第263話 入城(セルフォード)1

 セルフォード城にはすでに神竜王国ダルフェニアの旗が翻っている。不安そうに住民が見守る中、セルフォードの町に捕虜を連れたダルフェニア軍がやって来た。異種族やゴーレムの姿を見て逃げ出す住民の姿もあった。


「結局、ゴーレムの出番はありませんでしたね」


 アデルがゴーレムの巨体を見上げて言う。


「まあ作戦が順調だったってことで良かったじゃん。作戦が失敗した場合にも備えるのは大事だよ」


 ラーゲンハルトが肩をすくめる。


 アデルたちは攻城戦になった場合に備えて城門を破壊する力を持つゴーレムを連れてきていたが、ヨークでもセルフォードでもその力を発揮する機会はなかった。


 臆病なアデルは作戦がうまく行かなかった場合の対応も考えている。それはラーゲンハルトの言う通り、指揮官にとって大事な資質でもあった。


 しかし出番がなかったとはいえ、ゴーレムの迫力はすさまじく、住民や兵士の反抗心を抑え治安維持に寄与していた。


「アデル様」


「よう、アデル」


 グリフィスとウィラーがアデルを出迎える。しばらくグリフィスが損害状況や主だった捕虜の情報などを報告した。北部連合軍の主だった貴族たちは戦死したか捕虜となっていた。中心となる人物がいない以上、大規模な反乱等は起こらないと考え、一般兵たちは解放されることとなった。その中でダルフェニア軍に加わる意思がある者は雇用している。


「問題は貴族たちだよねぇ」


 ラーゲンハルトが眉間にしわを寄せる。神竜王国ダルフェニアでは貴族制を廃止しているうえに、能力が無ければ要職に付けない。財産や身分を奪われることになる貴族たちが素直に従うとは考えづらかった。


「カザラス帝国にでも引き取ってもらいますか?」


 アデルが言うとラーゲンハルトは苦笑いを浮かべた。


「そうだね。ただ優秀な人間は取り立てたり、カザラスに引き渡すにしても本人たちが望んだって形にすることが大事かな。うちが貴族に対して厳しいって印象を持たれると、今後の戦争で相手が降伏や寝返りをしてくれなくなっちゃうからね」


「あぁ、そういうのも考えなきゃいけないんですね……」


 アデルはうんざりした顔になった。捕虜になった貴族たちは内政値はそれなりに高いものの、優秀とまで言える人材はいなかった。


「条件の交渉とかも個別にしてあげないと、『ぞんざいに扱われた!』とか言いふらされたりするかもしれない。うわぁ、考えただけでめんどくさいね」


「う~ん……誰かそう言う交渉が得意な人いませんかね? 僕は絶対やりたくない……」


「元貴族で話をまとめられて、なおかつ相当、くらいが上じゃないと舐められるかもしれないね。僕でもいいけど、絶対相手を怒らせちゃうだろうからなぁ」


「それはやめてください」


 アデルは頭を押さえた。


「でも確かにそういう元上級貴族みたいな交渉役は必要になってくるよね。うちは良くも悪くも、これまで国として認められてこなかったから外交の必要が無かった。だけどこれだけ勢力を拡大したら、今後はさすがにうちを無視するわけにも行かない。そうなると外交官が必要になってくるけど、相手は血筋重視の貴族制の国になってくるから、こちらも血筋が自慢できるような外交官がいたほうが話はスムーズだよ。まあうちは貴族制じゃないからって平民にやらせたり、もしくは外交なんか必要ないくらい圧倒的な軍事力を身に着けるって手もあるけど」


「う、う~ん……血筋が良くて相手の気分を害することなく話せる人なら心当たりが……」


 アデルはある人物の顔を思い浮かべて呟いた。

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