ドヴォルザーク帝国・西エリア『ヴァーミリオン』

 エドゥの転移であっと言う間に『ドヴォルザーク帝国』に辿り着いた。

 久しぶりの帝国だ。


 街中に出て、さっそく多くの人々が行き交っていた。さすが活気はあるな。



「へえ、なんだか戦のニオイがするな」

「そうですね、ラスティ様。これは聖戦のニオイです」



 いよいよ始まるって感じの雰囲気だ。

 歩いているのはどいつもこいつも冒険者。殺気立っているし、なにかを探しているようにも見えた。



「なんだかソワソワしているな」

「恐らく、守護者の討伐クエストで大変なのでしょう」



 忘れていたが、そういえば聖戦には『討伐クエスト』があるんだったな。



「それってもう出来るんだ?」

「はい。討伐クエストに関しましては後三日を待たずとも参加可能です。神器集めが三日後ということです」


 そういうことかよ。だから、こんなに人がいるんだな。

 そんな聖戦の様子を伺いながらも、俺とエドゥは材料を求めて街を歩く。


 露店街を回っていると、露店商を営んでいるオジさん商人から声を掛けられた。



「そこのお兄ちゃん。なにかお探しかね?」

「俺たちは木材と石材を探している。どこで売っているんだ?」

「建築用の材料だね。それなら露店街ではなく、西エリアにある『ヴァーミリオン』を頼るといい。そこに若手の大工がいるよ」


 若手の大工ねぇ。

 けど、その人に頼めば材料を売ってもらえそうだ。


 オジさん商人に礼を良い、俺たちは西側へ向かった。



 ――って、まて!



 ヴァーミリオン……?

 それはお店の名前なのか、それとも人の名前なのか?


 その答えは直ぐに判明した。


 西側に到着すると、建築中の大工がいた。汗を流して忙しそうに働いている。あの男が大工らしい。


「すみませーん!」

「……ん? なんだ、俺たちは忙し――」


 大工はこちらに振り向き、俺の顔を見るなり固まった。

 俺も固まった。



 は……?



 おい、ウソだろ……。



「ラスティ様、この方達……まさか」



 エドゥすら驚いていた。

 いろんな意味で驚いた。なんで、どうしてコイツ等がここにいるんだよ!!



「おい、兄貴たち!!」



「よう、ラスティ! 久しぶりだな!」

「おい、マジかよ。ラスティか」



 頭に鉢巻を巻き、ニッカポッカに身を包む二人の姿があった。なにこれ……夢?

 あぁ……『ヴァーミリオン』ってそういうことかよ。ようやく俺は察した。


「帝国の元第一、第二皇子が労働に励んでいるだと!? なにしてるんだよ、兄貴達!


「驚いただろう。ラスティ!」

「汗を流すって良いな」


 ワーグナーとブラームスが得意気に笑う。

 おいおい、どうしちまったんだ兄貴たち。あんないい加減な性格だったのに、ここまで人は変われるものなのか。


 驚きのあまり、俺は呆然となった。

 するとワーグナーが事情を説明しはじめた。


「俺とブラームスは悪事を働き過ぎた。せめてもの罪滅ぼしがしたくてな……考え抜いた結果がこれだ。今は帝国の為に家を建てている」


「素晴らしいよ、兄貴。まさか大工になっているとは思いもしなかったけど」


「もちろん、聖戦の話も聞いている。けどな、そんなモンに興味はねぇ。誰が皇帝になろうと文句はない」


 そこまで言うか!

 もう金にも権力にも興味はないってことか。貴族であることも捨て、こうして平民となって労働に従事するとは……いや、これは褒められるべきことだ。更生したってことだし。


「分かったよ、兄貴たちの思いを尊重するよ」

「ありがとう、ラスティ。――で、エドゥを連れてどうした?」

「ああ、そうだった。木材と石材が欲しいんだ。売ってくれ」

「なるほど、島国ラルゴで使うんだな」

「そんなところだ」

「しかしどうして? もうかなり発展しているはずじゃ」


 俺はブラックエンペラードラゴンに襲われたことを兄貴たちに説明した。



「「な!?」」



 そりゃ驚くよねぇ。

 事情を知った二人は、木材と石材を安く売ってくれると約束してくれた。ありがたい。


「本当に良いのか?」

「構わないよ。お前には迷惑を掛けたからな」


 ブラームスがすまなそうにそう言った。嘘だろ……ブラームスの兄貴が謝るなんて! 信じられない光景だ。


 でも、こうして変わってくれたのなら俺は嬉しい。

 島国ラルゴでの生活も意味があったってことだ。



「ありがとう、兄貴たち」



 こうして俺とエドゥは、大量の木材と石材を入手した――!

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