多勢の王と虚無の騎士

 ヤツの剣技は聖騎士に匹敵する。

 これが“剣聖”の力か。


 俺のゲイルチュールを見事に受けきり、裁きやがる。


 つるはし形状のゲイルチュールと剣では、かなりやりにくいのが普通だ。だが、ラファエルは余裕の表情で受けきり、華麗に距離を詰めてきた。



「――――ッ!」

「どうした、ラスティ。僕の剣技がそんなに以外だったかな」


「ああ、少し驚いたよ。これほど強いヤツは久しぶりだからな」



 今まで出会った神聖王国ガブリエルの幹部・ヤスツナやフェルナンデス、オッフェンバックもそれなりに強かった。


 多少、苦戦を強いられたこともあったが、コイツは別次元の強さを感じる。最強ではないが、限りなく最強に近い男。


 剣だけなら俺よりも強いかもしれない。


 けれど、その刃には信念がない。コイツの剣は虚無だ。空っぽだ。


 守りたいとか勝ちたいだとか、そういう気持ちが一切感じ取れない。



 そんな全力でもないヤツが俺を倒せるはずなどない。



 俺はみんなを、国を守りたい。

 守るべきものを背負ってここまで来ている。だから――!



 ゲイルチュールに聖属性が付与され――『シグチュール』に変化した。こっちも剣で戦う。



「ラスティさん、これで良かったんですよね!」

「ああ、スコル。俺は一人で戦っているわけじゃない。みんなと一緒に戦っているんだ。俺にはみんなの力が必要なんだ……!」



 地面を強く踏み込んで、俺はスピードを上げた。

 風のように嵐のように全力疾走して、ラファエルの懐に入った。



「ぐッ!! ラスティお前……その武器は剣にも形状変化できるのか」

「言っただろう。俺ひとりの戦いではないと!」



 一撃、一撃を確実に与えていく。

 ヤツの剣はその度に震え、自信が喪失していくように脆弱になっていく。



「騎士でもないお前如きに……なぜ、これほどの力が」

「そうさ、俺は騎士ではない。だけど、幼少から聖騎士であるアルフレッドから全てを学んだ。生きる術をな――!!」


「アルフレッド……? まさか、ドヴォルザーク帝国の聖騎士アルフレッド・スナイダーか。最近は執事をしていたという」


「知ってるのか、お前」


「さあね。だけど、これで納得した。お前は剣の道を究めていれば聖騎士すらも超える存在になっていただろうに。惜しいな」


「生憎、俺はそっちの趣味はないんでね。元第三皇子だし」

「それもそうか!」



 ガン、ガン、ガンと刃と刃が衝突し、鈍い音が響く。

 ラファエルは途中でバックステップして後退していった。どういうつもりだ?



「なんだ、諦めたのか」

「……いや、この戦いをここで終わらせるのはもったいないと感じたなんだ」

「なに?」

「魔剣・クリントヴォルトの“真の解放”をしてもいいが、それでは圧倒的すぎてな」


 剣を鞘に納めるラファエルは、爽やかに笑う。コイツ……。


「逃げる気か!」

「おいおい。君の命が助かったんだぞ。僕を怒らせない方がいいぞ」


「ハッタリだろ。分が悪くなって逃げたくなったんだろ」

「煽るなよ、ラスティ。ここで真の解放を使えば、全てが吹き飛ぶ。それほどの魔剣なんだ」


 背を向けるラファエルは、ゆっくりと去っていく。……マジで行きやがった。


 魔剣のことについては本当かどうか分からない。だけど、魔剣というくらいだから、なにかしらの能力はあるはずだ。


 ……まあいい、どのみちヤツの向かった方向へ行けば、ニールセンに辿り着くはずだ。


「お疲れなのだ、兄上! あのラファエルという剣聖、凄まじい剣技だったな」

「ああ、ハヴァマール。ありがとう。そうだな、ヤツは只者ではなかったよ。けど、あまりにも欲求を感じられなくて……」

「だろうな。アヤツは孤高な存在。強い『虚無』を感じたなのだ」


 なにか訳ありなのか……。

 それとも、元からああいうヤツなのか。

 なんにせよ、ラファエルとはもう一度戦うことになりそうだな。


「ラスティ様、お怪我はありませんか」

「ありがとう、ストレルカ。大丈夫だよ」


 ストレルカが俺の顔を綺麗なハンカチで拭いてくれた。

 すると、少し離れた場所で硬直していたシベリウスが叫んだ。



「うそだろおおおおおおお! ラスティ、お前こんな強かったのかよ!!」

「……シベリウス、お前いたのか」


「いたよ!! ついてきたよ!! 俺も戦いたくて……。それより、なんだよ……あのつるはしとか剣とか!! 意味わかんねえ」



 そうだな、一応説明しておくか。

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