第49話 その後……
大鎌に影の魔力を込めたまま、一歩、また一歩と白髪へと近づいていく。
「まってぇ」
後ろからティナの声が聞こえる。
さらに足を一歩近づける。
「ん?」
ティナが後ろから俺を抱きしめている。
「ソラ、まってぇ」
ティナは少し震えているが力いっぱいの声で叫んでいる。
何を待てばいい?
あいつは敵だろ?
今すぐ消し去るべきだ。
ティナの世界に汚く醜いものは必要ないんだよ?
「おじいちゃん……優しかった」
ティナの涙ぐんだ話し方に俺の歩みが止まる。
「優しかったのか?」
「……うん」
ティナの言葉を聞くと頭の影が消えるように頭が軽くなっていく。
いつの間にか込めていた影の魔力を戻し。
大鎌を影収納に入れ、白髪のおじいさんへと視線を移す。
「白髪のおじいさん。お話をしようか」
俺の言葉を聞き、ただ頷くだけの白髪のおじいさん。
「坊主、お前さんたちに何があったのか知らないけど、マクレンさんには手を出さない方がいい。冒険者ギルドを敵に回すことになるぞ」
隣の席に座っている竜人の男性に声をかけられた。
「相手の出方しだいだね」
「マクレンさんは冒険者ギルド本部に勤めている幹部だ。冒険者ギルドはもちろん、世話になった冒険者も多い。そいつら全員が敵になると思え」
俺の言葉を聞いてなのか、竜人の男性は淡々と事実を教えてくれる。
意外にも大物のおじいさんらしい。
おじいさん自体も体つきを見る限り、力は強そうだし、どんなスキルを持っているんだろうか。
まあ、敵になったら敵になったで考えるか。
「忠告ありがと、ちなみにあんたも?」
「ああ、殺る前に言ってくれ。俺が殺しに行くからよ」
おどけたように質問したのだが。
男性は笑顔で答え、その言葉には威圧が込められている。
「あー、怖い怖い。これでも十歳なんだから脅さないでよ」
「十歳か。若いの。坊主名前は?」
「ソラ・カゲヤマだ。Bランクで二つ名は死神って呼ばれているらしい」
「竜人のゼンだ。Sランクだ。二つ名は翡翠の守護者」
ほぉー。この人がSランクの英雄さんか。
見た目は二メートル越えだが、正直、獣人や竜人などの亜人と呼ばれる人の強さなんて見た目じゃわからないよ。みんな強く見える。
ただ、ゼンさんからただよう雰囲気から強者の風貌を感じるけどね。
んー。英雄さんだし握手してもらおうかな。
それにどうやってSランクになったとか、様々な冒険談も聞いてみたい……
いや、さすがにやめておこうか。今はそんな雰囲気でもないし。
「じゃー、ゼンさんまた冒険談聞かせてよ。今はお話してくる」
「おう、いつでもいいぞ、まあ、あんまりはめを外さず話して来い」
忠告もしてくれたし、ちゃんと会話もしてくれるのでゼンさんは良い人認定で。
そういえば、冷静になって考えるとずっとゼンさんは椅子に座っていた気がする。
周りの冒険者は未だに立ったままでいる人もちらほらいて、成り行きを見守っているし。
ゼンさんには何が起きても対処できるっていう強い意思が感じられる。
おー、こわ。ルイの言葉を借りるならこの人は化け物だ。
「ティナ、大丈夫?落ち着いた?」
少し涙を流していたティナはうちの従魔たちに囲まれ休憩をしていた。
テトモコシロも警戒を解いてはいないが落ち着いたようだ。
天使のためならテトモコシロも暴れかねないからな。
それにしても、俺が一番に冷静さを失ったのは失態だ。
思考に影が重なるような感覚で、あまり考えることができなかった。
ただ、頭に響き渡る言葉に従うことしかできなかった……
「うん。もう大丈夫」
元気がないように見えるがしかたがないか。
いきなりの親族登場だしな。
殺されそうになった事件も思い出すだろう。
俺たちは後からやってきた男性とおじいさん、お付きの男性の後をついて行く。
後をついて、冒険者ギルドの三階の部屋へと入っていくと。
その部屋にはローテーブルをはさんだ四つのソファーが置かれている。
先に入った人たちはそれぞれ座りだすので、空いたソファーへと座る。
「今回仲裁として帝都のギルドマスターである私キアヌ・スプリングが場を仕切らせてもらいます。まず、なにがあったのか説明してほしい。マクレンさんよろしいか」
「わしはそこにいるティナリアの祖父じゃ。じゃけど、ティナリアのことは半年ほど前に、移動中を盗賊に襲われ亡くなったと聞かされておる。ギルドの仕事のため領地を離れておったわしはその盗賊を調べようとしたが、情報を集めることができなんだ。息子に任せているモンフィール家からはそれ以外の情報は入ってこなかったしの」
ギルマスのキアヌさんはマクレンさんの話を聞き、顔の表情が引きしまる。
まあ、キアヌさんにとっては突飛な話だろうな
「その少女をここで見つけたと。だが、それだけでなぜこんな事態になるのですか?」
キアヌさんは不思議そうにマクレンさんに尋ねる。
「俺から言うよ。詳しくは話せないが。俺がティナを見つけ、家には帰りたくないというから一緒に生活している。ティナの話からすると、移動中に従者に襲われたらしい。そんな話を聞いてしまえば、その家自体がティナの敵である可能性がある。だから、俺が知らないティナの知り合いは敵である可能性が高いので敵対行動をさせてもらった」
ドーラのことは話せない。モンフィール公爵家には伝わっているだろうが、マクレンさんの話からすると秘匿されているみたいだ。
まだ、確証はないが、マクレンさんがその時にティナの傍にいなかったのなら暗殺事件に関与している可能性は低い。
それに、ティナのおじいちゃんは優しかったという言葉。
その言葉が、俺の中でマクレンさんが白いと判断させる。
冒険者ギルドの登録時にティナのことを何も知らなかった俺は少しづつだが、ティナに家のことを聞いていった。
どれも読書や庭、庭にくる動物のことばかりで、人物は登場しなかった。
意識的に避けているのか、無意識に避けているのかはわからないが、どちらにせよ。
家の人にいい感情を抱いていない。話すべきことがないということだ。
「……そんなはずはない。確かにティナリアは母親の身分が低いため、家の中での地位は高くないが。息子は愛していたはずじゃよ」
「残念ながら、ティナからお父さんの話は聞いたことがない。出てくる人間はお母さんだけだ。マクレンさんはティナがいる屋敷にいたのか?どんな状況で、どんな扱いだったか知っているのか?お母さんが亡くなってからティナに会いにいったのか?ティナの何を知っている?あんたが知っていることを教えてくれ」
俺は悶々とする心をそのまま言葉として発する。
ティナは悲し気な表情で、ソファーにそのまま座っている。
テトモコシロは寄り添うようにティナの近くにいる。
「わしは……すまない。ここ二年ぐらいは家から離れておって、時々しかティナと顔を合わせていない」
マクレンさんに腹を立てるのは違うとわかっているのだが、苛立ちがおさまらない。
その時のティナを助けることができたんじゃないか?
話を聞いて、寄り添うことはできなかったのか?
それにお母さんはなんで亡くなったんだ?
ティナのことを考えるとお母さんの死にも疑問が生まれる。
「家に帰りたくない。ティナは即答で答えたよ」
だからこそ、モンフィール公爵家の者と会わせたくなかった。
俺が知らない、ティナを知っている人間に会わせたくなかった。
そんな存在消してやりたかった……
「……ソラ」
服の袖をティナにつかまれる。
「怖い顔ダメ」
また、俺は怖い顔をしていたのか?
ティナを悲しませてしまったのか?
「ごめんな」
俺はティナの頭を優しくなでる。
ダメだ。俺が冷静にならないで、だれがティナのために行動できる?
「まあ、そういうことだ。俺はこのままティナとずっと一緒にいる。うちの子たち全員を幸せにする。だから、マクレンさん。モンフィール公爵家を調べてくれないか?」
「ワシに事件の真相を探れと?」
「うん。そうだよ」
「ワシに身内の犯人捜しをしろといっているのか」
マクレンさんは怒鳴りながら俺を強く睨みつける。
そんな怒るなよ。
ティナが驚いたじゃんか。
テトモコシロ、どうどう。落ち着いて。
「別に家の人が犯人だと確定したわけじゃないでしょ?まあ、ティナが盗賊に襲われたと伝えられたなら黒いけどね。それに、これはモンフィール公爵家のために言っているつもりなんだけど」
「……どうゆう意味だ?」
「外でモンフィール公爵家の人に遭遇したら俺が殺すからね」
「なっ」
「ティナの存在を知って、暗殺しに来たかもしれないでしょ?ここはギルドだし、ティナに止められたから手を出さなかったけど。そうじゃないなら俺は止まらないよ」
「犯罪者にでもなるつもりか?」
「それがどうしたの?」
平然と俺は答える。
「敵が誰かわかれば、俺もそんなことしないよ。だからマクレンさんに調べてほしいって頼んでいるんだ」
「……わかった。調べよう」
「助かるよ。皆殺しはティナも望んでないからね」
笑顔でマクレンさんに顔を向ける。
「ティナもそれでいい?」
「……みんなと一緒がいい」
「?俺とテトモコシロ?」
「うん」
ティナの表情が少し明るくなり、テトモコシロを撫でている。
あー。やっぱり天使だ。
「そうゆうことだから、マクレンさん頼んだよ。キアヌさんも冒険者ギルドで問題おこしてごめんなさい。極力しないようにします」
「ああ」
「そうしてほしい。今回のこともだが、決闘のようなこともあまりしないでくれ」
あれ?キアヌさん決闘のこと知ってるんだ。
別にあれは俺から仕掛けたものじゃないんだけどな。初めは。
途中からはノリノリで殺しにかかったけどね。
「今回の件は貴族も関わっているし、少女の命に関わることだったので、冒険者ギルドとしての処罰はしない。だが気を付けてくれ。普通の職員だと対応できないので、あまり殺気や魔力を垂れ流しにしないでくれ」
「はーい」
キアヌさんからおしかりを受けてしまった。
まあ、少しは反省しているが、またやらないとは言わない。
うちの子のためになら喜んで死神になろう。
キアヌさんは不安そうな顔しているが、そんなもの知らん。
うちの子に近寄るのが悪い。
世界が悪いんだ。
話が終わると、キアヌさん、マクレンさん、お付きの人は何も言葉を発さないまま部屋から出て行った。
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