第70話 ティナは気遣いができる子


「あ、ソラとティナちゃん」


 ティナも劇にあまり興味を示していなかったので、公園から離れ、露店が並ぶ大通りを歩いていると声をかけられる。


「お、ミランダさん。こんにちは」

「こんにちはっ」


 振り返ると、そこには赤髪のベクトル商会会長のミランダさんが近寄ってきていた。

 今日もドレス姿で綺麗に着飾っている。

 

「どう?建国記念祭は楽しんでいるかしら?」

「たのしー。ティナね。いっぱい買ったんだよ」

「よかったね。テトモコシロちゃんも楽しそうでよかったわ」


 ティナは嬉しそうに、屋台でお金を払ったことをお話ししている。

 銀貨が何枚だとか、あの屋台のごはんはおいしかったとか、聞かれてもいないが、説明している。

 それを相づちを打ちながら、ミランダさんは聞いている。


 親戚の子供もその日にあったことをよく話していたな。

 俺にとってはどうでもないことでも、子供にとっては一つの思い出として記憶されているのだろう。

 なんであんなに子供は楽しかったことを覚えているのだろうか。

 大人になると、楽しかったことより、嫌だった思い出の方が強く記憶されている気がする。

 もちろん、楽しい事を覚えていないわけではないが、嫌だったことを忘れることがあまりない気がする……

 

 ミランダさんはティナが話終わるまで、笑みを浮かべて聞いていた。

 優しい人だなぁ。こういう行動一つとってみても、その人の人柄が読み取れる。

 大商会の会長だから忙しいだろうに。それに、今は記念祭中だ。商会にとっては繁忙期真っ盛りだろに。

 そんな素振りをみせることなくティナとの会話が終わり、俺に目を向けるミランダさん。


「ソラに伝えることがあったのよ」

「ん?なに??」

「今回の建国記念祭の目玉商品として、テトモコシロちゃん以外の魔物パーカーを作ったの」

「おおー。それはいい。どんな魔物?」

「ウサギ型とリス型、ドラゴン型の三種類よ。ウサギとリスは従魔にしている人が多いからね。それを採用したわ。ドラゴンは帝国では建国のドラゴンとして人気があるからね。もふもふではないけど革製にして雨の日でも着やすいように考えたの」


 ほぉー。さすが商人。ちゃんと需要を把握し商品化しているみたいだ。

 それにしてもウサギとリス。ぜひともティナに着てもらいたい。

 ぴょんぴょんと跳ねる姿……。肩にスリスリしてくる姿……。


「買います」

「そうだと思っていたわ。だからソラとティナちゃんのはプレセントするつもりよ」

「ティナいらなーい」


 モコの上で話を聞いていたティナが言葉をはさむ。

 

 な……ぜ?

 魔物が好きなはずなのに、ティナはそのパーカーをいらないと言っている。

 どこに問題があった?

 ティナは絶対そのパーカーが似合う。

 ティナが似合わないなら、誰も着こなせないだろう。

 そして、おそらくティナは着こなしなど考えていないだろう、だからこれがいらない理由ではない。

 

 他に理由は何がある?

 お金の問題なわけがない。億単位の金があるし、そもそもミランダさんはくれると言っている。

 なんだ?

 

 頭をフル回転させるがいらない理由はわからない。


「ティナ?なんでいらないの?」

「テトちゃん、モコちゃん、シロちゃんの服が好きだもん。それに違う魔物の子だとみんな悲しいかなって」

「にゃーーー」

「わふーーー」

「きゅうーー」


 ティナはモコを撫でながら言う。

 そんな天使の発言にテトモコシロはもちろんテンションマックスへ。


 モコの上を歩きティナの体にすり寄るテト。

 大きな黒いしっぽでティナの体をさわさわしているモコ。

 ティナに抱かれていながらもしっぽをフリフリしているシロ。

 三者三様の喜びかたでティナに甘えている。


 あー。こんなにピュアで優しい子がこの世にはいるんだな。

 ティナの魔物パーカーを着た姿を想像して、安易に買うといったが、ティナはテトモコシロのことを考えていらないと言ったのか。

 浅はかな俺が恥ずかしい。

 

「にゃにゃにゃ」

「え?もらっていいの?」

「わふわふ。わん」

「んー。お部屋だけにする。外はみんなと一緒っ」

「きゅうきゅう」


 うちの子たちで会話しているみたいだ。どうやらテトモコシロは他の魔物パーカーを貰うことを薦めているらしい。

 自分たちの服も着てほしいみたいだが、やはりウサギやリス、ドラゴン姿のティナも見てみたいのだろう。

 うちの子たちはティナのことが大好きだからな。


「ミランダさんやっぱり欲しいっ」


 ティナも部屋着として服を貰うことにしたようだ。

 うちの子会議を見ていたミランダさんはテトモコシロの言葉がわからないだろうが、状況を把握しているらしく、うちの子たちをみんな撫でていく。


「もちろんプレセントするし、別に部屋着でいいわよ。宣伝は十分だし、一度波に乗ったら大丈夫なの。ドラゴン型パーカーは少し寝るのには向かないけどね」

「ありがとっ」

「はい、ソラのも渡しとくね」


 ミランダさんはマジックバックから魔物パーカーを取り出し、俺に渡してくる。


「いや、俺のはいらないんだけど」

「まあ、もらっときなさい。あなたのアイデア作品なのよ」

「これは俺のじゃないでしょ。テトモコシロじゃないし」

「わかってないようだけど、魔物パーカーはすべてソラのアイデアよ。商業ギルドでも登録してあるわ。だからテトモコシロちゃん以外のパーカのお金も振り込まれるわよ」


 え?いつのまに。

 ということは、俺は何もしていないがテトモコシロ以外の魔物パーカーでも儲けれると……。

 お金がもらえることは嬉しいんだけど、なんか申し訳なく感じる。

 

「申し訳ないんだけど……」

「気にする必要なんてないわよ。そういうものだから。ベクトル商会も儲けて、アイデア発案者も儲かる。これが商業ギルドのシステムよ。だから、何か思いついたらすぐに教えてね」


 ミランダさんはそういうと、俺にウインクしてくる。

 んー。美人さんだから嬉しいけど、目が金マークだし、口元がにやけているように見える。

 この人はいつでもお金第一。

 まあ、会長だから仕方ないのだろうが。


「わかったよ。もらっときます」

「子供は素直が一番よ。それにソラは可愛らしいだから、その黒いローブ以外も着なさいよ」

「部屋では来ているんだけどね。それにこのローブはお守りみたいな物だから」

「そうなのね。おめかしする服が欲しかったらぜひベクトル商会へ」


 神様印のローブは神様の贈り物だし、外ではなるべくこれを着ておきたい。

 なにがあるかわからないし、心の持ちようだけど来ていると安心する。


 ミランダさんは最後にベクトル商会の宣伝をして、大通りを歩いて行った。

 

「ソラ―。お家帰ってもらったの着よっ?」

「そうしようか」


 早くティナの魔物パーカー姿を見たいのでもちろん即肯定する。

 少し早歩きで人が込み合っている街中をラキシエール伯爵家へと進んでいく。

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