第280話 告知(セルフォード)

 祭りの準備に追われるセルフォードの町をアデルは眺める。そんなアデルに話しかけてくる者がいた。


「はは、にぎやかだねぇ」


 アデルが振り向くと、そこにはダークエルフの族長ジェランとイルアーナが立っていた。


「ああ、ジェランさん。こんにちわ」


「アデル君。ちょっと大事な話があるんだけどいいかな」


 ジェランは少し周囲をうかがいながらアデルに小声で言った。


「大事な話?」


 そう言われ、アデルは一気に緊張し始める。


(大事な話って何だろう?)


 ジェランの後について歩き始めたアデルは横目でイルアーナをうかがう。しかしイルアーナも話の内容は知らないようで小さく首を振った。


 やがてアデルたちはジェランが寝泊まりしている城の客間へとたどり着いた。ジェランが着席を勧めたので、アデルとイルアーナが並んで座る。そして対面に座ったジェランはしばらく話を切り出すことを迷っていた。


「いや、すまないね。忙しいときに呼んでしまって……」


「いえいえ。ジェランさんたちにはお世話になっていますし」


「あぁ~……いやね、そんな重大な話でもないんだが……いや、重大な話か。なんというか……非常に言いづらいんだが……」


 ジェランはモゴモゴと言葉を詰まらせる。


「どうされたのですか、父上。要件があるのであればおっしゃってください」


 イルアーナが業を煮やし、話を促す。


「も、もしかして何か悪いことでも起きたんですか?」


 基本的にマイナス思考のアデルは心配になって尋ねる。


「いや、悪いことではないんだ。むしろ喜ぶべきことなんだけどね」


「なんだ。じゃあ、良かったです。聞かせてください」


 ほっとしたアデルも話を促す。


「まあ、なんだ。その……実はマティアが妊娠してね」


「へ?」


 アデルとイルアーナがキョトンとする。マティアはジェランの妻だ。別の部族であったため離れて暮らしていたが、その部族が住んでいた森を追われたため今はジェランと同じ黒き森に住んでいた。


「そうなんですね。喜ばしいことじゃないですか。じゃあ今回のお祭りはお二人のお祝いも兼ねましょう!」


「ああ、ありがとう……お祝いは内々だけでいいから、あんまり大々的には言わないでね」


 喜ぶアデルをよそに、ジェランとイルアーナは気恥ずかし気に顔を赤らめていた。

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