第43話 フィリアの心


 テトモコがベットへと入ってきて俺に寄り添う。

 んー。もふもふさらさらだ。

 夜襲のことなど少しの間忘れ、甘えてくるうちの子を甘やかす。

 戦闘で擦れた精神にテトモコパワーが充電されていく。

 幸せだ。


 

 結局、夜襲は俺たちが標的であっていたな。

 あいつらの話では闇ギルドに所属しており、依頼があったので襲撃したか。

 依頼主は闇ギルドの上層部が知っていると。

 それに伯爵家のところには行っていないと言っていたから、この夜襲に伯爵家が関わっていることはないだろう。

 もし、伯爵家が関わっているなら、そこに俺を呼ぶことはないだろうからな。


 アクトスに戻る。確かそんなことを言っていた。

 建物の名前、地名、人名、組織の隠語。

 考えられるのはこんぐらいか?

 簡単にどこかの街の名前だと助かるんだけどな。

 組織でつけた名称だとしたら、おそらくフィリアに聞いてもわからないだろう。

 ルイに手紙を出すか?

 まあ、それは明日フィリアに聞いた後だな。


 あとは何か言っていただろうか。

 どれだけ思い出そうとしても、夜襲に関しては出てこない。

 収納スキルについては少し興味があるな。

 死んだら周りに物が出るってなかなか面白くないか。

 それに、俺の影収納はどうなのだろう。

 同じようなことが起きるなら、この部屋全体が埋まるぞ?

 

 そもそも、収納スキルはどれだけはいるのだろうか。

 俺の影収納は今のところ限界を感じたことがない。

 限界を感じないものの限界はどのように調べていけばいいのかな?

 いや、哲学みたいな話になりそうだからやめておこう。

 

 隣で起きることもなく、すやすやと寝息たてているティナを見ながら、今日は眠りにつく。


 



「ソーラー。フィリアおねえちゃんきたよ」

「あー、おはよう。もう来たのか?」

「きょうはお寝坊さんだよ」


 ぷくぷくとほっぺを膨らませたティナが俺の体の上に乗っている。

 ツンツンっ。


「もう、やめてっ」

 

 つつかれるのから逃げるように、隣のモコに抱き着く。

 わふわふとじゃれているモコと、体を余すことなく撫でまくるティナ。

 俺の日常はいつも、天国にいるような気分が味わえる。


 闇ギルドかなんか知らないけど、俺の天国を荒らすバカどもを依頼主ふくめてつぶさせてもらおう。

 そこに慈悲を加えるつもりは一切ない。

 全員、切り裂いて殺してやる。


「……ソラ?」

「ん?」

「怖い顔してる……」

「ごめんごめん。ちょっと考えごとしてた」

「はいっ。シロちゃんっ」


 ん?

 ティナはシロを抱っこして俺に手渡す。


「お腹にね。もふもふするときもちいいよ?」


 ティナなりの心配なのだろうか。

 俺は心配させるような顔をしていたのか?

 これは、注意しないとな。

 天使の楽園を守るために、ティナを悲しませるわけにはいかない。

 俺は影でうちの子たちを守っていこう。

 俺は影、ティナは太陽。ティナが作り出す影の中でこれからも守っていく。

 ティナには優しい、幸せな物語を描いていってほしい。

 

「ティナおいで」

「ぎゅー」


 ご機嫌なようすで俺に抱き着いてくれるティナ。


 天使だ。


「あなたたち、人が待っているのに、朝から何しているの。急ぎなさいよ」


 扉をあけて、俺たちを見下ろしているフィリアがあきれているようだ。


「なっ?かわいいだろう?」

「ティナちゃんが可愛いのは今に始まったことじゃないでしょ」

「よくわかっているじゃないか」

「ほら、お兄ちゃん。準備しなさい。テトちゃんパーカ着せるよ?」

「うるさい。フィリアにお兄ちゃんとは言われたくない。それに、そんな権限などフィリアはもっていない」

「もー、あなたたちが仲いいのはわかったから、早くして」

「はいはい」

「はぁーい」


 さすがに、待たせているという意識はあるので、素直に指示に従い、いつものローブ姿に着替える。

 ティナもシロローブに着せ替え、準備万端だ。

 テトモコシロ。ブラッシングする時間はないから見ないでくれ。

 ブラシ咥えて、上目づかいは可愛いからうれしいんだけど。ねっ。

 フィリアを見て?ちょっと怒っているだろ?

 あとで、馬車の中でやってあげるから。


 フィリアにも急かされているので、そのまま食事をとらず、馬車へと急ぐ。



「フィリア」

「ん?どうしたの?」

「聞きたいことあるんだけど」


 食事を食べながら、馬車の中で質問をしていく。


「なに?」

「なんか街中で聞いたんだけど、アクトスってなに?」

「アクトス?それなら街の名前だけどどうしたの?」


 おー、街の名前なのか。

 それは助かるな。

 闇ギルドの本拠地か、この依頼に関係するところか。

 どちらかの情報がでてくればいいんだけど。


「そうか。街の名前か。行ったことないんだけどどんな街なの?」

「んー。近くに鉱山があるからそれ関係で有名なところね。鍛冶屋なんかも多いわ」


 俺が聞きたいのはそんなことではないんだけどな。


「へー。鉱山があると領地としていいところだな。どんな領主なんだ?」

「エルドレート公爵家が領主として納めているわ。どんな領主かといわれても、あんまり話したことないわよ。見た目通りで怖いおじ様って感じの人つかな?」

「んー。聞き覚えがないな。じゃー。闇ギルドってのは?」

「いきなり何てこと聞くのよ」

「そんなに危ないところ?」

 

 フィリアが慌てている。

 まあ、闇ギルドっていう名前だし、闇深い場所なのだろう。


「危ないかと言われれば、危ないかも。マフィアや荒くれ者が仕事を受けている場所ね」

「マフィア?」

「もう、何知らないのね。どんなところで生活してたのよ。マフィアはスラム街などを拠点として、どうにもならない人達をまとめている組織ね」

「スラム街ってあるんだな」

「スレイロンみたいな辺境にはないけど、大きな街だったらそう呼ばれているところは多少なりともあるわ」

「どんな人が生活しているの?」

「ん-。単純にお金がない人。事業に失敗して人生をあきらめた人。普通の仕事に就けない人。犯罪者。その子供たちかな」


 俺の想像しているスラム街ではあるようだ。

 まあ、人が生きる社会では必ず、それに当てはまらない者が出るのだろう。

 社会に順応できなければ、表社会では生活できないと。


「マフィアとかつぶさないのか?」

「難しい質問だけど、すべてをつぶすことはないわ。領地経営の勉強をしているからわかったけど、領主がすべての住民を幸せにすることはできないの」


 フィリアは少し悲し気な表情を見せる。

 そうだよな。

 日本でも何不自由なく生活できる環境だと思っていたが、大人になってみると、その社会の暗い部分も見える。

  

 全員を幸せにか。

 理想だろうが、それから零れ落ちる。または自ら捨てていく者がいるだろう。

 フィリアは優しいのだな。

 俺はうちの子たちと知り合いの幸せを願えるが、街の住人全員の幸せを願うことはない。

 願いたくないということではないが、それは俺には無理だ。


「フィリアはそのままでいてくれ」

 

 気づくと口から言葉がでていた。


 貴族の社会で十三年間。

 俺が日本で生活した二十一年間を比べても、フィリアの方が人の社会の汚い部分を多く知っているだろう。

 その中で、今でも清い心で考えることができている。

 俺はただ、そんなフィリアに変わってほしくなかった。


「いきなり何言っているのよ。十歳のソラに言われなくも私は変わらないわ」


 頬を染め、恥ずかしがりながらも俺に文句をいう。

 サナさんは何も言わず、ただ笑みを浮かべ、動揺しているフィリアを優しい目で見守っていた。


「ごめんごめん」

「婚約者の領地でみんな幸せにしてみせるからみてなさい。従魔屋も設置して、モフモフ街作ってみせるからね」

「それは楽しみだ」


 従魔屋ができたらティナを連れて行ってやらないとな。


「あっ、そういえば、エルドレート公爵家のことソラ知っているじゃない」

「いや、知らんが」

「ソラが決闘でボコボコにしたエルク・エルドレートがその家の者よ」


 あ、あの金髪か。

 存在自体を忘れていた。


 それだと話が変わってくる。

 アクトスに戻る。

 この言葉が、依頼失敗報告か連絡するために戻るという意味なら、公爵家がグレーである可能性がある。

 いや、俺の中では真っ黒だが。

 襲撃される理由なんて、ティナのお家関係か俺しかないのだが、エルドレート公爵家には俺を襲撃する理由が存在する。

 でも、さすがに全滅させるには情報がなさすぎる。

 何も知らない人がほとんどだろうし。

 とりあえず、エルク・エルドレートの死は確定した。


「フィリア。ありがとう」

「もう、今日はなんなのよ。モコちゃんと外でも走ってきなさい」


 はいはい。

 外にでもいってきますよー。  

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