第46話 魔法少女ティナ


「ふふふーふん」

「にゃにゃにゃにゃーん」

「わんわんわーーん」

「きゅきゅきゅーきゅう」


 依頼を終え、冒険者ギルドから出てきたうちの子たちはご機嫌さんだ。

 ティナは初めての依頼を無事達成することができ、鼻歌を歌いながら宿へと歩いている。

 街の人たちはそんなうちの子たちの様子を温かい目で見守っている。


「あら、ティナちゃん。ご機嫌だねー。依頼は楽しかったの?」

「そうだよっ。フィリアおねえちゃん聞いてー」

「一緒にご飯食べながらお話ししましょ」

「うんっ」


 宿泊している宿の前でばったりとフィリアに出会い、一緒に食事する流れとなった。


「で、どんな依頼だったの?」


 晩御飯もおいしくいただき、すこし落ち着いたころにフィリアは話し出す。


「あのね、ねこちゃん探したのっ」

「よかったね。見つかったみたいで」

「うんっ。それにね白猫ちゃんも子猫もいたの」

「いっぱい猫ちゃんがいたの?」

「うんっ。三匹いたよ」

 

 ティナはちゃんと話しているつもりだろうが、今日の出来事はそんなことでは伝わらないだろう。


「一匹の猫を探していたら。まさかのその猫に嫁猫と子猫がいてね。依頼人に連れて行って、三匹とも飼ってもらうことにしたんだ」

「そうなの?単なる迷子ではなかったのね」

「テナちゃん可愛いんだよ?こんなにちっちゃいの」


 ティナは手で子猫のサイズを伝えようとしている。

 そんなティナが可愛いよ。


「テナちゃんっていう猫を探していたの?」

「ううん。違うよ。探してたのはネロちゃん。テナちゃんはネロちゃんとミケちゃんの子猫ちゃん」

「うんうん。ん?」


 フィリアが俺を見てくる。

 ティナの説明でわからなかったから説明しろってことか?

 こいつ考えることを放棄してはないだろうな?


 うちの天使が頑張って説明しているんだぞ?

 貴族令嬢としての知識をフル活用して読み取れよ。

 読み取れなくてもつくろえ。

 そんな、私わかりませんみたいな顔をするな。

 ティナが悲しんだらどうするんだ。

 

「ソラ」


 ねだっても教えてやらんぞ。

 何回も説明して、ティナが悲しんだら、お前を憎むぞ?


「テナちゃんはね。子猫ちゃんでおねえちゃんにティナの名前を付けてもらったの」

「依頼人が子猫にテナという名前をつけて。その由来がティナちゃんってこと?」

「そだよー。ちっちゃくてね。よちよち歩きでぺろぺろしてくれるの」

「それは……可愛いわね。うちのチロも可愛さでは負けないつもりだけど、生まれたばかりの子猫なんて最強だわ」

「そうだよ。さいきょーだよ」

「きゅい」

「きゅー」


 チロシロがぼくもかわいいよーっと二人にアピールをしている。

 もちろん、フィリアがそれに抗えるわけがなく、チロシロを抱きしめ思う存分スリスリしている。

 ティナもそんなフィリアに抱き着きもふもふにスリスリしている。

 思わぬティナの追撃に、フィリアは抵抗むなしく白旗を上げてしまった。


「なんでこの子たちは天使なの?」

「それは俺も一生を通じて研究していく題材だ」

「私もその研究に参加しますわ」

「おおー、同士よ」

「お金は必要かしら?」

「それは大丈夫だ。天使たちには十分の金を俺がそろえる。それが俺の生きがいなんだ」

「く……では、おまかせします。私は私でもふもふの楽園を作りますわ」


 ほんとくだらない会話だ。

 フィリアとの会話はルイとは違った面白さがある。

 うちの子の良さをバカみたいに話せる友達は捨てがたいものがあるな。

 ネットがあれば、同士がさらに増えるのに……もったいない。

 この天使たちをみんなに共有できないなんて。

 バズさせてやりたい。

 


「フィリアおねえちゃんはなにしてたの?」


 フィリアとバカみたいな会話をしていると純粋無垢なティナが話し始める。


「え?そうね。今日は鍛冶屋にいって杖を見てもらっていたわ」

「杖?」

「うん。帰省してる間に杖を使っていなかったからね。整備も含めて見てもらったのよ」

「杖って魔法使う人はみんな持っている物なのか?」

「そうね。だいたいはそうかも。冒険者の人だと魔法の相性がいい剣などを持っていることがあるけどね」

「魔法だけだと持っていた方がいい感じか?」

「発動にかかる魔力が少なくなるし、発動スピードも上がるわ」


 なるほど。ちゃんとした理由があるんだな。

 だとすると、ティナに杖買った方がいいな。

 たしか、回復魔法の先生も杖術をしていたはずだ。

 

「ティナも杖欲しいよね?」

「欲しいぃ。買ってくれるの?」

「うん。どんなものがいいか俺だとわからないからクロエ先生に教えてもらうときに聞いてみよう」

「うんっ」


 俺とティナが話しているとフィリアがおもむろに立ち上がる。


「フィリア?どうした?」

「ちょっとまってて」


 そういうとサナさんと食事処を出ていく。

 

「フィリアおねえちゃんどうしたの?」

「どうしたんだろうな?俺もわからないや」


 ティナも不思議がっているが俺にもさっぱりだ。

 ティナはなんだろうねと楽しみにしているが。

 こうゆうときのフィリアはロクでもない事しか思いつかないからな……


「お待たせ」


 ティナがマジックバックを持って食事処に戻ってきた。


「これティナちゃん持ってみて?」


 そういって手渡されるのはピンクの杖。様々な装飾がされており、言うならば、魔法少女が使う魔法のステッキみたいなものだった。


「杖を振りながら、これを言ってみて。あなたのハートに思いよ届け。キラリーーンピュイ」

「えっと……」


 ほらな。ロクな事じゃない。

 杖を持ってきた時は、ティナのためにいい杖を持ってきたのかと思ったけど。

 結局自分の妄想のために持ってきただけだ。

 それになんの呪文だよそれ。

 この世界にきて、今まで呪文を唱えている人を見たことないから知っているんだぞ。

 魔法を発動させるのに呪文が必要ないことは。

 

 それにティナがすこし戸惑っているだろうが。

 

「フィリアおねえちゃん、キラリーンなに?」

「ティナいいぞ。フィリアのことは気にするな。帝都にいったら杖買ってあげるからね」

「ちょっとソラ、ティナちゃんがまだ言ってないでしょう」

「じゃー、聞くが、今言わせようとしている言葉はなんだ?意図はなに?」

「そんなの可愛いティナちゃんが見たいからに決まっているじゃない」

「またロクでもないことを」

「ソラだってみたいくせに」

「それは……」


 そう言われると少し困る


「えっと。あなたのハートに届け、キラリーンキュイーー」


 杖を話している俺たちに向け、ティナは呪文を演唱する。

 ティナはフィリアの言ったことをあまり聞き取れていなかったのか、すこし文言は違うが。

 シロローブを纏いシロの鳴き声をマネした呪文は思わぬ副産物としてフィリアと俺に突き刺さる。

 

 フィリアは天才だったのかもしれない。

 バカと天才は紙一重。

 これはあながち間違いではないのかもな。


「どう?いえてた?」

「ああ、可愛かったぞ」

「やったー」

 

 無邪気に笑うティナ。


「それはあげるわ」

「いいの?」

「いいのか?」

「いいわ。杖としては使えないものなの。観賞用に作らせたものよ」

「フィリアおねえちゃんありがとっ」


 魔法を使うための杖じゃないんかい。

 ただのフィリアの趣味だと。絶対に無駄遣いだ。

 でも、ティナが喜んでいるのでそれは別にいいか。


「ソラ達は帝都での宿はとっているの?」

「いや、もちろんとってないけど。おすすめでもある?そんなに高級な宿じゃなくていいよ」

「私の屋敷に泊まる?お母様も喜ぶと思うんだけど」

「フィリアの屋敷?帝都にもあるのか?」

「多くの貴族は帝都に屋敷を所有しているわよ。帝都の屋敷だと余っている客室も多いしね。全然気にせず使ってもらっていいわよ」

「それならお世話になりたいが、お母さんは帝都で仕事をしてるのか?」

「そうよ。私たちが幼い時はスレイロンにいたみたいだけど、今では王宮で働いているわ」


 帝都にどんな宿があるかわからないし、フィリアの屋敷に泊らせてもらえるのは助かるな。

 金のことは気にしてないけど、使い過ぎはよくない。

 それにティナの杖も買う予定だからね。

 それには存分に金を使い、いいものにする予定だ。

 所持金は4億ほどで……死の森の魔物があと少しあるくらいか。

 

 それにしても、フィリアのお母さんは王宮で働いているんだな。

 スレイロンで見かけたこともなかったし、俺から聞くのもはばかれたので全く知らなかったな。

 ティナの件もあるのでそこらへんの家族事情にはあまり突っ込みたくはない。

 

「まあ、それならお母さんの了承を得たら泊まろうかな」

「それは大丈夫よ。お母様も愛好家だから」

「それは……」


 フィリアのお母さんも、もふもふ愛好家であるということか。

 フィリアの母、同じ血筋ということですこし不安になるが、そうと決まったわけではない。

 大人の女性だろうしフィリアよりはマシだろう。

 

 帝都への興味と少しの不安を抱え、明日も馬車は進んでいく。

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