第125話 俺たちは天才ファミリー

 それから新人十人との試験を続け、たったいま最後の一人の試験が終了した。

 うむ。合格認定されたのはわずか二名。十名中二名だと多いような気もするが、そもそも定員数がない中での二名なんだ。

 クロエさんのお眼鏡にかなうのが二名だったというだけの話。


 でも、今回落ちたからと言って、二度とチャンスがないわけではないらしい。

 定期的に開かれ、何回も受ける人もいるとか。

 新人期間が終わっても、挑戦する猛者もちらほら。今回は新人のみ試験であったため、俺が代わりに試験したということらしい。


 ひととおり試験を終了したが、クロエさんがもふもふから帰ってこない。

 

「クロエ先生ありがとうっ」

「どういたしまして。ダンスさせるときの体に合わせて、回復魔法を使うイメージよ。遊びの時にでもしておいて」

「はぁーい」


 こちらにこないクロエさんの方に向かうと、ティナとクロエさんの会話が聞こえてくる。

 もしかして、クロエさんがシロを使ってしていたダンスに魔法の勉強という意味があったのか?

 ……そうなると、クロエさんが優秀すぎるんだが?

 ただ、もふもふと遊びたいがために俺に試験官を任せたのかと思ったが、

 ティナの反応からするにどうやら違うみたいだ。


 試験の合否。ティナの先生。もふもふと触れ合う。まさにマルチタスク。

 これがクロエさんの言っていたwinwinの関係?

 言葉が足りなさすぎる気がするけど、やはりクロエさんも仕事ができる人なんだな。


 まあ、そうだよな。試験官を俺に譲ること自体がおかしな話だったしな。

 すこしだけだるいなと思った俺が悪うございました。


「クロエさん終わりましたよ」

「うん。ソラ君ありがとね。可愛い子ちゃんたちと遊べて、癒されたわー」


 そういってくるクロエさん。

 ふむ、いい人だ。俺にはなにも悟らせないようにかな?

 はぁー、なんかもう、天才的に優しい人なんだな。

 これはルイも惚れるわ。


「今回の合格者は二名だけだけど。どんな採点基準なの?」

「フィーリング」

「……」

「冗談よ。ソラ君はなんで私が戦闘試験なんてものを試験にしていると思う?」


 クロエさんの返答にジト目になりかけていたが、戦闘試験の理由か……

 

「回復魔法士も戦場に立つことがあるから、自分の身を守れるかの確認?」


 んー。自分で言った言葉だが違う気がするな。


「それもないことはないけど、違うわね。基本的に回復魔法士に戦闘試験なんていらないのよ」

「そうですよね」

「でもね、貴族出の子たちは痛みを知らなさすぎるの。回復魔法をおこなう上で痛みというイメージはとても大切なもの。あー、そうね、この際だから魔法のイメージについても教えておくわ。以前、ティナちゃんには才能があるって言ったのは覚えている?」

「う、うん」

「ティナちゃんは才能があるという言葉では言い表されないほどの才能がある。まあ、天才っていえばいいのかな?普通回復魔法をするうえで、いたいのをなくすというイメージだけで魔法が発動し、回復を行うなんてことは一般人には不可能だということを知って欲しい」

「え?」

「私たちが人間の体について研究し、知っていくのはもちろん回復魔法に必要だから。どの組織と組織をつなげて回復させるか。神経をどのようにつなげるか。普通はそこまでイメージしないと大けがの場合、回復魔法は正常に発動しない。でもティナちゃんは違うの。そんな些細な人間の構造など無視をしても、ティナちゃんのイメージ、希望どおりに回復魔法が作用する」


 ほぇー。回復魔法について知らなさすぎるからわからなかったが。うちの天使はどうやら天才らしい。

 それも話で聞くだけでもわかるぐらいの異常さだ。


「これはソラ君にも言えるけどね。おそらくだけど、普通の人の魔法のイメージより、はるかに浅いイメージで魔法が発動できているはず。ソラ君の場合、移動補助に両足の風魔法、避ける時の方向に風魔法の支援、そして、風魔法による攻撃。これを同時に行っている時があるでしょ?何千回、何万回イメージして、魔法の発動速度をはやめれても、なかなか三個の魔法を同時には操れないわ」


 まさかの俺も?んー。他の人のイメージなんてものを聞いたことがないしな。

 聞いたとしてもテトモコぐらいな気がする。

 確認しなくてもおそらくテトモコは天才の部類。


「なるほど。俺たちは天才と」

「あらためて言われると否定したくなるけど、特異であることは確かよ。話を戻すけど戦闘試験を行うのは痛みを知ってもらうため、それに性格や考え方を知るため」

「うんうん」

「やっぱりソラ君も思うよね。戦闘は一番相手のことを知る機会。それに、戦闘試験をどう回復魔法士としてとらえているのかも知りたいの」

「ん?どうゆうこと?」

「試験を受ける子の大半は戦闘にはあまり興味がない回復魔法士なの。戦闘力なんてものは端から求めていないのよ。戦闘試験という場で回復魔法士として自分をアピールするならどのようにアピールするか。そういうところも見てみたい。何も考えず戦闘力を見せようとする子はいらない」

「それだとアピールの仕方が難しいと思うんだけど」

「そうでもないわよ。逆に戦闘以外ならなんでもいいのよ。面白いって思った子の中には、体の構造を熟知しているのを私に伝えるために、体を動かしにくくするような攻撃パターンを作ってきた子がいたわ。骨格の問題でつぎの回避行動をとりにくくし、攻撃をあてる。最初は違和感でしかなかったけど、何回も同じ攻撃パターンをしてきたからね、わかった時には即合格をあげたわ」


 それはすごいとしか言いようがないな。

 俺にはこうやって採点基準を教えているが、その人は一から戦闘試験の意味を考え、そのアピール方法を考えだしたんだろ??

 発想が柔軟すぎるだろ。知識だけでは導きだせない行動がそこにはある。


 まあ、宮廷魔法士第三席の下につくのはそう簡単ではないってことだな。

 クロエさんの下にいる人は優秀で個性的な人が多そうだ。

 

 新人たちはすでに訓練場をでているので、俺たちもそろそろ帰ろうかな。


 なんやかんや働いたし、今日はもうゆっくりするんだ。


「あ、そういえばルイは?」

「ルイならモコちゃんを枕にして寝てるわよ」


 そう言われ、俺から見えない反対のモコの横を見ると、モコの毛を枕に熟睡しているルイがいる。

 

 こいつは……

 てか、俺が試験しなくても、クロエさんの彼氏であるルイがすればよかったんじゃね?

 しかも、こいつは完全に仕事をさぼって、ここで寝ているんだろ?

 いい大人が……なんかむかついてきた。

 俺は物音を立てず、ルイへと近寄る。


「うなれ、影からいでし深淵の右腕、チェストォ――」


 陽が沈みだして少し暗くなってきた訓練場に響き渡る声と呻き。

 それを聞いたものはもふもふ中毒症になったとか、ならなかったとか。

 真実はもふもふのみぞ知る。

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