第468話 群翼(イルスデン ミドルン)

 イルスデン城の主が変わった皇帝執務室。書類を整理するジークムントの元をユリアンネが訪れていた。


「兄上……いまだに信じられませんわ。本当に生き返ってくださったのですね」


 薄暗い室内、暖炉と蝋燭の炎で赤く照らされているジークムントの顔を見つめながらユリアンネが呟く。


「心配かけてすみませんでした、ユリアンネ」


 ジークムントは優しい微笑みを浮かべた。


「お父様が亡くなり、そのうえ皇帝という重い責務を負いそうになった時はどうすればいいかと思っていました。兄上が戻ってきてくださって、私がどれほど心強く思っていることか……」


 ユリアンネは瞳を潤ませる。実際、皇帝ロデリックが亡くなってからしばらく、ユリアンネは鬱状態にあり公務どころではなかった。


「ふっ、あなたなら立派に務めたと思いますけどね」


 照れ臭そうに笑いながらジークムントが言う。


「やはり神竜教などという邪教よりも、ラーベル教のほうが勝っているということですね」


「もちろんです。ベアトリヤル様のご加護のもと、正義と慈愛の道を歩めば自ずと世界は帝国に平伏することでしょう」


 ユリアンネの言葉にジークムントはゆっくりと、力強く頷いた。


「覚えていますか? 私とラーゲンハルト、兄弟三人でお父様を補佐して大陸を統一しようとよく話していたのを……」


 遠い目をしてユリアンネが呟く。


「……そんなこともありましたね」


 記憶を失っているジークムントは少し間をおいて頷いた。


「……お兄様、ひとつ提案があるのですが」


 そんなジークムントを見つめながら、ユリアンネはとある計略をジークムントに進言した。






 寒空の下、ミドルン城はいつもと違う雰囲気に包まれていた。市民たちも何事かと城を見ている。それはハーピーだった。多くのハーピーがミドルン城の上空を騒がしく飛び交っているのだ。


 ハーピーのシャスティアから他にもハーピーがいるということを聞き、アデルはさっそく使者を送っていた。そして今日、そのハーピーたちがミドルン城を訪れていたのである。


 相手がハーピーということで、アデルとシャスティア、イルアーナは城の高所にある見張り台にハーピーを迎えに出ていた。 


「えー、ヤバッ! あんたがアデル王? マジキングじゃん!」


 ハーピーがバサバサと翼をはためかせながら大声で騒ぎ立てる。そのハーピーたちは肌が日に焼けており、髪は金髪や銀髪の者が多かった。顔にはやたら派手なメイクが施されている。


「ど、どうも……」


「いぇ~い、ヨロー!」


 頭をペコペコと下げるアデルにハーピーはなれなれしく抱きついた。イルアーナがそれをすかさず引き剥がす。


(これ、ハーピーって言うより……パリピーだな)


 空を飛んでいるハーピーたちからも盛り上げるためなのか歓声が飛んでいる。そのハーピーたちはパーチ族と名乗り、さきほどアデルに抱きついた族長はベティという名だった。その風体はいわゆるヤマンバギャルに近い。


 苦手なタイプの相手にアデルは顔をひきつらせたが、貴重な飛行戦力だ。パーチ族は100名ほどの部族で、バーランド山脈を挟んで反対側に住んでいた。そのため獣人たちと交配していたらしく、頭に猫耳が生えていたり、お尻に尻尾の生えている者も混ざっていた。


 その後、アデルたちはベティたちが神竜王国ダルフェニアに協力する条件を話し合った。その話し合いはアデルとベティのテンションが合わないこと以外は思いのほかすんなりとまとまった。獣人たちが移住してしまったためパーチ族の交尾相手がいなくなってしまったこと。賑やかな人間の町をパーチ族が気に入ったこと。そして神竜やワイバーンが味方していることなどが決め手となったようだ。


 住居の建築などが済み次第パーチ族はミドルンに移住し、神竜王国ダルフェニアに協力してくれることとなった。


「じゃーねー! バイバーイ!」


 去り際にアデルに抱きつき、ベティとパーチ族は去っていく。


「やれやれ、また騒がしそうなのが増えるな」


 イルアーナはアデルの横でため息をついた。


 しかしアデルはそれよりも気になっていることがあった。


(ラーゲンハルトさん、来なかったなぁ。ハーピーみたいな女性型魔物は見たがるはずなのに……)


 アデルは首をひねる。


 その時……


「アデル様! カザラス帝国よりラーゲンハルト様宛に書状が届いております!」


 一人の伝令がアデルの元へ飛び込んできた。


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