第34話 ???


 ヘンネルに馬車を進ませて、五日が経過している。

 昨日は、クントという街というか、村みたいなところに宿泊した。

 この世界にきて初めて見る農村といわれる場所であろう。

 街の中には宿泊施設が一つだけしかなく、冒険者ギルド、商業ギルドの建物が一つの施設に凝縮されていた。

 


 順調に進んでいるので、あと二日で目的地のヘンネルへと到着する予定らしい。

 


「にゃー」

「わふーー」


 ん?人間っぽいのが戦闘している?


「どれぐらいの規模だ?」

「わんわんわんん、わふ」


 一人と魔物が十体以上か。これはまずいかもな。


「フィリア、前方の街道の近くで、戦闘が行われているらしいだが。人間側が不利らしいんだ」

「そうなの?騎士を先に向かわせるわ」


 フィリアはそういうと、騎乗している騎士へと指示を飛ばしている。

 まあ、三人もいけば、なんとかなるだろう。

 今までも、野営中に魔物の襲撃を受けたが、魔物の接近を伝えると、スムーズに騎士が討伐していた。

 

 三人の騎士が、街道を先行する姿を見ていると、すさまじいほどの魔力圧を感じた。

 前方を見ると、黒い半円状のドームが出現していた。


「なんだあれ?」


 うちの子たちも警戒の色を見せている。

 

「フィリアとティナはここにいてくれ。シロ、馬車丸ごと結界を頼む。モコは念のため、フィリアとティナを乗せて待機していてくれ。」


 そう告げると、反論なく、みんながそれぞれ行動をしてくれている。

 そして、テトと俺は戦闘が行われている場所へと走り出す。

 

「これは、どうゆう状況だ?」

「にゃー?」


 街道を進んで見えたのは、黒髪の少年が一人。

 俺とかわらない年齢に見える。

 そして、その前に展開されている黒いドーム状のナニか。

 この少年の魔法か?


 俺とテト、騎士が少年の後方に止まると、黒いドームは霧にまかれ消え去った。


「あ、ごっめーん。びっくりしちゃったかな?」


 少年は振り返り、おどけたように声を上げる。

 少年の顔は色白く、マネキンのようでどこか人間味を感じられない。

 

「あれー?聞こえているのかな?」


 見た目と違い、テンションの高い少年。

 そのギャップに違和感が止まらない。

 

 すさまじい威力の魔法を目にして、騎士の人たちは声を出すことができないらしい。

 俺の出番だな。

 

「無事ならいいんだ。すごい魔力を感じて、緊急事態だと思ってな」

「ほら、大丈夫でしょ?」


 少年はそういうと、小さい腕を振り、ぴょんぴょんと飛んでみせる。


「そうだね。じゃー俺たちは戻るよ」


 そういって、立ち去ろうとすると、少年の大きな声が響き渡る。


「あーーーー、君お仲間じゃん。まだこっちにいる人いたんだね」


 誰のことを言っているんだろう?

 振り返って少年を見ると、ばっちり目が合う。

 んー、俺か?

 この世界に来てからの記憶をたどってみるが、このような色白い人形なような少年を見た覚えがない。

 それに仲間?

 何の話をしているんだ?


「あれ?伝わってないかな?」

「俺のことを言っているのか?」

「そうだよ。君しかいないよね。猫ちゃんは猫ちゃんだし」


 少年はそういうと、腕を組み、頭をさげ、考え始める。

 んーとか、それだと面白くないとか。小声でつぶやいているが、一体何を考えているのだろう。

 考えが纏まったのか、少年が顔を俺に向けてくる。


「じゃー、先輩からの助言をあげるよ」


 本当にこの少年はなにを言っているのか。

 騎士も俺と少年の会話を不思議そうに聞いている。

 テトはさりげなく、俺の肩に乗って状況を見守っているので、危険な相手ではないのであろうが。

 しかし、先輩か……

 もしかして、地球出身なのか?

 ない頭を高速回転させ、思考していると、少年から続きの声が発せられる。


「ここに大切な人がいるなら、影の導きには従わない方がいい」

「なぁっ」


 俺の中で急激に少年への警戒度が跳ね上がる。

 影の導きだと?

 俺にはその言葉に聞き覚えがある。

 大鎌の使用者設定を行ったときに、機械的な声で聞こえた言葉だ。

 

「じゃ、そういうことで。僕はそろそろだがら、君が来るのを楽しみにしているよ」

「ちょ、まて」

 

 俺の声が届く前に、黒髪の少年は地面に沈むように消えていってしまった。


「なに?どこへいった」

「転移の魔法か?」


 近くにいる騎士が慌てて、周囲を見渡しているが。

 俺はただ、少年が消えた地面を見つめることしかできなかった。

 立ちつくしている間にも、馬車が近づいてくる音が聞こえる。


「なにがあったの?少年がいたように見えたけど」


 フィリアにも少年が消えたことが見えていたのか、俺たちに状況を聞いてくる。

 騎士がフィリアとサナさんに状況を説明しているが、わからないことだらけで、説明がたどたどしく聞こえる。


「ソラ。知り合いだったの?」

「……違う」

「話していたんでしょ?」

「何を言っているのかわからなかった」


 フィリアが、俺にも聞いてくるが、これぐらいしか話せることがない。

 少年が言っていることは考えてみてもわからなかった。

 なにかの助言であることはわかるのだが、それがなになのかがわからない。

 ただ一つわかることは、あの少年も影魔法の使い手だということだけだ。

 あの少年が最後に見せた魔法は俺が影入りと呼んでいるものだ。

 何回も目にしたことがあるし、俺自身も何回も行っている。

 見間違えるなんてことは絶対にありえない。


「ソラっ?大丈夫?」


 立ち尽くして、考えこんでいる俺を心配したのか、ティナが声をかけてくる。


「あー、大丈夫だ。不思議な出来事で頭がついてきていないだけだよ」

 

 そのあとも、フィリアと騎士の話し合いは続いていたが、結局わからずじまいで移動をつづけることにした。


 俺は一人で考えたいとフィリアに告げ、モコに乗り草原を進んでいる。

 俺の股の間には、シロを抱いたティナもいるのだが。

 テトももちろん、モコの頭の上だ。

 俺は馬車の後ろをお散歩気分でついていくうちの子たちに囲まれながら、今さっきの出来事について考えている。

 

 影入りできる存在は俺の天敵だ。

 この部分は今も変わってはいない。

 だが、あの少年は仲間だと言っていた。

 影魔法が使える存在を敵ではなく、味方だと決めつけているかのような言葉だ。

 なぜ、そう捉えることができる?

 俺の中で、今のところ影世界は安全な避難場所のようなところだ。

 そこに現れる人を仲間だと捉えることなんて、今のところありえない。

 その部分を考えていても、答えが見つかることがなかった。


 じゃー、次だ。

「ここに大切な人がいるなら、影の導きには従わない方がいい」この言葉について考えるが。

 おそらく、ここというのは表世界と呼んでいるところであろう。

 影魔法が使えるなら、影世界と表世界を区別しているはずだ。

 決して、今いる草原を示した言葉ではないだろう。


 影の導き……

 この言葉の意味は、大鎌を手にしたときから考えているが。

 影魔法を使える者に、神の導きのように、いいことがあらんことを、みたいな言葉だと思っていた。

 ただ、いいことがありますよう、武器に言われただけだと。

 しかし、少年の言葉では、それに従ってはいけないとある。

 従うってなんだ?

 俺は、今、何に従っている?

 大鎌からは最初以来、声が聞こえたことはない。

 俺の中で従っている行動はなにもしていないはず……


 ダメだ。

 わからないことが多すぎる。

 今思えば、少年が影入りした時に俺もしていれば、聞き出すことができたかもしれない。

 フィリアたちのこともあったが、大切なものがかかっているのだ。

 俺の中で大切なものはティナとテトモコシロだ。

 うちの子たちが関わっているなら、影魔法がばれるなんて些細なこと。

 まあ、今思いついても、後の祭りなことは変わりないのだが。


 それに、去り際に、僕はもうそろそろだとも言っていた。

 なにがそろそろなんだ……。


 くそが。

 

 この世界は俺には優しくないのか?

 神様も、あの少年も、何かを与えるだけ与えて、詳しいことは一切伝えてくれない。

 

 なんなんだよ。

 俺はうちの子と楽しく生活したいだけなのに……。

 考えないといけないことが増えてしまったじゃないか。



 思考にふけっていると、あたりが暗闇につつまれており、今日の移動は終わってしまった。




 筆者より。

 今日は祝日のため、もう一話19:00に投稿します。

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 では休日の方、お仕事の方も良い一日を。

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