#3

ビルの隙間から曇天を伺う。一文字の切れ間から、氷雨が眼球に降り注ぐ。男は気付く。後頭部や背中が異様に濡れていることに。



――あぁ俺は路地裏で倒れているのか。



指先や瞼が命令を聞かない。薄暗に鳴り響くのは、彼女専用に変えた着信音。男は気付く。濡れているのは、雨のせいだけでは無いことに。



――あぁ俺は血を流しているのか。



男は思い出す。慣れぬ路地裏を縫うようにして、逢瀬に使う店を探したことを。



――あぁこれで彼女を喜ばせることが出来る。



男は思い出す。狂気を湛えた一線を超えた目、覚束無い足取り、震える両手で握りしめた鉛色。



――あぁ俺は腹を刺されたのか。



男は思い出す。意中の人に、まだ、想いを伝えていない。

男は気付かない。永遠に。相思相愛に。



――あぁ俺は。



遠く響くサイレンよりも、その着信音は最期まで耳に残った。




















――電話に出んわ(裏)

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