言え、騎士と准男爵とでは1階級の違いという僅差では済まされない。でも大事にもしたくないので、

「こんなナリだからスルーしてくれるとありがたいよ。エラムギルドの冒険者ロディとして扱って欲しいんだ」

困惑気味の形で懇願してみる。

「状況は確認出来ました。後の調書はコチラでしたためます」

 よかった。どうやら放免みたいだ。

 衛士達は酔っ払いを引き連れていく。残されたオレ達も、って思ってたんだけど…。


「ありがとうございます、クロノ准男爵閣下。その、お礼もしたいですし、よかったら食事でもどうでしょうか」

 頭を下げて来る2人。ま、飯くらいいいか。

 皇宮を出てから屋台の串焼きしか食べてないオレは、それなりに腹が減ってた。


 が、それなりのレストランの2階個室に入った時には少し後悔したんだ。

「リネット」

 少女~カミーユさんが人払いを行い、個室に彼女と2人っきりになった時に、後悔は更に大きくなった。やべ!断った方がよかったか?

 だけど、何処かで会った気がするんだ。


「馬鹿な事聞いているのかもしれないけど…、その、何処かで会った事あります?」

「あります。只、お互いこの姿ではなかったかもしれません…。その…、あの時貴方は、その…、私の胸、見てませんでしたか?」


 は?胸を見た?女性?


 胸?


 そんなの1人しかいない。でも?

 まさか?


「ガイア?」

「やっぱり、ジュピターなのね!よかった…。また…会えた…。グスっ…、やっと会えた…。フフ、その眼、変わらないのね」


 あっという間に涙ぐむと彼女はオレに抱きついてきた。

「君も転生したの?」

「意識…ううん、心だけこの世界にくる事が出来た。私、あの声の神に殺されたの」


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 あの時、オレは皆と違う道を選んだ…。



「それじゃ、サンプル使って『地上の星』として世界レムルへ行くぞ。召喚先はベルン王国王宮だ」


 は?今の声はマーズ?


「勇者として、私は王国に呼ばれている。だから勇者として『成すべき事を成す。私達の力を必要としている処へ』」


 オレには何も聞こえてこない。

 驚くオレを尻目に、皆はステータス画面で召喚先を選択しようとしている。


「どうした?ジュピター?」

「マーズは…、呼ばれたんだね。でもオレは違う。何も聞いてない。そもそもこれはゲーム?それともガチの異世界転生?召喚?事が成せたら元に帰れるの?」

「…私達は世界に必要とされているのだ」

 マーズの言葉に他の5人も頷く。


「ごめん。オレは行けない。せっかくの2周目プレイだから。オレは転生して別のキャラで行く」

「オマエは世界を守らないつもりか?」

「何から守るって?マーズ!何を聞いたんだ!」


 6人がオレを囲む様に動く。

 あれ?俯いているのはガイア?何か悩んでる?躊躇いがあるのか?


 オレは迷わず駆け出す。

「ごめん、ガイア」

 ガイアをマーキュリーの方へ押し出す。

 瞬間、出来た隙。ガイアを受け止めたマーキュリーも直ぐには動けない。

 確かに、皆アバター~神がサンプルと呼ぶゲーム内の自キャラじゃない。オレも含めて日本人の青年や少年少女だ。

 でもネトゲやってる奴って、あんまり体育会系って訳じゃないってのは偏見か?オレの動きに誰1人反応出来なかったんだ。多分即応出来そうなのはマーキュリー位だったのかも…。

 その間にオレは転生するべきキャラを選んでいた。アイテム保持用のサブキャラ。「あ」って言う名前のガキンチョ。髪や瞳の色なんて指定してないから黒一色だったんだけど…。


 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「あの後、それでも召喚される事になって…。でも何か迷いが生まれて…。だから私、ウチに帰りたいって召喚を拒んだの。そしたら…」


「お前は、この世界レムルに不要だ」


「不意に目の前が真っ暗になって。身体全体の感覚も無くなって。『え、私?死ぬの?死んだの?』そう思った時、別の声が聞こえてきたの」


「ダメ、もう身体の維持は無理…。ごめんなさい、何とか意識だけでも…。そう、この身体ならば…。あの世界で死にかけている…、いえ、もはや心を喪ってしまった娘がいます。あの子の中で生きてください…。これが…、これが精一杯…。でも…、何とか彼に…、彼に会える様に…」


「気がついたら、私はカミーユになってた」

 オレの所為だよね。不意に彼女が凄い愛おしくなって…。オレは彼女を強く抱き締めてた…。




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