海底ダンジョンへ進入

「やあ、ラスティ」

「お前は、テオドール。なぜ、ここに」

「君たちが海底ダンジョンへ向かうって聞いてね」


「まて。なんで知っているんだ? まさか、盗み聞きしていたんじゃ」


 俺は、ジトッとテオドールを見る。

 彼は慌てる様子もなく冷静に笑った。


「まさか。それはいいとして、私にも手伝わせてくれよ」

「テオドールが率先して手を挙げるなんて珍しいな」

「おいおい、私だってラスティを友と思っているんだよ。そんな友が困っていると聞いたら、黙っていられんだろう」


 テオドールって、こんなキャラだっけ。

 もうちょっとお茶らけていたような気もするけど、手伝ってくれるのなら助かる。

 断る理由もない。

 俺は同意した。

 しかし、ルドミラが怪しんでいた。


「どういう風の吹き回しですか」

「ルドミラ、私を疑うのかい?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」

「ならいいじゃないか。なあ、スコル様もそう思うだろう?」


 いきなり振られて、スコルは困惑する。


「は、はい。みんなで行く方が安全かと」


 そうだな、この先には殺人ギルドがいるらしいからな。用心するに越したことはない。

 教えられたポイントへ向かった。


 いつもの砂浜とは逆方向――船着き場の方だな。そこへ向かうと、こちらに手を振る男性がいた。



「ラスティ様、お待ちしておりました!」

「君が海底ダンジョンへの案内人?」

「はい、その通りです。僕はアルゼンテと申します。トレニアさんの命令でここを管理しています」


 つまり借りは、トレニアさんの部下ってことか。


「で、どうやって行けばいい?」

「僕は海底ダンジョンへの座標を持っているので、転移できるんです」


 つまり、ワープポータルが開けるらしい。


「凄いな、君」

「少し前まではドヴォルザーク帝国の世界ギルドに所属していたのもので」


 なるほど、それで。

 ワープポータルを開けるギルド職員は、結構珍しい。それに重宝されるとも聞く。よく、このラルゴに来てくれたものだ。

 きっと、トレニアさん狙いだろうけどね。

 そこは気にせず、俺はワープポータルへ入った。

 俺に続くスコルやルドミラ、そしてテオドール。



 * * *



 海底ダンジョンへ進入した。


 まるで古代神殿がそっくりそのまま海底に沈んだような、そんな神秘的な世界。そこら中が青くて深海にいるようだった。


 モンスターも、水属性系か。


「不思議です。息ができますよ……?」


 スコルは呆然となっていた。

 確かに、海中なのに息が出来る。

 疑問を感じているとテオドールが説明してくれた。


「魔力を感じるよ。きっと大賢者の仕業だろう」


 それってエドゥのことじゃ……。まさかな。


「では、私が前衛を務めさせていただきます」


 ルドミラが前に立つ。

 そうだな、今は彼女に前を任せよう。

 俺とスコルは中衛。

 後衛にテオドールでいいだろう。


「スコル、支援を頼むよ」

「はい、お任せください!」


 スコルはやる気満々だ。良い返事だ。


「今日の私は錬金術師としてやらせてもらうよ。と、言っても本業なんだけどね」

「そうだったな。テオドールって錬金術師なんだよな」

「そうさ。でも、私は貪欲でね。鍛冶屋もやりたかったし、テイマーもしたかった。だから、トリプルジョブを持つ。それと嫁も三人だ」


 そういえば、そうだったな。

 テオドールは特殊なジョブを持ち、嫁も……む?


 まてまて。


 今の聞き間違えじゃないよな!?



「おい、テオドール」

「なんだい、ラスティ」

「今、嫁が三人とか言わなかった!?」

「そうだが」

「増えてるじゃねえか!!」

「言ってなかったかい?」

「ねーよ!」

「実は、この島国ラルゴに定住してから嫁が増えてね……」


 増やすな!

 てか、嫁って三人もいらんだろ!

 前に聞いたときは二人だったはずだけどなぁ……。


「俺たちが不在の間になにしてんだか」

「仕方ないだろう、女性の方が寄ってきてしまうんだから!」


 なんか知らんが、一発ブン殴りてぇな。

 けど俺は怒りを抑えた。

 テオドールは、神器によって何百年と生きている人間だ。そんな彼に、嫁の二人や三人いてもおかしくはないのだ。


 ちなみに、スコルもルドミラもちょっと引いていた。もちろん、テオドールに対して。


「言っておきますが、私はテオドールに対し、そのような感情を持ち合わせたことは一度もありませんので」


 釘を刺すルドミラさん。

 ちょっと怒ってる!?


「分かっている。この私が唯一、告って振られた相手さ。もう諦めてる」


 マジか!!

 そうだったのかよ。

 って、まあ百年以上生きている間に……そういうこともあるよな。もともと、ルドミラ、エドゥ、テオドールの三人の仲間で世界中を練り歩いていたみたいだし。


「今の私は、ラスティくんに忠誠を誓った身ですので」


 俺に抱きついてくるルドミラ。

 顔が赤いぞ……ちょっと無理してるだろ。

 スコルも膨れてくっついてきた。


「ルドミラさん! ラスティさんにベタベタしないでくださいっ」

「お許しを、スコル様。恋愛に関しては譲れませんので!」

「そ、そんな……でも負けません!」


 二人とも、そんなぎゅうぎゅうと引っ張らないでくれよぅ。


「ラスティ、君は幸せ者だな」


 テオドールは、清々しいほどの笑みで俺をからかってきた。

 まったく……なんだよ、その表情かおは。

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