第448話 伏兵(ミドルン)

 続いて予選Cブロックの戦いが開始された。このブロックは大柄な兵士が多い。その大男たちの迫力ある戦いに観客の興奮は収まらなかった。


「せあ!」


 両手持ちの大剣が一閃し、まともにくらった参加者たちが吹き飛ばされる。攻撃の主はBブロックを勝ち上がったカスタムの同僚、”怒髪天イフリート”のカイだ。


「ダルフェニア軍……魔竜と異種族だけの軍かと思いきや、なかなか強者もいるではないか」


 カイは不敵な笑みを浮かべる。その額には汗が煌めいていた。


 カザラス兵たちは自分たちを精鋭と自負しており、他国の軍に個々の戦闘力で負けることはないと思っている。しかし参加者たちの予想外の強さにカイは舌を巻いていた。


「だが……”神敵”アデルを討ち取るのは俺だ!」


 カイは復讐の炎を目に宿らせ、次々と参加者を討ち取っていく。その豪快な戦いに客席からも歓声が飛んだ。


「凄まじい強さだな」


 その様子を遠くから一人の参加者が見ていた。堂々たる体躯に槍を持ったその参加者は”猛武”のデビィだ。元オリム三本槍でダルフェニア軍に下ってからはフレデリカの指揮下で働いていた。現在は傭兵師団の隊長格としてアデルに仕えている。


「だがBブロックに続きCブロックもカザラス兵が勝ち進むとなれば国のメンツに関わる」


「その通りだな」


 デビィの呟きに近くにいた参加者が同意する。この剣技大会には傭兵師団の者も多く参加しており、このCブロックにもデビィの同僚が数名いた。


「少々、卑怯な気もするが……奴を止めに行くぞ」


「おう!」


 二名の同僚を連れ立ち、デビィはカイを目指して進んだ。途中、他の参加者に襲われ一名が脱落したものの、デビィと同僚一人はカイの元へとたどり着いた。カスタムの時と同様、カイの強さを恐れ参加者たちが退き、カイの周りは人が少ない状況になっていた。


「名のある武人とお見受けする。いざ、尋常に……」


 デビィが言いかけた瞬間、突風がデビィを襲った。


「ぬおっ!」


 ガツッという乾きつつも重い音が響く。それはカイの大剣をデビィが槍で受け止めた音だった。その横ではデビィの同僚が体に塗料をつけて倒れている。カイが強烈な薙ぎ払い攻撃を行い、一人を倒しても勢いそのままにデビィにも襲い掛かったのだ。


「ダグラムでは王自ら不意打ち、今回は多勢に無勢……まさか卑怯などとは言うまいな」


 カイがニヤリと笑う。その間も大剣と槍で押し合いが行われていた。


「なるほど……名乗りくらいは上げようかと思ったが、暴力で全てを支配しようとするカザラス軍相手には無用だったな」


 皮肉を言うデビィの額に汗が流れる。カイの力はすさまじく、少しでも力を緩めればその大剣がそのままデビィの体を打ち付けるだろう。


「ふっ、口は達者なようだな。では勝った方が正義ということで決着をつけようではないか」


 カイはそう言うと身をよじりながら大剣に込めた力を緩める。不意に均衡を失いデビィの体がつんのめった。脇に体を避けたカイが剣を振り上げる。


 デビィは慌てて体勢を立て直す。そこにカイの大剣が振り下ろされた。


 メキッ……


 どうにかデビィはカイの攻撃を再び槍で受け止める。しかし鈍い音を立てて槍に亀裂が走った。


「ぬぉっ!」


 カイの大剣が槍をへし折りデビィに迫る。その切っ先をデビィはすんでのところでどうにかかわした。しかし体勢を崩し、デビィは尻もちをついてしまう。


「しまったな。普段の癖で余分に力を込めてしまった。この大会のルールなら当てるだけでよかったのにな」


 カイが肩で息をつくデビィを見下ろしながら残念そうに呟いた。その言葉通り、カイが当てるだけが目的の攻撃を繰り出していればデビィは避け切れなかっただろう。


「だが貴様にはもう武器がない」


 余裕の笑みを浮かべカイが剣を振り上げる。すでに尻もちをついているデビィに当てるだけならそんな予備動作はいらない。次の攻撃がダメージを与える目的であることは明らかだった。


「頭を勝ち割ってやる。これで終わり……」


 カイの言葉が唐突に途切れる。その目は驚きに見開かれ、表情はポカンとしていた。そしてカイはゆっくりと後ろを振り向く。


 そこにはフードを目深にかぶった大柄な男……待機所でアデルと話した農民のロッソがいた。その不気味な雰囲気を他の参加者が敬遠し、ずっと生き残っていたのだ。


「す、すいません……」


 カイと目が合い、ロッソはボソボソと言いつつ頭を下げる。その手には剣が握られ、カイの背中には塗料が付けられていた。


「……ひ、卑怯だぞ! こんな試合結果、認めるか!」


 しばらく呆けていたカイが状況を飲み込んだ瞬間、怒りとともにまくしたてる。


「やはりダルフェニア軍は腰抜けの悪列非道の軍だ! 許せん!」


 頭に血が上ったカイはロッソに向かって剣を振り上げる。ロッソの瞳が恐怖に見開かれた。


 だがその時、ゴツッという鈍い音が響く。ロッソを睨んでいたカイが白目になり、地面に崩れ落ちた。


「勝った方が正義なのだろう?」


 崩れ落ちたカイの背後に立ったデビィが呟く。その手には折れた槍が握られていた。デビィは槍の柄でしたたかにカイの後頭部を殴りつけたのだ。


 こうしてCブロックの勝者はデビィとロッソに決定した。


 そして続くDブロックでは……


「やれやれ、こんなもんかよ」


 瞬く間に数人の参加者を倒したウィラーが不満げに顔を歪めた。その圧倒的な強さを見せつけたウィラーの周りには一人を除いて他の参加者がいなくなっている。その一人とは冒険者チーム「再挑戦者リベンジャーズ」の無口な剣士、ブライだ。ブライはしばらくウィラーと行動を共にしていたことで弟子のように扱われている。


「やっぱり強えぇ奴はラーゲンハルトの野郎がうまいこと振り分けてるんだろうな。じゃあ今日はお預けか……」


 そしてDブロックはウィラーの側で力を温存したブライが最後まで残っていた参加者を倒し、ウィラーとブライが決勝に進んだのだった。


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