第10話 辺境都市スレイロン

 シロを旅のおともに入れた俺たちは死の森抜け、街道を歩いていた。


 歩いているのは、俺とモコだけだけど。


「にゃにゃにゃーー」

「きゅーきゅー」

「わっふ、わんわん」

「たのしいねー」


 テトはモコの頭の上にお座り、ティナはシロを抱っこし、テトの上に乗っていた。

 そんな三匹+一人は、死の森を抜けて、散歩気分なのか歌いながら進んでいる。


 天使とその使い。

 やはりここは天国なのだろう。

 黒いモフモフと、白いモフモフに囲まれた、愛くるしい少女。

 天使とその使いが、可愛いらしい、弾むような声で音を奏で、行進している。


「……ソラどうしたの?なんかあった?」


 歩くことをやめ、うちの子たちを見つめていると、天使がささやいた。


「いや、ごめん、なにもない。ただ幸せをかみしめていただけだ。」

「??」

「わふ」


 モコよ。放っておいても大丈夫とはなんだ。

 ティナが来た時ぐらいからモコのお兄ちゃん化が進んでいる気がする。

 俺の扱いが雑になっているが俺は知っているんだぞ。

 いつもテトシロティナが寝た後、すぐ俺に甘えてくるモコのことを。


 そんなくだらないことを考えながら、街道を進んでいると、目の前に石でできた城壁が見えてきた。


「これが帝国の街か、ずいぶんと大きな城壁だな」

「えっとね……帝国はわからないけど、アトラス王国のダンジョンが近くにある町や、魔物が強いところの近くの町は大きいらしいよ」

「へぇー、本にのっていたのか?」

「ママがいってた……」

「……そうか、物知りのママだったんだな」


 俺はなんとなくティナを撫でる。


「そこの者止まれ」


 門が開いている場所に向かっていると、鎧を纏い帯剣している騎士風な集団に声をかけられた。


「子供か。その魔物はお前たちの従魔か?」

「そうだよ」

「冒険者カードを見せてもらおう」

「もってないけど、カードがないと街にはいれない?」

「そうではないが、魔物を入れるには、従魔としての証が必要だ」


 くそめんどくさいな。

 でも言っていることは理解ができる。


「親に家を追放させられて、従魔と一緒にここまできたから、他の街にも行ってないし、冒険者ギルドにもいけてないんだ」


 考えていた街に入る時の設定を使う。

 小説あるあるだろう。家を追放からの成り上がり設定。


「追放ってことは貴族の子供か、面倒な。お金はあるか?」

「ない。けど魔物を狩っているから売れればあるよ?」

「それでは、ギルドまで送ろう。そこで従魔登録してもらえ、誰かついていってくれ」


 騎士の隊長風の人が部下に尋ねる。


「オレが連れていってやる。坊主と嬢ちゃんたちもついてこい」

「お前が仕事をするとは珍しいな。評価しておいてやろう」


 ニヤニヤとバカにしたような顔で隊長さんが、髪がボサボサで鎧をきていない人に応える。

 うざい上司だな。

 まあ、鎧を着てない人も反応してないし、いつものことなんだろう。

 茶髪でボサボサだが、顔は驚くほどイケメンだ。

 どこかの王子様だと言われると納得がいくほどだ。


「お前たちはやくついてこい、おいてくぞ?」

「はいはーい、いこう」


 おいてくってなんだよ。ついていかなかったら、あんたも困るだろ。

 俺たちは、ずかずかと歩いていく騎士についていき、門をくぐる。


 おおー、ヨーロッパの旅行本でみたような景色だ。

 石造りの道で家々がレンガのようなもので作れている。

 赤、黄、青の色とりどりの屋根が特徴てきだ。


「遅い、あちこち見てる暇があったらはやくこい」


 もう少し、異世界初の街の感動にひたらせてくれよ。

 騎士は門から続く、大通りを歩いていく。

 周りからの視線が痛い、テトモコシロが珍しいのか。すごく見られている。いや、ティナも見られているな。

 見るな。うちの子たちが嫌がっているだろう。

 可愛いのはわかるが、かわいい子に迷惑をかけてはダメと世界の常識ではないのか?


「みんな、耐えてくれよ。街にいたら住人も慣れてくるだろうからな。こんなに見られるのもはじめだけだ」


 騎士が大通りから小道にはいったので、急いで俺たちはついていく。

 狭い道だな、ギルドに向かうのにこんな道を通るのか。

 そんな疑問を抱いていると、険しい顔をした騎士に話しかけられた。


「お前ら、なんのためにスレイロンにきた?」

「??さっきも言ったが、家を追放されて、ここに来ただけだ」

「そんな話信じちゃいねーよ。どこの貴族がお前のような化け物を追放すんだよ、嬢ちゃんはともかく、桁違いな魔力をもった子供を手放す貴族なんていねぇー、そして従魔の強さも異常だ」

「貴族なんて一言もいってないだろう」

「坊主の服も質のいいものだが、嬢ちゃんの服は庶民が買える代物じゃない」


 なるほどね、盲点だった。

 別に、ティナが貴族であったことを隠したいわけではないが、言いふらしたいわけでもない。

 モンティール公爵家にばれなければいいだけだ。 

 今ティナが着ている服は俺が貸している服ではなく、出会った時のワンピースだ。

 ティナが街に行くならおしゃれをしたいっていうから、全力で肯定した。

 しかも、この騎士は俺の魔力量に気づいている。

 ドーラが俺の魔力量は人間の中では多いほうだと言っていたが。

 慌てている騎士の感じからするとそんな話でおさまっている量ではないのかもしれない。


「俺が言ったことは事実だ、ただ俺の魔力量は家にはばれていない、それだけだ。従魔は家を出てから自分で見つけた。この街に来たのも家から離れたかっただけ。それ以上でもそれ以下でもない」

「……国はどこだ?」

「それは言えない」

「オレはお前たちが間者だと疑っている。国が言えないならそれなりの対応をさせてもらうぞ」


 男はそう言い放ち、剣を引き抜く。

 それと同時に、テトは俺の前に移動し、威嚇する。

 モコは、ティナとシロをつれ、後方へと下がった。


「テト、ストップ」

 

 俺は両手でテトを抱き上げ、男に目を向ける。

 めんどくさいな。

 ドーラの話では今人間の国で戦争しているところはないだろうってことだったんだがな。

 表では戦争してないが、裏ではバチバチってか、本当に人間にはあきれるわ。


「この国がどういう状況なのかは知らんが、俺たちには関係ないことだ。あまりうちの子たちに敵意を向けるな。殺すぞ?」


 俺は抑えている魔力を男にぶつけるように解き放つ。


「ぐぅ」

 

 男は魔力に押さえつけられるかのようにうなだれる

 俺は再度魔力を抑え、テトを一撫でる。


「まあ、俺の言うことを信じろなんていわないよ。国を言えないのはうちのティナが殺されかけたからだ。逃げているので、ティナの存在を知られると困る。ただそれだけの理由だ。これで納得してくれないか?そして今言ったことはお前の中だけで留めてほしい」


 男は苦悶の表情を見せているが、考えが決まったのか俺の目を見つめる。


「わかった。全部が本当とは思えないが、嬢ちゃんを守りたいってことは伝わった。間者ではなさそうだしな。まあ、間者でもオレじゃお前たちをどうしようもできねえ」

「それはよかったよ。俺はただうちの子たちと旅がしたいだけなんだ」

「それは時間とって悪かったな、ギルドにつれていくよ」

「ありがと、名前はなんていうんだ?あと所属。門を守る騎士ってだけじゃないんだろ?」

「本当に間者じゃないんだろうな、てめぇー。それっぽいこと聞くんじゃねーよ。オレはルイ・コドールだ、所属はヴァロン帝国零番隊だ。公にはない隊だ。これでお前たちもオレの秘密を知ったんだから言うんじゃねーぞ」


 面白い男だな。

 風貌は騎士にそぐわず、言動も騎士とは思えない。

 だが、国を想う気持ちはあり、不審な俺たちを怪しみ行動に移す。

 ティナのことをしってしまったから、自分の秘密を言い、相殺しようとする。

 別に嘘を言えばいいだけだろうに。

 

「ねぇ、なんかすごかったねー」

「きゅうきゅう」


 ティナとシロがのんきに話しているが、俺たち国の戦争に巻き込まれかけたんだぞ?

 人間の街にきて最初のイベントが大きすぎるよ。

 もっとのんびりと異世界を満喫させてほしいんだけどな。

 そんなことを思いながら、先を行くルイの後を追って、ギルドを目指す。

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