第33話 目的変更

「お話は分かりましたわ。申し遅れましたが、我々はハーピーのイホーク族。私は族長を務めさせていただいております、シャスティアと申します。どうぞよろしくお願いします」


「アタイはカラだ」


 ハーピーの二人がそれぞれ自己紹介をする。


「僕はアデルと言います」


「私はイルアーナだ」


 アデルたちもそれぞれ自己紹介をした。


「アデルさんのお話、大変ありがたいのですが、ただ突然のことですので、こちらとしてもお受けして良いものかどうか迷っております。お気を悪くしたらすみません」


「いいえ、こちらこそ急に押しかけてしまってごめんなさい」


 頭を下げるシャスティアにアデルも頭を下げる。


(最初はどうなるかと思ったけど良い人そうだ……やっぱり話し合いをして良かったなぁ)


 アデルは話し合いの大切さを嚙み締めた。


「大変勝手なのですが、ひとつお願いを聞いていただけますか? それを叶えていただけたら、お二人を一族の運命をお預けするに相応しい方とお認め致します」


 シャスティアが申し訳なさそうに提案した。


「確かに……口だけで信用してくれと言っても無理ですよね。僕らにできることであればなんでもおっしゃってください」


「ありがとうございます……それでは……」


 シャスティアはアデルの言葉ににっこりと微笑んだ。


「ワイバーンを退治していただけますか?」


「……は?」


 その言葉にアデルとイルアーナは固まった。




「なぜハーピー退治がワイバーン退治になるのだ! だったら最初からワイバーン退治の依頼を引き受ければ良かったであろう!」


 歩きながらイルアーナの怒声が響く。目的のワイバーンの巣はハーピーの巣のさらに奥、高い岩山にあるという。こんなところまで来る人間はいないだろうと、二人は素顔を晒している。ポチは荷物袋から頭だけ出してアデルの歩みに合わせて頭を揺らしていた。


「すいません……流れ的に断れなかったもので……」


「お前は人が良いのか意気地がないのかわからんが、態度が弱すぎる! 今度から不利益なことはちゃんと断れ!」


「が、がんばります……」


 アデルは怒られて小さくなっている。それを横目でにらみながら、イルアーナはため息をついた。


(だが……)


 イルアーナは横にいる気弱そうな青年を見ながら思った。


(もしかしたらアデルはワイバーンを倒せるほどの力があるかもしれない。最強の種族、竜族を倒せるほどの力があるとしたら、いよいよ本物だぞ……)


 ハーピーの依頼にその場で口を出し、断ることもできたイルアーナだったが、そういった思惑でアデルに判断を委ねたのだ。


(それに……いくらなんでも倒す自信がないならワイバーン退治など引き受けないだろう。アデルもそれだけの自信があるに違いない……)


 イルアーナは期待のこもった目でアデルを見つめた。一方アデルは……


(相手がヤバそうだったら、「行ったけど留守でした!」で誤魔化せるかなぁ……)


 必死に言い訳を考えていた。




「本当にアイツらがワイバーンを倒せると?」


 アデルたちが去ったあと、カラはシャスティアに尋ねた。


「倒せなくてもこちらは何も損はしませんわ。あの方たちが餌になっていただければ、私たちもしばらく襲われなくなるでしょうし」


 ハーピーは空を飛べる魔物だが、同じく飛行できる魔物たちの中では決して強い種族ではない。特に速度が速いうえに戦闘力も桁違いなワイバーンは天敵であり、多くのハーピーがワイバーンに食べられていた。


「……さすが族長だね」


 カラの言葉にシャスティは微笑む。


「でも……それだけではありませんよ。普通の人間であれば、私たちを化け物と言って怖がるところを、あの方は美しいとおっしゃってくださいました。女として嬉しいじゃありませんか。それにあの方々はこの人数を前にまったく怯える様子もありませんでした。もし戦っていれば、殺されていたのはこちらかもしれませんよ」


「アイツらがねぇ……」


 シャスティアの言葉にもカラは半信半疑だった。


「ぜひ無事に帰ってきていただきたいものですわ」


「でも大昔、アタイらは人間と戦ったんだろう? 帰ってきたとして、信用できるのかい?」


「伝承では、我々ハーピー族はダークエルフたちと手を結び人間と戦ったそうですね。そのダークエルフが人間と手を結ぶというのなら、私たちもご一緒してもいいんじゃないかしら? ダークエルフがあの方々を利用して何かをしようとしている可能性もありますが、それでもそれだけ利用価値のある人間なら、仲良くしておいて損はないのではなくて?」


 アデルたちが失敗しようと自分たちが損をすることはない。その打算でアデルたちを送り出したシャスティアだったが、まさかそのことがこの後の歴史を大きく決定づける出来事になるとは思ってもいなかった。

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