#16

霊験あらたかと呼ばれる噂の神社に縋りたくもなる。

事実、彼の周りには不幸が多すぎた。そして足繁く通った挙句、不運が嘘のように晴れていくのを目の当たりにし、信心深くなった事を責めることは誰にもできなかった。


人並みの運の巡りに返り咲いても、彼はその恩義に報いようと件の神社に参った。


そんなある日、毛並みも色合いも、おおよそこの世とは思えない狐が目の前に現れた。

それを彼はお稲荷さんが降臨したと大喜び。参拝する度に、瞳を見つめ欲しがっているであろうモノを献上した。


不思議と目で通じ合い、何を欲しているか分かる気がしたのだ。

ネズミや五穀、酒、もちろん油揚げも。自身の生活を切り詰めるほどに通った。


今日も、狐が喜び食事にありつくのを満足気に眺めていた。いつしか彼の参拝と献上の優先順位が入れ替わっていた事に、ついぞ気付くことはなかった。




















――稲荷のいいなり

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