第2話(4)生物の力
「ウキキ……流石ドクターMAXの科学技術! 体中から力が湧いてくるようだ……」
怪人が不敵な笑みを浮かべる。
「ドーピングしたのか? 能力アップしている可能性がある、迂闊に近づかん方が……」
「はーはっはっは! 前後斜めにも高速移動出来るようになった今の俺に敵はない!」
「ま、待て!」
クラブマンがハサミをカチカチと音を立てながら、高速で怪人に迫る。
「もらった!」
「ふん……」
「何⁉」
「上がお留守だぞ……!」
クラブマンがハサミを向けるが、怪人はそれを飛んで躱し、顔を爪で引っ掻く。
「ぐわっ⁉」
クラブマンが倒れ込む。ジンライが叫ぶ。
「なにをやっている!」
「な、なるほど、上下の間合いか……想定外だった」
「さっさと決めてやるキー!」
怪人がクラブマンに飛び掛かろうとする。
「ならばこれだ!」
「なにっ⁉」
立ち上がったクラブマンはすぐさま大木に近づき、大木を高速で切り始める。
「……よしっ!」
「なっ⁉」
クラブマンが剪定したことにより、大木の形が少し変化し、空中に飛び上がっている怪人に向かって、木の道が出来上がったのだ。
「どうだ! 俺のハサミさばきは!」
「ど、どういう理屈でそうなる⁉」
「道さえあればこっちのものだ!」
クラブマンが木の道を一気に駆け上がり、怪人との間合いをあっという間に詰める。
「し、しまった⁉」
「喰らえ! 『ハサミ斬り』!」
「ウキッ⁉」
クラブマンの鋭いハサミが怪人の胴体を襲う。
「もらった! ……なに⁉」
クラブマンは驚く、ハサミが怪人の体から弾かれたのだ。
「硬度もアップしているわ、その程度のハサミなら十分耐えられる……」
戦いを見つめていたドクターMAXがズレたサングラスを直しながら呟く。
「ウキッ!」
「どわっ⁉」
怪人の反撃を喰らったクラブマンは地上に落下し、そのままうずくまってしまう。
「クラブマン! いや、ジッチョク!」
舞が叫ぶ。
「なかなかトリッキーな戦い方だったけど、所詮は田舎の地元ヒーローね、世界征服を目論む我がレポルーの敵じゃないわ……待てよ、ジッチョク……?」
ドクターMAXは白衣から端末を取り出して操作する。クラブマンは呻く。
「ぐっ……」
「……なるほど、仁川実直、我が組織のサイボーグ手術を受けているのね」
「なんですって⁉」
ドクターMAXの言葉に舞が驚く。
「しかし、手術途中で脱走したと……でも妙ね、手術は90%程度完了していたと記録にはある……その段階ならマインドコントロールも終わっているはずだけど……」
「マインドコントロール⁉ そんなことを……」
「ふ、ふん……貴様らの捻じ曲がったまやかしの言葉など俺には通用しない!」
クラブマンが半身を起こしながら叫ぶ。
「へえ……」
「そう、言うなれば、俺の正義の心がそれを上回ったんだ!」
「……どう思う?」
ジンライは舞に視線を向ける。
「……恐らくだけど回りくどい言い回しが理解出来なかったんだと思うわ」
「そういうくぐり抜け方もあるのか……参考にはならんな」
「今更、戻ってこいと言っても遅いぞ!」
「別に要らないわ……天才科学者の私がいれば、怪人の能力もアップ出来るし……」
「い、要らないのか……」
クラブマンはがっくりと肩を落とす。そこに怪人が迫る。
「とどめだ!」
「ちっ!」
「何⁉」
怪人の攻撃を疾風迅雷が受け止める。
「喜べ、俺様が相手をしてやる……」
「ふん、今の攻撃に反応するとは……ならば、これならどうだ!」
「ぐおっ⁉」
怪人が速度を増した攻撃を仕掛けると、疾風迅雷は反応しきれずに喰らってしまう。
「ウキキッ! 所詮その程度か!」
「調子に乗るなよ!」
「おっと!」
疾風迅雷の反撃を怪人は飛んで躱し、大木の枝に乗る。
「おのれ!」
「ふふん!」
疾風迅雷もジャンプして攻撃するが、怪人はさらに高い枝に飛び移る。
「ちぃっ!」
「そら! そら!」
「ぐうっ!」
怪人は身軽さを利用して、枝を次々と飛び移りながら、攻撃を加えていく。疾風迅雷はその軽快さについていけず、攻撃を喰らうがままになってしまう。
「ウキキー! そろそろ限界だろう?」
「ぬうっ!」
「おじいちゃん! このままじゃジンライが!」
舞がドローンに向かって呼びかける。
「……間に合ったぞ!」
「え⁉」
「ジンライ君、データを転送した! 確認してくれ!」
「こ、これは⁉」
「選択してくれ! 意志を示すだけで良い!」
「!」
疾風迅雷の体が光る。
「ウ、ウキッ⁉ なんだ⁉」
そこにはパワードスーツのカラーリングが薄緑色に変化した疾風迅雷がいた。
「お、おじいちゃん、あれは……」
「あれは疾風迅雷の数あるフォームの一つ、『バイオフォーム』だ!」
「バ、バイオフォームだと?」
「ああ、様々な生命体の能力を駆使して戦うことが出来る!」
「様々な生命体……」
「とは言ってもまだ限りがあるけど……まずは送ってみたものを選択してくれ!」
「これか!」
「ウキキッ⁉」
背中から翼が生えた疾風迅雷が舞い上がり、両手の鋭い爪で怪人の脇腹を切り裂く。
「バイオフォーム、『怪鳥』モードだ!」
「空を飛べるわけか! これで貴様の身軽さを凌駕出来る!」
「ウキキ……」
怪人はバランスを崩し、木の枝から落ちそうになる。大二郎が叫ぶ。
「間髪入れず、次の攻撃だ! このモードを!」
「よし!」
四足歩行の体勢になった疾風迅雷が怪人に飛び掛かり、首元を牙で噛み砕く。
「バイオフォーム、『狂犬』モードだ! 猿には犬だよ!」
「ウキ……!」
ジンライと怪人は激しく揉み合いながら落下する。ジンライはクラブマンが立ち上がったのを確認し、怪人を突き飛ばして叫ぶ。
「クラブマン! 最後は貴様に譲ってやる!」
「え⁉ し、しかし、俺のハサミでは斬れない……!」
「貴様のまっすぐさを示してみせろ!」
「! そうか!」
クラブマンは両のハサミを閉じて上方に勢いよく突き出す。そこに落下した怪人の腹部を貫くことに成功する。
「ウ、ウッキー!」
「爆発するわ! 早く離れて、ジッチョク!」
「う、うおおおっ!」
クラブマンはハサミを抜くと、そこから高速横歩きで離れる。程なく怪人は爆発する。
「ふう、良かった……」
「ふん、横歩き男も役に立ったな……」
胸を撫で下ろす舞の近くにスーツを脱いだジンライが歩み寄る。ドッポが呟く。
「バカトハサミハツカイヨウ……」
「ん? なんだ、ドッポ?」
「コノクニノコトワザデス……」
「なんでも使い方次第ってことよ」
「はははっ! そうか、言い得て妙だな! バカとハサミは使い様だ!」
「……ん? ジンライ、バカ笑いしている場合じゃないわ」
「バカとはなんだ、バカとは!」
「あのドクターMAXとかいう女がいないわ」
「ふん、逃げたのだろう、非戦闘員をいたぶる趣味は俺様には無い」
「でも天才科学者って言っていたわよ、また強力な怪人を送り込んでくるんじゃ……」
「自称天才だろう? また来るのなら返り討ちにするまでだ」
怪人のコアを抱え、足早に去るドクターMAXの胸は不思議と高鳴っていた。
「……『そうか、抱きしめてみようかな! タカトアサミは最高だ!』……な、何故私の本名を知っているの? 抱きしめてみようなんて、大胆な告白……こんなの初めてだわ」
帰国したばかりで久しぶりの日本語を聞き間違えた彼女に妙な感情が芽生えていた。
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