第78話 ネネ
「はやいことに本日最終試合のお時間です。さきほど決勝へ進出を決めたレオン殿下につづき、決勝のカードを手にするのは死神ことソラ君。氷の魔法士ネネのどちらでしょうか。両者ともいままで魔法を駆使した試合をしていましたが、どのような試合になるでしょうか」
「ネネに関してはいままで通り、氷魔法主体の遠距離勝負をしかけるだろうが、ソラはどうだろうな。近接での戦闘も得意だから、セオリーでいくと接近に持ち込む方が勝率が高い。が、そうはしないだろうな。ソラなら魔法勝負をしかけるだろう」
「それは楽しみですね。魔法対決。武闘大会において魔法対決は少ないですからね」
「そうだな。どうしても、魔法士は予選の段階で削られてしまうし、一対一の対決だと速さ重視で負けることが多い。魔法士の強みは強力な範囲攻撃にあるから、武闘大会自体が魔法士向きの大会ではない」
「では、珍しい魔法士同士の戦いを期待しましょう」
メロディーさんとゼンさんの試合前予想がされているが、どうやら魔法勝負を期待されているらしい。
勝手なことをと思いながらも、俺も鼻から魔法勝負をするつもりだった。
大鎌を使っての近接勝負を仕掛けても、面白味がないからね。
それに魔法士の人との魔法勝負とか憧れるでしょ。
アニメでも映えるシーンじゃん。
それに魔法士同士の勝負ってどんな感じになるか気になるし、ぜひ魔法だけで戦ってみたい。
ステージ横のうちの子の声援を受け、ステージへと上がる。
俺と同じタイミングで、反対から水色の髪のネネもあがってくる。
色白のお人形さんみたいな人だ。
今までの試合であまり話しているところを見たことがない。
「ねえー」
「ん?」
「君の従魔?」
無口な人なんだろうなと思っていると、人形のような口から声が発せられた。
ネネはうちの子たちがいる方を指さしながら質問している。
「そうだよ。黒犬のモコ。黒猫のテト。白キツネのシロだよ。シロはあそこにいるティナの従魔だけどね」
「そう……」
どこか意思のこもっていない返事をしながらもテトモコシロを見つめているネネ。
なんだろう。
顔の表情は変わっていないが、どうやらうちの子たちがきになるらしい。
「魔物好きなの?」
「好き」
やはり表情を変えず答えるネネ。
俺の質問には即答で答えてくる。
魔物が好きなのね。まあ、うちの子たちは天使だからね。その気持ちはわかるよ。
あの黒と白のもふもふは最高なんだぞー。
「勝ったら触っていい?」
「ん?別にテトモコシロが嫌がらなかったら、試合関係なく触っていいよ?」
「ほんと?今は?」
「今は……いいのかな?」
「聞いてみる」
そう言ってステージから降り、うちの子たちがいるところに歩いていくネネ。
声のトーンは少し上がっていたので喜んでいるみたいだ。
それにしても、聞いてみるってテトモコシロに了承を得るってことかな?
俺の心配は試合前にそんな時間とれるかどうかだったんだけど……
ネネはそんなこと気にすることなく、テトモコシロの前につく。
「毛触ってもいい?」
「にゃっ」
「わふ」
「きゅう」
テトモコシロはネネに少し近づき、匂いを嗅いでから答えている。
どうやらお気に召したようで触らせてあげるらしい。
「おねえちゃん触っていいって」
「そうなの?ありがと」
ティナが翻訳してあげ、ネネは恐る恐るモコに手を近づけていく。
「もふもふ……」
目を閉じ、モコのもふもふの毛を撫でているネネ。
そのままモコの上にいるテトとシロに手を伸ばし、また違った毛の感触を堪能している。
テトモコシロを怖がらせないためか、上からいくのではなく、横から優しい触り方で触っている。
この人もモフモフ愛好家なのかな?テトモコシロも触り方が心地よかったのか。手に体を寄せている。
まあ、三匹とも嫌がっていないみたいだし、悪い人ではないんだろうな。
闘技場を埋め尽くす観衆の中、数分の間ネネはうちの子のもふもふを堪能していた。
それに対して観衆は文句を言うことなく、なぜかそのじゃれあいを見ているだけ。
「なんとうらやましい時間なのでしょうか。知っている方も多いかと思いますが、あそこにいる従魔はソラ君の従魔になります。最近ではベクトル商会で魔物パーカーという商品が出るほど人気になっていますね。ですが、そろそろ試合開始をしたいのですがネネさんよろしいですか?」
さすがに司会進行をしているメロディーさんは試合を進めるべく、ネネさんに話しかける。
さらっと、魔物パーカーの宣伝をしていた気がするが、ミランダさん何かしていないよね?
高額な広告費をだして、メロディーさん買収してないよね?
「ごめん。ありがと」
「にゃ」
ネネはメロディーさんに謝罪し、テトモコシロを最後にひと撫でして、ステージに戻ってくる。
「君もありがと」
そういうと俺の頭に手を乗せ、頭を撫でるネネ。
撫でられた俺は体温の上昇と顔が熱くなるのを感じる。
おそらく、顔は真っ赤だろう。
ゆったりとした動作で敵意もなかったので反応すらできなかった。
見た目が十代後半か二十代前半の女性にいきなり撫でられるとさすがに照れる。
ほんといきなりなにするんだ。試合前に動揺させる作戦だったら大成功だぞ。
おそらく悪気なく十歳の少年に感謝の印として撫でたのだろうが、精神年齢二十代の俺にはなかなか効く攻撃だ。
「始めて?」
「わかりました。ソラ君もいいかな?」
「いいです」
「では、本日最終戦始めます。よーい。始め」
動揺している間にも、ネネの準備ができ、メロディーさんの開始宣言がされた。
さて、どんな感じになるのかな。
とりあえず、相手の出方をみてみるか。
「君は独学?」
「ん?」
「風魔法」
「そうだけど」
「同じ……」
開始早々攻撃してくることはなく、話しかけてくるネネ。
どうやらネネも誰かに師事されることなく魔法練習してきたようだ。
今、それを聞いてどうなるか知らんが、声からどこか喜んでいるようにも思える。
「氷は面白い。こういうこともできる」
そういうとネネは拳サイズの氷塊を浮かべ俺に飛ばしてくる。
避ける必要がなく、頭上を通りぬけるような軌道なので、そのまま注意しつつ見ていると。
少し手前で氷がとけ、水へと変化し俺に降りかかってくる。
「おっと」
ほー。面白い状態変化ができるのか。
普通に考えると水魔法の上位魔法なのかな?水と氷なんて一緒の物だし。
でも、テトがしたことないから、スキルを持っているか持っていないかの違いだけかもしれないけど。
「避ける……」
「そりゃーね。それより、徐々に寒くしている?」
「ん」
静かに頷くネネ。
やはりこの人の戦い方は面白い。
まだ初手の攻撃しか見ていないが、その裏でステージ上の気温を氷魔法で下げているみたいだ。
あの攻撃に当たっていたら、裏でしている魔法に気づけず、ただ水の冷たさだと認識していただろう。
この寒さを無視しているといずれ筋肉の動きが悪くなり、動きが鈍くなっていく。
強者の戦闘だとその小さな変化が致命的な隙生み出す可能性がある。
氷魔法を知り尽くした人ならではの戦闘スタイルなのだろう。
こういう環境操作ができるスキルはえぐいよな。気づいた時にはつんでいる可能性がある。
俺も環境操作をしてみたくて、風魔法を研究している時に真空空間を作れないか試してみたが、俺には真空の知識がなく作り出すことができなかった。
もし真空空間を作れるとしたら、そこにいる生物は息をすることができずそのまま死ぬ。
最強すぎるだろ?
俺に結界スキルがあり、風魔法と混合して魔法を作れればできたのかもしれないが、なにも区切られていない空間を真空にすることはできなかった。
その研究の副産物でできたのが、風圧による拷問方法なのだが。
あれも正直そこまで強力な魔法ではない。
アニメや小説でよくある重力魔法ほどの強さはないと思う。だからこそ拷問にしかつかっていない。
「アイスボール」
俺が考察をしている間にもネネは攻撃を仕掛けてくる。
もう、お話しは終わりかな?
アイスボールと言っているが、さきほどの氷塊よりすこし大きいだけの氷だ。
「なら、こうしようかな」
俺は飛んできている氷塊を風魔法にのせ、その操作を奪う。
氷塊はそのまま俺の横を通り、守護結界にあたり消滅する。
「おもしろい」
「ただ、風圧で無理やり操作を奪っているだけだけどね」
「単純……でも強いし難しい」
やっぱり魔法士のネネだからわかるよね。
ネネが言っているようにこの技は結構難しい。
投げナイフや弓などであれば、飛んでいる最中に力を与えることで簡単に軌道を変えることができる。
だが、魔法は違う。強者であれば飛んでいる最中でも自由自在に動かすことができる。
テトモコなんか数十個でも自由自在に動かせるからね。まさに地獄絵図だよ。
どうゆう思考回路しているのやら。
説明に戻るが、相手の操作している方向とは逆方向に風圧をあて、操作を阻害する。
すべてリアルタイムの操作なので結構集中力がいる作業だし、繊細な魔力操作が必要になる。
相手より魔力操作が上手くできないとできない芸当ではあるな。
「風魔法良い」
「氷魔法も強力だと思うけどね。周りの霧状の水もいずれ凍らせるのかな?」
「ん」
やはり色白の顔から表情は読み取れないが、少し動揺しているかな?
先ほどからすこし湿気がでてきたので、風を纏い、俺の周りの水分を飛ばしてみた。
もしかしたらネネが空気中の水分を操作でき、凍らせることができる可能性があるからね。
危ないものは近づけない方がいい。
どこまで凍らせるのかわからないが、空間の水分を凍らせることができたら強いことこの上ない。
それに、体内の水分を凍らせることができるなら対人で負けはないだろう。
人間の体は7割水分でできている。これはこの世界でも変わらないと思う。
獣人、魔族、エルフなどはわからないが、一般的な人間ならおそらくそうだ。
まあ、そんなことできないと心から願いたいが……
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