第3話(2)eスポーツらしきものをやってみた

「誰かと思ったらアイスじゃない」


 舞が声をかける。


「やっほ~、舞ちん、久々~……ゴホッ」


「だ、大丈夫?」


「まだまだ寒いよね~」


「いや、結構あったかくなってきたわよ……アンタ、超のつく寒がりなんだから、そんなミニスカートやめなさいよ。せめてストッキング穿くとか……」


「生足ミニスカートこそのギャルでしょ! そればかりは譲れない! ズズッ……」


「譲りなさいよ! 思いっきり鼻水出ているじゃない! あ~もう、せっかくのかわいい顔が台無しじゃないの……ほらっ、ティッシュ」


「ありがと……」


「舞、誰だ、その女は?」


「同じクラスの香里愛衣子こおりあいこよ……休みがちなんだけどね。この白い髪がチャームポイントだから、皆アイスって呼んでいるわ」


「よろしくね~」


 アイスは透き通るように綺麗な白い髪を揺らし、ジンライに手を振る。


「ってアイス、アンタ何で教室に来なかったのよ? 体調悪いから保健室に行ってたの?」


「いや~最近体の調子は結構良いカンジだよ~」


「じゃあ、なんで?」


「起きて制服に着替えて……家を出た頃にはもう放課後だったんだよね~」


「盛大な寝坊をかましたってわけね……」


「ウケルよね~」


 アイスはけらけらと笑う。


「ウケないわよ! ……アンタ、出席出来るときはしとかないと進級に響くわよ?」


「あ~大丈夫、大丈夫、その辺はこう……なんとかなるから」


「なんとかなるって……そういえば一年の時もそんな調子だったけど、進級していたわね」


「でしょ~?」


「どういうこと? 成績がすごく良かったとか? でもテスト上位者一覧とかでアンタの名前見た記憶がないんだけど……」


「まあ、それはどうでも良いじゃん」


「どうでも良いって……」


「それよりもさ、なんだか面白そうなことしてんじゃん。舞ちんをめぐって、二人の男が火花バチバチってわけだ?」


「そうだ、察しが良いな、香里!」


 ジッチョクが声を上げる。アイスが笑みを浮かべる。


「……ジッチョクも何度も玉砕しているのに、懲りないね~」


「粘り強さが売りだからな!」


 アイスがジンライに視線を向ける。


「で、君が噂の転入生で舞ちんの旦那様ってわけね……」


「ああ、疾風迅雷という。以後見知り置いておけ」


「ああ、じゃないわよ、旦那うんぬんを否定しなさいよ!」


「ワタシハジンライサマトマイサンノツカズハナレズナカンケイヲアタタカクミマモッテイルロボット、ドッポトイイマス」


「おけ。把握したわ」


「何を把握したのよ、何を! ドッポも変なこと言わないで!」


「女をめぐってケンカっていうのもアオハル係数高めだけど……」


「何よ、アオハル係数って!」


「でもガチで殴り合うってのはドン引きだから……ここは平和的な解決方法でいこうか」


「平和的な解決方法だと?」


 ジンライが首を傾げる。


「よし、皆、アイスに続け~♪」


「うむ! 分かった!」


 ジッチョクがアイスに続く。舞がジンライに尋ねる。


「ど、どうする?」


「ついていこう。あの女の思考に興味がある」


「え? ちょ、ちょっと待ってよ!」


 歩き出したジンライの後を舞が慌ててついて行く。


「到着~♪ ここで決着をつけてもらおうかな♪」


「ここはゲームセンター?」


「そう、ゲームで戦ってもらえばケガとかしないで良いでしょう?」


「良いでしょうって……」


「俺は最近のゲームはサッパリだ!」


 ジッチョクは大声で叫ぶ。


「そうだろうね、こういう場所来なそうだし。ジンライっちはどうよ?」


「ジ、ジンライっち⁉ ……知識としてはあるが、やったことは無いな」


「自分で宇宙から来たとかなんとかって言っているみたいだからね、そりゃあやったこと無いよね……うん、それなら条件はイーブンだね。えっと……」


「勝手に話を進めるわね……」


「うん! これが良い! 『ゾンビの鉄人』!」


 アイスがある筐体を指し示す。舞が首を傾げる。


「なにこれ?」


「あれ、『ゾン鉄』知らない系? これは流れる曲のリズムに合わせて太鼓を叩き、太鼓から発する音の衝撃波で、迫りくるゾンビを退治するって奴だよ。1曲の間にゾンビを寄せ付けなければ勝ちってゲーム。初心者でも簡単に出来るよ」


「面白い! 勝った方が舞の心を響かせることが出来るってわけだな! 太鼓だけに!」


「うんまあ、大体そんな感じ」


「適当に決めないでよ!」


「まあ、良い座興だ……」


「ちょ、ちょっと、ジンライ! アンタまで⁉」


「ノリが良いね~お二人さん! それじゃあゲームスタート♪」


 アイスが筐体に小銭を入れ、ゲームが始める。プレイしながらジッチョクが叫ぶ。


「うわぁぁぁ! ゾンビグロくないか⁉ 無駄にリアル過ぎる! 太鼓に集中出来ん!」


「ジッチョク、まさに阿鼻叫喚だね♪」


「い、いや、私も同意見だわ……それにしてもジンライは冷静ね?」


「この程度ミザール星人の使役するモンスターで見慣れている……どうということはない」


「ああ、そうなの……」


「ミザールセイジントハオノレノテヲキョクリョクケガサナイトイウポリシーヲモッテイルコトデユウメイデ……」


「ごめん、ミザール星人の情報はいいわ」


「太鼓のリズムも正確だね、センスあるのかな」


「あ、終わったわ……」


「ジッチョクはゾンビの餌食になっちゃったね。対して、ジンライっちはノーミスか。これは『第一回舞ちん』争奪戦はジンライっちの完勝だね」


「だ、第一回ってなによ⁉」


「くそっ! 第二回は見ていろよ! 迅雷!」


「なんで次回もやるつもりなのよ!」


「ふん、返り討ちにしてくれる……」


「だから、なんでアンタもノリ気なのよ⁉」


「まあ、それは次のお楽しみってことで……」


 アイスがポンッと両手を叩く。


「次はないから!」


「コウゴキタイデスネ」


「期待しないで!」


「今日の記念にみんなでプリクラでも撮ろうよ♪」


「ええっ⁉」


 アイスがプリクラコーナーへ皆を連れていく。台を一つ選び、撮影スペースに入った。


「みんなもっと中に詰めて……えーっと、どうする?」


「……アイスに任せるわ」


「そう?じゃあ、フレームを選んで……っと……ハイポーズ♪ ……画像になにか書く?」


「それも任せるわ」


「そう? ……じゃあシンプルに日付と名前でも書こっか♪」


 しばらくして、撮影した画像がシールとして印刷される。ジンライが感心する。


「こ、これが、プリクラか……なかなかに奥深いな……」


「プリクラでそんなに感動するとは思わなかったわ」


「また、みんなで来ようよ、第二回争奪戦はいつにする?」


「第二回はやらないわよ」


「え~」


 アイスがぷいっと唇を尖らせる。


「みんなで遊びに行くのは別に構わないけどね……」


「おお~そうこなくっちゃ♪」


 アイスが笑みを浮かべる。


「きゃああああ⁉」


「⁉」


 女性の悲鳴が聞こえ、ジンライたちがその方向を見ると、グロテスクなゾンビの群れが、その辺りをうろついている光景が見えた。舞が驚く。


「あ、あれは……さっきのゲームのゾンビじゃない⁉ どういうこと⁉」


「ひょっとして、なにかのイベントか?」


 ジッチョクが首を捻る。だが、ゾンビが人に襲いかかろうとする様子を見て、舞が叫ぶ。


「ち、違うわ! イベントじゃない! あの人が危ないわ!」


「! 吹けよ、疾風! 轟け、迅雷!」


「! 甲殻起動!」


「疾風迅雷、参上! 貴様らの邪な野望は俺様が打ち砕く‼」


「この世の悪を挟み込み! 正義の心で切り刻む! クラブマン参上!」


 ジンライとジッチョクがそれぞれ疾風迅雷とクラブマンになって、ゾンビの群れに果敢に突っ込んでいく。舞が呟く。


「な、なんでゲームのキャラクターそっくりなゾンビが……?」


「様々な次元を移動することの出来る多次元犯罪組織、『ミルアム』の連中よ……今回はゾン鉄のキャラクターの姿を借りたってわけね……」


「え? アイス? なんでそんなことを……」


「フリージング!」


「⁉」


「ファム・グラス、参上! 愛すべきこの三次元の世界はウチが守る!」


 アイスが真っ白なドレス調のスーツに身を包んで現れた。

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