ハランツ研究室
俺がボナパルトを完膚までに撃ち負かせた日から数週間がたった。
アレから、学内での事情聴取や怪我の治療などドタバタしていた、ボナパルトは例の薬の過剰摂取の影響か体中ボロボロになり、現地数ヶ月の重症で量は違うが同じ薬を飲んだエバルトは強烈な筋肉痛で数日動くことが出来ず、寮で呻き続けていた。その腰巾着の二人はアレだけ頭部にダメージを受けていたのに、翌日には普通に登校してきた。昼休みに三人で飯食べたが二人共今回の件には相当頭を痛めていたらしい、というかガンもジョーもエバルトが絡まなければ結構仲がいいのよね、ガンは実家が俺がグレイヴの素体を買った骨董屋の次男坊、ジョーは格闘道場の道場主の一人息子、喧嘩していく中で不思議と変な絆ができて、エバルトがいなきゃ一緒に飯食いに行く仲である、ジョーに関しては偶に二人で体術の訓練してお互いの技術の研鑽をしている、エバルトのそばにいるのはタタラ家との付き合いもあるが、単純にエバルトとつるむのが楽しいかららしい。
まぁ、今回の件で学校からは喧嘩両成敗ということで俺とガンジョウーコンビは三日間の自室謹慎と反省文、薬使った二人は二ヶ月の停学になった、比較的軽めになったのはボナパルト家から一言あったことと入学早々のトラブルだったので学校からの慈悲らしい。
そんな騒動もあった記憶も頭の片隅に置いといて、俺は放課後の楽しみである極糖ミルクコーヒーを飲みながら購買で買った『月刊魔道具』を読んでいた。今月も各社最新の家庭用魔道具略して家道具を発売するらしい、魔道具は基本魔道具を専門で開発している会社から発売され、街にある魔道具屋がそれを仕入れて販売、故障などは販売した魔道具屋で修理するというシステムになっている、道具屋で直せないようなトラブルは会社に送って修理になるが、各社の本社が王都にあるためどうしてもタイムラグが出る、数年前までは大型化の一途になっていた家道具も俺が作った魔術回路式の発表により従来の機能のまま小型化が可能になった。もちろん回路式は特許局で特許をとってその権利のロイヤリティーでこちらでの生活費を賄っている、不労所得というよりかはニーナの親父さんが俺の回路式をみてその価値を見出して、その権利を守るために登録させられたというのが正しい、まぁ実家にいる時は俺の収入を実家に入れてはいたが、進学に際して両親からこの金は俺が使うように言われて今に至るわけだ。俺に至っては開発中心の生活で使うのは趣味の甘味巡りくらいだし十分賄えるだろ、というか学生の中には学業の傍らバイトしている人間もいるし恵まれてる方だろ
そんなこんなで、授業も終わりこのまま自室に帰って、新しい回路式でも試そうかと考えているところに不意に担任のハランツ先生から声がかかった。
「あー、カズミ・スミス、ニーナ・ゲシュバルト、グラシナス・ホルン、このあと私の研究室に来ること、場所は技術棟の三階の突き当りな」
そう言い、軽く手を振りながら教室を出る先生を見ながら、俺たち三人は顔を見合わせた。
『ハランツ教諭研究室/魔道具技術研究部』
そうプレートに書かれた教室は、正直異様だった見た目ではなく目の前のドアから湧き出るオーラが異様だった、なんとなくドアに触れたら食われるそんなイメージすら湧く
「ここ、だよな?」
そう呟く俺にグランは小さく頷く、筋骨隆々の体はじっとり汗をかいている。どうやら俺と同じ印象を感じてるようだが、それを感じていない
「なにやってるの? 早く入るよ!」
そう言い、ドアを開けて飛び込むニーナを追って俺達も部屋に入った。
部屋に行った俺達を迎えたのは色とりどりの配線に繋がれた魔道具群だった。
「コロニャ社のCR-567型自動掃除機にサーズ者のSS696式高圧洗浄機…………どれも絶版された魔道具たちだ!」
「今だと、オークションで起動しないやつでも50万ギラ、未使用品なら200万ギラで取引されるレア物だ!」
俺とグランが興奮して、置かれている魔道具を見ているのをニーナは冷たく見ている、そんななか誰かの手を叩く音がその意識を持っていった。
「アタシのコレクションに興味持ってくれたことは嬉しいけど、そろそろここに読んだ理由言ってもいいかね?」
そう呼び掛けた先生は、俺達を部屋に置かれたソファーに座らせるとそれぞれにコーヒーの入ったカップと一枚の紙を置いた。
「スミス、この前のボナパルトとの喧嘩で学校側は違和感を感じている」
そう言われ、俺はコーヒーを飲みながら僅かに眉を動かす。隣でニーナのやつがニヤついてるが無視だな、グランに関しては、俺の砂糖の量に驚き目を見開いている。
「違和感とは?」
「現場にあった氷の塊や気絶していたボナパルトの身体に触れた時に走った電流、魔道具無ければ不可能なものばかりだ」
「電流に関しては静電気では?」
そうはぐらかす俺に、先生は皮肉げに笑う
「ほぼ裸の体に素手で触れて静電気を感じるのはそうあり得ない、乾燥して寒いなら兎も角今の時期なら特にな」
「氷の方は魔法で出したと考えたら説明付きますが」
「魔法で人間が氷を出すには高い魔法技術が必要で、あの場にいた人間でその域に達してる人間は居なかった。特に当事者二人は片方は水属性を碌に鍛えてない脳筋、もう片方は四属性持ちだが魔法をほぼ使えない人間とそんな奇跡的な事早々起こらない」
そう解説し、カップを置くと好奇心の塊のような笑顔で俺を見た。
「スミス、お前さんがいつも着けているその手袋になんか仕込んでるだろ……杖か?」
俺の手袋を見てそう言う先生に俺は驚いた.一発で見抜かれた俺は、とっさに手を隠そうと動かしたが、諦めて砂糖でざらつくコーヒーを口にした。
「はい、この手袋は杖の機能を持ってます」
「まぁ、杖自体は校則で禁じられてないし過去には使っていた生徒の方が多かったらしいからな、しかしそんな小さな布地に多属性の魔法が撃てる様な魔法回路を組み込めるとは……いや確かお前さん短縮魔法回路の特許持ってたな」
「ええ、おかげ様で学生の身分で何不自由ない生活を送らせていただいてますよ」
「あの、魔法回路のおかげで停滞していた業界で開発競争が加速したからな、若いながら大したもんだよ学内で学べること無いんじゃないか?」
そう言い笑う先生と困惑する両隣に苦笑いを浮かべ、空になったカップの底の砂糖をスプーンでかき出す。
「いやいや、過大な評価されてますがあくまで独学で道を極めるなら確かな基礎から固めたいので、先生方から嫌ってほど学ばせて頂きますよ」
「だが、先日の模擬戦観る限りその手袋であの規模の被害は出せないはず、まだなんか仕掛けがあるよなぁ?」
粘っこい声と目線に俺は警戒を強めるが、隣のアホの口は予想外に軽かった。
「あの規模だとグレイヴ使わないと無理だしね」
「グレイヴとはなにかね?」
「カズミ作った、新型の杖で魔銃っていうやつですよ」
笑顔で言う
「これがそうか! この握る所の魔法陣が魔力を吸って先端から出すと、しかしそれだけだとわざわざ持ち歩く意味が無いないはず……すまないが解説を頼めるかいこのままだと解体してしまいそうだしな」
そう言われ、俺は先生に
「ふむ、オーパーツベースに複数魔法を同時使用、更に異なる属性を掛け合わせて新しい魔法の開発と、それを十代の専門知識を学んでいない子供が開発するとか君の悪い夢みたいな物だな」
そう言い苦々しく笑うと先生は追加のコーヒーを淹れてくれた。
「本当に同世代とは信じたくないですよ、これが天才というものですかね」
俺を見ながらグランがそう言う、生優しい目で見るのはやめてくれ
「天才って、まだ未完成な部分多過ぎて迂闊に出せないから普段使ってなんだが」
「いやいや、その発想自体が評価されてるのだが、普通複数の属性魔法を掛け合わせること自体やらないからな、魔力コンロですら、二年前まで火種と火力を強くする機能が別だったのだから」
そう言いながら、先生は新しいコーヒーに砂糖を入れようとするがシュガーポットの中身がなくなっているのを見てジト目で睨み付けてきた。
改めて、グレイブを持ち上げグリップを握り、クロスボウの要領で構えるこの姿をみてちょっとした悪戯心が湧いた。
「リロード」
小さくそう呟くと、グリップの魔法陣が薄く光りそれと同時にグリップを握る先生の驚きの表情と共にグレイブを落しそうになる。
「オイ! いきなり尋常な量の魔力を持っていかれたのだが」
息を荒くしてそう問いかける先生に俺は笑顔で返す。ネタを知っているニーナは呆れて額を抑える。
「グリップに描かれてる魔法陣、握っている人間の魔力放出量の倍化と吸収なんで慣れない人が握ると一気に魔力吸われて、魔力欠乏症になるんですよ吸われた分魔力弾の威力も上がりますがね」
リロードの魔法は併用して魔力操作で弾丸の形成もしないといけないから繊細な技術が必要なんだよな、吸われっぱなしだと吸われた分内部で魔力が圧縮されて一発の弾丸になるだけだしね。
「そう言う仕組みだと、放出しないと危ないんじゃないか!?」
普段の気怠げな様から急に焦りを見せる先生に俺は、ちょっとした可愛さを見て顔が緩む
「余剰魔力はグリップ内にある専用機関に溜まるようになってるんで、大丈夫ですよ流石に限界量はありますが今日は新しいやつを入れてるんで先生の魔力くらいなら十分入りますよ」
そう言われ、安心と年下に遊ばれた羞恥心が混ざった複雑な顔を浮かべながら、グレイヴを俺に返してくる。
「とはいえ、軽症で治めたあたり流石としか言いようがないですね、ニーナなんで昔悪戯で同じことして三日間寝込みましたし」
「吸われ始めは驚いたが、魔力の放出を無理矢理止めたらどうにかなったからな、流石に今日は大規模な魔法は使えないけど、お前を折檻するくらいの魔力は残ってるぞ」
そう言い掲げた右手に小さな竜巻を生み出し笑う先生に冷や汗を浮かべる俺、そこにグランが割り込む。
「先生、そろそろ自分を呼んだ理由を教えて下さい、カズミだけお話しされていていまだに状況が理解出来てないんですが?」
「あー、すまんすまん。忘れてたわ。端的にいうとお前ら三人アタシの研究室に入れ」
いきなりの話に俺たち三人は困惑する。普通研究室に入るのは三年次から、二年間の基礎講義の後自分の進路に向かって細分化された各教師の研究室に入ることになっている。
「まぁ、正確には研究室というよりクラブ活動に近いんだが、表にも書いてあるがアタシは魔道具技術研究部という部活の顧問をしているが、魔法工学の花形のレース用魔力馬車の開発や魔導人形の開発とかが人気で、アタシの専門の魔道回路や小型魔道具の方は日陰者なんだよ、ホルンは小型魔道具の開発を志望しているし、スミスはさらに珍しい魔法補助具の開発、ゲシュバルトはスミスの研究を本人の次に理解しているから、勧誘した。まぁ今までの部員が昨年度卒業して存続の危機も有るんだけどな」
笑いながらそう言う先生に対して三人で顔を見合わせると、ほぼ同時に目の前の書類に必要事項を書き込む、今更ながら思い出したが、目の前のジルヴィア・ハランツという人物軍用魔道具開発の第一人者だ、若干十代で現在軍で採用されている装備の殆どを開発し、民間用にまで広げた手腕はまさに天才という言葉が当てはまる人物である。現在は非常勤職員として一線を退いて隠居したと聞いていたが、まさか教師をしていたとは技術を学ぶなら正にうってつけの相手である。そして書いた書類を先生に手渡すと笑顔で受け取ってくれた。
「ありがと、それとスミスわかってると思うが魔銃に関してはしばらくは秘匿しとけ、外に漏れたら確実に軍部に接収されて、無理矢理技術提供されるぞ。アタシの頃の総司令官はまだ理解があったが、今の総司令はバリバリの強硬派で使える技術は
そう脅しをかける先生に俺は頷くと、遅れて提出した二人と共に先生から部活動の詳細を説明された。
その中で、俺達三人の呼び方は本人達の希望により家名ではなく名前になり、先生のことも愛称であるジルと呼ぶ様に厳命された。というか、若いと思ったがまさかまだ二十四歳だとは思わなかったし、二十歳から教鞭を取っていたとは人とはわからないものだなとしみじみ感じた。
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