第1話(4)疾風迅雷、参上

「む、疾風迅雷だと……? ふん、我が組織が開発したのニャらばともかく、民間の一企業で……すらない一個人が造ったパワードスーツなどたかが知れているニャ」


 怪人ネコまんまが笑みを浮かべる。ジンライが呟く。


「試してみるか?」


「ふん、威勢は結構だが!」


 怪人の方が先に仕掛ける。


「ふっ!」


「ニャ⁉ スピードについてきただと……ならば!」


「ほっ!」


「攻撃をはねのけた……まさかスピードもパワーも我々を上回るということニャのか⁉」


「そういうことだ! 降参するなら今の内だぞ!」


「ニャに⁉」


「い、いや、俺様はなにも言っていないぞ、後ろのアイツだ」


 ジンライが後ろで叫ぶ大二郎を指し示す。怪人が忌々し気に呟く。


「疾風大二郎め……NSPの詳細さえ分かれば、さっさと始末するものを……」


「……貴様らの組織はNSPを狙っているのか?」


「そうニャ! それ以外にニャにがある!」


「そうか。ならば、ここで貴様を倒す!」


「! お前はニャにものだ? ここには二人しかいニャいと、報告があったはずだが……」


「……これから消え行くものに教えても無駄だろう」


「~~!」


「ぐっ!」


 怪人の爪が疾風迅雷の頬の辺りを掠める。


「ふっ、これからは本気でいくニャ……」


「ふん、今のが本気か? たかが知れているな……」


「そうやって虚勢を張るのも今の内ニャ!」


(このスーツに慣れていないのは確かだ……そもそもどんな性能を備えているのだ……?)


「ジンライ君! その疾風迅雷の性能について解説しよう!」


「⁉」


 ジンライが振り返ると、メガホンを片手に叫ぶ大二郎の姿があった。


「その疾風迅雷にはいくつかのフォームがある! 戦い方や相手に合わせてフォームを使い分けて戦うことが出来る、柔軟な戦法をとれる画期的なパワードスーツなんだ!」


「そのフォームとやらはどうやって使い分けることが出来るんだ⁉」


「ええっと……NSPからのエネルギー供給などがまだ不十分……なおかつ、その活用方法が今一つ確立出来ていない為、フォームはいずれも未実装なんだ!」


「はぁっ⁉」


「だから、その通常の……『ノーマルフォーム』で頑張ってくれ!」


「お、おじいちゃん! スーツ内にだけ通じるマイクとかは無いの⁉」


「え、あ、もちろんあるよ」


「あるの⁉ なんでそれを使わないで、わざわざメガホンを……相手に筒抜けよ!」


「つ、つい、興奮してしまって……」


「手の内がすっかりバレちゃったじゃない!」


 大二郎と舞のやりとりを背中で聞きながら、ジンライは拳を握る。怪人は笑う。


「ふふふっ、どうやら準備不足なようだニャ。運が悪かったニャ」


「……勘違いするなよ、貴様ごときを倒すのに小細工など必要ないということだ」


「……ニャま意気ニャ!」


「ふん!」


「躱した⁉ ふニャ⁉」


 攻撃を避けたと同時に疾風迅雷がキックを放ち、喰らった怪人は後方に吹っ飛ぶ。


「要領は分かってきた……」


「くっ! お、お前ら! 突っ立てないで援護するニャ!」


「は、はっ!」


 怪人の指示を受けた戦闘員たちが疾風迅雷の前方に立ち塞がる。大二郎が小声で囁く。


「ジンライ君……バイザー内に表示されていると思うけど、ノーマルフォームには二つのモードがある。上のモードを選択してくれ。操作は要らない。脳内で意志を持つだけで良い」


 マスク内に聞こえる大二郎の声にジンライが答える。


「……選んだぞ」


「それで戦ってみてくれ」


「うむ……おおっ、体が一段と軽い!」


「どわあっ!」


 疾風迅雷は群がる戦闘員を一蹴する。


「それが一度に多人数の相手と戦う時に便利な『疾風』モードだ!」


「スピードに特化したモードか。つまり、もう一つのモードが……」


「うニャっ⁉」


 疾風迅雷はあっという間に怪人との間合いを詰め、怪人の頭部にかかと落としを見舞った。怪人は両手でガードしようとしたが、そのガードごと破壊した。ジンライが呟く。


「……パワーに特化したモードということだな」


「そう、一撃必殺の大技を繰り出せる『迅雷』モードだ!」


「お、おのれ……」


「! 爆発するつもりか!」


「……」


 怪人は庭を出て、よろよろと周りになにもない広場に向かい、そこで爆発した。


「な、なんだ……? わざわざ遠ざかってくれるとは……」


「ネコまんま様がやられた!」


「コアは回収した! 偶然飛んできたんだけど!」


「でかした! よし、撤退するぞ! お、覚えていろ! 疾風迅雷!」


 戦闘員たちは何やらわめき散らしながら撤退していった。


「なんだったんだ、アイツら……」


 ジンライはスーツを脱ぐ。


「ありがとう、ジンライ君! 君のお陰で助かったよ!」


「……一応、お礼を言っておくわ……あ、ありがとう」


 大二郎は満面の笑みで、舞は照れ臭そうにジンライにお礼を言った。


「……成り行き上、こうなっただけだ」


「また勝手な申し出だけど、今後も疾風迅雷として、この研究所とこの地域、いやこの国、いいや、この地球を守ってくれないか!」


「勝手過ぎるな……一宿一飯の恩でそこまでする義理はない……他の奴に頼め」


「そのパワードスーツに適応するのは、この星では君くらいしかいないのだよ!」


「それは大変だな、だが俺様には関係が無いし、メリットが無い」


「しかし、君には行くあてが無いだろう⁉」


「行くあてならある……このようなスーツを製造出来るのなら、ポッドも修理出来るだろう? それに乗って、さっさと帝国領に戻るだけだ」


「見たところそこまでの超長距離航行は出来ないようだけど……」


「太陽系を出れば、信頼出来る味方の船がある。そこまで保てば良い」


 大二郎の問いにジンライが淡々と答える。


「う~ん、そうか、それなのだけど……」


「? どうした、直せないのか?」


「えっと……」


 口ごもる大二郎の脇から小さなロボットが飛び出し、ジンライの肩に飛び乗った。銀色の球形をしていて、目と口がついており、手と足が伸びている。ジンライは驚く。


「な、なんだ、こいつは⁉」


「ドーモ、ジンライサマ」


「しゃ、喋ったわ!」


「えっと、修理出来なくも無かったのだけど、科学者としての欲求が爆発してしまって……小型ロボット、『ドッポくん』に改造してしまったのだよ……」


「アラタメテヨロシクオネガイシマス、ジンライサマ」


「な、何を勝手なことをしているんだ、貴様は⁉」


「短時間でこんなものを造るなんて……やっぱりおじいちゃんは超一流ね!」


「感心している場合か!」


 目をキラキラさせる舞に対し、ジンライは声を上げる。舞はジンライに告げる。


「……残念ながら、今のアンタには帰る手段が無い……それまで力を貸してくれない? 『ヒーロー』として」


「むう……」


 ジンライは舞を見る。気付かなかったが、わりとふくよかなボディラインである。


「な、なによ、ジロジロ見て……?」


「女だけに戦わせるのも男として気が引ける……力を貸してやろう」


「カッコ良さげなこと言っているけど、今、違うことで判断しなかった⁉」


「だが、大二郎、もう一つ条件がある……NSPのことを教えろ」


「! ふむ、そうくるか……まあいいだろう、ついてきなさい」


 大二郎は地下にある研究室にジンライを案内した。部屋の中心に大きな石が置いてある。


「これは……鉱石か?」


「そう、ただ特殊なエネルギー波を発している鉱石でね……このエネルギーを上手く活用すれば、この星のあらゆる問題が解決し、また科学分野の成長・拡大に繋がると見られている。一人の平凡な科学者に過ぎない僕が偶然発見し、NSPと名付けたってわけだ」


「すごい偶然だな……」


「本当だよ、ネットオークションで、綺麗な石だなと思って購入しただけなのだけど……」


「偶然ってレベルじゃないだろう! もはや奇跡だ、そこまでくると!」


「そうだね、まさに奇跡だ……」


 呑気に呟く大二郎をよそにジンライが考えを巡らす。


(そうか、このエネルギーを入手するのが、帝国の狙いだったのか……辺境に派遣された意味がようやく理解出来た。恐らく俺様をハメた連中もやってくるだろう。そこを返り討ちにして、なおかつこのエネルギーを手土産にすれば一石二鳥ではないか……ふっふっふ……)


「薄気味悪い笑いを浮かべているところ悪いんだけど……ヒーロー、なってくれるの?」


「……まあ、どうしてもというなら、なってやらんこともない」


 ジンライの答えに舞の顔が明るくなる。


「良かった~流石にそろそろヤバいと思っていたのよ~」


「? 確かにあのサイボーグはなかなかだったが、総じて間の抜けた連中だっただろう? そこまで脅威に感じることか?」


「いや、それが他にもいるのよ、NSPを狙う連中は」


「……なんだと?」


「えっと……巨大怪獣を操る軍団でしょ? 異次元からの侵略者に魔界の住人、未来から来たとかいう奴らに古代文明人……現在確認出来ているだけでも、5つ6つの勢力がこの研究所を虎視眈々と狙っているわ」


「ず、随分と大人気だな⁉」


 ジンライは驚愕した。

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