第68話 中身はなんだろうな

 今日はもう、外に出る予定はないので、ラキシエール伯爵家の家でゆっくりするつもりだ。

 

「いっちに、いっちに」

 

 うちの子たちは庭で遊ぶみたいで現在、部屋の中で準備体操中だ。

 みんなで並んで手をプラプラ、足をプラプラ。

 ティナの可愛らしい掛け声に合わせてテトモコシロも体を動かす。

 テトモコシロはティナのマネをして、器用に前足、後ろ足を分けて動かしている。


 どんな遊びをするのかわからないけど、かけっこやおにごっこの時はいつも準備体操をしているので、そういう類のものだろう。

 

「いってきますっ」

「にゃ」

「わふ」

「きゅ」

「いってらっしゃい。ケガしないようにね」

「はーい」


 そういうとうちの子たちは部屋を出ていく。

 

 俺はというと今回は遊びに参加せず、冒険者ギルドで鑑定してもらった指輪型アイテムバックの中身を確認していくつもりだ。


 鑑定結果があるので今回は安心して指をはめることができる。

 指輪を右手にはめて魔力を流していく。

 そうすると、マジックボックス同様に、ゲーム画面のようなものが頭の中に浮かぶ。

 中には本と食料、ポーション、日用品が入っているようだ。


 この指輪がどれだけ収納量があるのかわからないが、中にある物はそれほど多くない。


 とりあえず本をイメージし、取り出してみる。

 指輪から出てきた本は手のひらの上にでてきた。

 その本は結構の太さがあり、結構な分量がありそうだ。


「これは日記かな?」


 指輪の情報では本とあったのだが、どうやら日記みたいだ。

 マジックボックスもどうだったが、表示される名前はいい加減なことが多い。

 まあ、だからこそ、冒険者ギルドの受付嬢も中身の鑑定をするかどうか聞いてきたのだろうが。


 一ページ目には。

 今日から断罪の使者として活動していく。パーティーを組むのは久々だけど、私のやるべきことをやっていこう。

 明日の依頼「商人の護衛」

 買い出しが必要な物 食料、ポーション、毛布。

 男性陣は料理が苦手らしい。私のつくる料理で喜んでくれたらいいけど。

 新しいパーティーは楽しめたらいいな。


 日記に書かれている文字は丸みがあり、可愛いらしいものだった。

 依頼やパーティーという単語がでているので、この日記の作者は冒険者なのだろう。

 それに男性陣と言っていることもあり、女性のようだ。

 

 そこから十数ページは依頼内容や、戦闘の連携、反省などが毎日書かれている。

 この日記の作者はまめな性格なようで、その日に使用したアイテムなどを書き、次の日に買いに行っているようだ。

 

 俺には到底できない芸当だな。

 日本にいたころは何回か思い出作りのために、毎日の出来事を日記にしようとしていた。

 さすがに三日坊主ではないが、一か月続いたことはなかったな。

 

 それに、お金の節約のために家計簿のアプリをとりやろうとしたが、こちらは二日と続かなかった。

 レシートを撮るだけで記載されるものだったのだが、コンビニのレシートを受け取り忘れ、めんどくさくなったのだ。

 こういうコツコツと毎日こなせる人は一種の天才だと思う。

 日々の積み重ねがいつか大きなものとなるのだ。


「ん?」


 見知らぬ冒険者の冒険談を楽しんで読んでいると、毛色の違う文章が目に入る。


 最近、魔力が長持ちするようになってきた。

 一番の原因は灰色世界で魔力消費が抑えられたからかな?

 なんでかわからないけど、これはいいこと。

 ダンジョンで魔力がつきることも少なくなったし、索敵の時間を増やせそうだわ。


 どうやら影魔法の使い手は作者みたいだな。

 灰色世界は俺が影世界と言っているところだろう。

 それに、彼女も影世界での魔力消費が抑えられてきたようだ。

 やはり、影魔法を使えば使うほど、影世界での魔力消費が少なくなるのだろうか。


 そうであれば、影世界で何日も過ごせるようになり、俺たちの安全度があがるな。 

 まあ、何日も灰色の視界で生活はしたくないんだけどね。

 

 俺はページをめくる手を止めず、どんどんと読み進めていく。

 日記も終盤に近付いてきた時、書かれている文章にすべての意識が持っていかれる。


 この頭に聞こえている声はなんなの?

 この声を聴くと、索敵がパーティーでの役目なのに、気づいたら魔物に攻撃しちゃうんだよね。

 疲れているのかな?

 それに最近は灰色世界で魔力の回復が早い気がするから、寝るのも灰色世界で寝ている。

 なんか居心地がいいんだよね。

 灰色世界も最初は怖かったけど、悪くないわ。


「声ね……」


 あの時、ティナのおじいさんであるマクレンさんと対峙した時、俺は声が聞こえた気がした。

 ティナに抱き着かれて、頭が軽くなったので、それからのことは覚えているのだが。

 マクレンさんに会ってからティナに抱き着かれるまでの記憶は定かではない。

 記憶力には自信があるわけではないが、それほど昔のことでないのに思い出せないのは少し不思議だった。

 

 気がついたら、ティナに抱き着かれていて、手には影魔法が込められた大鎌も握っていたし。

 

「影の導き……か?」

 

 以前、ヘンネルの従魔屋に向かっている道中で出会った少年の言葉が頭によぎる。

 

 ここに大切な人がいるなら、影の導きには従わない方がいい


 日記の作者が言っている声が俺の聞いた声と一致するのであれば、これが影の導きである可能性は高い。

 それに、それが正解だというように、あの時の俺は影の魔力をこめ、マクレンさんに近づこうとしていた。

 声に従って行動したのかな……



 でも、その声が聞こえる原因やきっかけがわからない。

 その時以外は、別に大鎌を持っても聞こえることはない。

 この前のダンジョンで魔物と戦闘しても聞こえなかった。


 謎のままの答えを探るためにページをめくるが。

 そこにはただ一文


 戻れない


 ただそれだけが書かれていた。

 何が戻れないのか。 

 知りたい情報はたくさんあるのだが、悲しいことに日記はそこで終わり、あとは白紙のままのページが続いていた。

 

 この段階で指輪を落としたのか、またはここで日記を書くことをやめたのか……

 どちらにせよ、俺の気が晴れることはない。


「ソーラー。隠れさせて」

「ん?どうした?」


 部屋の扉を開けて、ティナが俺の背中とソファーの間に入ってくる。


「かくれんぼなのっ。今はモコちゃんが鬼」

「そうか。じゃー静かにしとくね」

「お願いっ」


 ラキシエール伯爵家の屋敷を使ったかくれんぼをしているらしい。

 人様の家でやることではないが、サバスさんが注意していないってことは許してもらえているのかな?

 それにしても、隠れるところなんか俺たちの部屋かフィリアの部屋、食堂ぐらいだろう。

 それ以外の部屋に入ったことはないし、みんな隠れようとしないはず……


「わふ」


 モコは開かれている部屋の扉から入ってきて、俺の前でひと鳴きする。

 んー。気づいているよな。

 どうしようか


「ティナはいないよ。先にテトシロを見つけてきてよ。もし入ったことのない部屋に入っていたら俺が怒るって伝えて」

「わふわふ」


 俺の指示を聞き、ティナを見逃し、テトシロを探しに行くモコ。


「ソラありがとっ」

 

 俺の後ろから小声でティナが話しかけてくる。

 うん。ティナの暖かさが心地よい。あと数分はこのままでいたい。


 数分してテトシロを見つけたモコがテトシロを引き連れ、部屋の中に入ってきた。


「わふわふ」

「にゃにゃにゃにゃ。にゃーん」

「きゅうきゅう」

「サバスさんに入っちゃダメなところ教えてもらったのっ」


 テトシロは入ったことのない部屋にいたみたいだが、どうやらサバスさんの許可は得ているらしい。

 テトシロは怒ることについて抗議をしているが、許可されているのなら問題はない。怒ることなんてしないよ。

 それにしても、ティナは見つかっていないはずなのだが、なぜかテトモコシロの会話に参加している。

 

「わふ」

「あ、隠れてるの忘れてたっ」

「なにしてるんだよ」

「だってー、テトちゃん、シロちゃん怒られそうだったからー」

「怒らないよ。ちゃんと許可があるのなら問題ない。みんな許可とれてえらいね」

「えへへ」


 怒られないと知り、ティナはご機嫌にえへへしている。今さっき見つかったのも気にしていないようだ。

 うちの子たちはみんなソファーに乗っかり、撫でられ待ちの列ができる。

 あー、手が四本欲しい。

 この時ほど人間をやめたいと思った時はない。

 しかたがなく、順番になでてあげ。ティナも待っているので撫でてあげる。

 こいうときモコはちゃんと最後に並び、みんなに譲ってあげている。

 

 まあ、最後が一番撫でられる時間が長いからかもしれないけど……

 

 そのままモフモフタイムへと移行し、まったりとした一日を過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る