帝国と神聖王国の取引

 偽アルフレッドは、足に魔力を込めているようで水中なのに加速してきた。ストレルカによれば、あれは水属性魔法の『ジェットストリーム』という技らしい。そうか、魔法を利用して!



[ジェットストリーム]

[補助スキル]

[効果]

 ①水属性をあらゆる部位に付与する。 ②水中で加速を得て高速移動が可能になる。 ③体力の自然回復速度を超アップする。



 なんとストレルカも同様のスキルを持っているらしく、その詳細が判明した。さすが、海に愛されている乙女だな。


 俺は、スコルを守りつつ武器・ゲイルチュールを構えた。水中へ潜り、接近してくる偽アルフレッドと対峙たいじ。こんな場所で“つるはし”を振り回すことになろうとはな。というか、水中戦もこれが初めてだ。上手くいくかな。


 強く振りかぶり、俺は『風属性魔法』を放つ!



「サンダーブレイク!!」



 稲妻が水中を駆け巡っていく。

 超強力な雷の渦が、瞬く間に偽アルフレッドへ。これで、ヤツはビリビリになっておしまいだ。


 しかし、ヤツは剣を抜いて防御の構えをした。――なッ、なんだあの“宝石剣”は! 無駄に豪華な装飾だな。つまり、宝剣か?


 どうやら、防御系のスキルのようだが……?



「もがが、もがががが!!」(←水中で技名を言えなかった)



 なんと、偽アルフレッドは水を飲んでしまったらしく、おぼれていた。アホだ、あいつ!!


 これで俺のサンダーブレイクが命中!


 ドォンと地響きのような音がして、確かに激突した。偽アルフレッドは、その他の聖騎士を巻き込んで壁に衝突。大穴を開けてレオポルド騎士団の外へ投げ出されていった。


 次第に、タイダルウェーブの効力も切れて洪水が収まった。……ふぅ、これでやっと地に足をつけられるな。


 スコルをお姫様抱っこして着地。


「無事か、スコル」

「ラスティさん、はいっ!」


 嬉しそうに抱きついてくるスコルは、頭をスリスリしてきた。うわ、可愛い。


「ず、ずるいですよ、スコルさん! わたくしだって、ラスティ様にスリスリしたいですっ」


 と、言ってストレルカもスリスリしてくるしっ。そんな場合でもないぞ。騎士団の外には、まだ敵がいるだろうし。


「あの大穴の向こうへ行こう。偽アルフレッドは、まだ生きているだろうし」

「でも、ラスティさんは、あの方をどうするんですか?」



 ――ヤツは偽物だ。

 容姿とかこそ似ているけど、性格はまるで違う。俺を育ててくれたアルフレッドは、あんな冷徹じゃないし、攻撃してくるような人でもない。


 そうだ、俺の敬愛するアルフレッドは死んだ。


 だから、こそ余計にあの偽アルフレッドが許せなかった。偽物がアルフレッドの名を語るなと。


「俺はアイツを止める。ニールセンのことも聞きたいし」


 スコルを立たせようとするが、拒絶された。……えぇ。



「やだ、離れたくないです。このままがいいです」

「スコルをお姫様抱っこしながら戦わなくちゃだぞ」

「ダメです。これ以上は、ラスティさんが辛いだけです」


「辛い?」


「だって、そうでしょう。アルフレッドさんを倒すようなものですよ。そんなの悲しすぎます」

「いや、だから、あれは偽物で……」



 偽物であるのは確かだ。

 でも、ちょっとだけ気になる点があった。

 あの偽アルフレッドが俺を拾ったというのなら、それには理由があるはずだ。そうだ、俺はまだその理由を知らない。



「分かった。倒すのは止める。でも、情報は引き出す。だから、スコル……降りてもらっていい?」

「はい、それならいいです。でも、降りるのは嫌です」


「……だめなの?」


「だって、この距離ならラスティさんのカッコいい顔がよく見えますから」

「――っ!」


 突然そんなことを言われて、俺はドキドキした。やば……今、顔が赤い。そんな状況をストレルカは膨れて見ていたけど。


「し、仕方ないな。ストレルカは、すまんけど理解してくれ」

「うぅ……今度、わたくしもお姫様抱っこしてくださいね!?」

「君もか! 了解した。約束するよ」


 ストレルカは納得してくれた。理解があって助かる。



 * * *



 レオポルド騎士団の外には、気絶する聖騎士の残骸ざんがい。それと、偽アルフレッド。彼だけは立ち尽くしていた。さすが、騎士団長か。



「ラスティ、先ほどは水中でヘマをした。だが、今は違う」

「まて、偽アルフレッド」

「偽言うな! ……仕方ない、私のことは『ルーシャス』と呼ぶがいい」


「ルーシャス? それがお前の本当の名前なのか」

「そんなことは大した問題ではない。それより帝国は、神聖王国ガブリエルと取引をするそうだ」


 獣人ドムが言っていた情報か。

 そういえば、ポケットに閉まったままだったな。本当に取引するんだな。



「それで、どんな取引をするって?」

「支配王・ニールセンはこう言った。衰弱しきったドヴォルザーク帝国に戦争を仕掛けない代わりに、王位継承権のある自分を皇帝にしろとな」


「――なッ! なんだって!」


 そんなことになったら、ドヴォルザーク帝国は強大な力を得て再び脅威になる可能性が。まさか、魔王アントニンが言っていたことはコレなのか。

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