神聖王国ガブリエルの使者

 万能つるはしである『ゲイルチュール』を召喚。武器を手にしたまま、俺は男達の前へ出た。


 奴隷商人がひとり。いかつい護衛が三人か。残りの女性たち五人が奴隷……というわけか。


 奴隷たちは手を鎖で縛られ、繋がれていた。服なんかボロボロじゃないか。酷い扱いを受けていたのだろうな。



「お前たち、なんの用があってこの島に上陸した?」

「おぉ、貴方がこの島の主でしょうか?」


 やたら豪華な服装をしている中年が一歩前へ出る。こいつが奴隷商人で間違いない。


「そうだけど、奴隷を連れて来るなんて穏やかじゃないな」

「ああ、この女共ですか。これはこの島の主に対する貢物みつぎものですよ」


「貢物だと?」


「ええ、取引するにあたり必要なもの。この奴隷共をどうか好きなようにお使いください」



 なるほど、奴隷を交渉の材料にするつもりか。非道極まりない。


 そもそも僕は奴隷制度に反対だ。

 いずれは国になるであろう、この島では絶対にさせない。人間ひとは自由であるべきなんだ。


 だから。



「奴隷は解放する。お前たちは帰れ」

「まあまあ、落ち着いて下さい。島の主殿。我々は連合国ニールセンより独立した神聖王国『ガブリエル』という国からやってきた王の使いでもあるのです」


「使い? つまり使者か」

「ええ、その通り。なので、もし我々を追い返すのであれば、ガブリエルとの関係が悪化する恐れがありますよ」


 なるほど、どうやら世間的に見ればこの『島』はもう『国』として認められつつあるらしいな。そもそも、魔王を倒した噂も広まっていた。


 あの強大すぎる帝国と敵対し、黙らせた島国だと。


 だけど、こちらとしては正式な国とはなっていない。まだ開国には至っていないんだぞ。人口だってまだ十人も超えていない。


 となると、ガブリエルと敵対関係になるのは――まずい。


 向こうの戦力も分からないしな。

 果たして今の防衛力で島を守れるかどうか。もちろん、かなりレベルアップはしているけど、それでも不安は残る。


 ガブリエルが攻め込んで来たとしても、まず島国に攻めてくるとなると船を使わなきゃならないし、移動にも時間が掛かる。だから、しばらくは時間を稼げるはずだが……なんだろうな、何か引っ掛かる。


 だけど、まあいい。

 こっちには多くの仲間がいるし、いざとなれば俺が動きまくるさ。



「悪いが取引はしない。ただし、奴隷は置いていってもらうぞ」

「それは都合が良すぎます。残念ですが、奴隷共は他の国へ売り飛ばすしかないでしょうなあ」


 奴隷商人は、いやらしい手つきで女の子に触れながら笑う。俺たちの目の前で……そんな堂々と。


「貴様……」


「野菜や果物に鮮度があるように、奴隷にもあるのですよ。新鮮なうちに貴族などに売らないと、奴隷も腐ってしまう」


 周囲の護衛も賛同し、高笑いした。



「ハハッ! さすが、フーガさんだ!」「あぁ。奴隷は売ってなんぼ。こんな美人でもったいねえけど、金にはなる」「その金でもっと良い女を買えばいいさ!」



 と、下衆な発言。

 あーあ……エドゥが完全にブチぎれた。もう知らないぞ。


 気づけば、あちらこちらに大量の魔法陣が展開していた。エドゥのヤツ、島を壊す気か!? ええい、仕方ないな。


「テオドール、エドゥを頼む」

「ああ、このままでは無事では済まないだろう。エドゥ、止めるんだ」


 テオドールがエドゥの怒りを静めようとするが――だめだ、全然収まらない。むしろ悪化。暴走モード突入。やっぱり、俺が動くしかないのか。


 このままではまずい。


 今度は俺がエドゥの手を握った。



「……ラ、ラスティ様っ。ななななんですか」

「落ち着けって」

「…………はい」


 落ち着いちゃったよ。

 俺がエドゥの手を握ったら。


 テオドールは「どうしてだよぉぉぉ」と、叫びながらショックで落ち込んでいるけどな。


 大量の魔法陣は消えた。

 危うく無詠唱で大魔法が発射されるところだった。危ない危ない。


「な、なんだったんだ……? あのチビっ子がやったのか?」


 フーガという奴隷商人とその護衛は、周囲をキョロキョロ見渡し動揺していた。さて、そろそろ追い出すか。


「帰ってもらう」

「脅かしやがって! まあいい、それより、そこのチビガキ女は魔力を持っているようだな。売り飛ばせば金になる」



 邪悪な笑みでエドゥの肩に触れるフーガ。



 はい、殺す。



 ゲイルチュールを問答無用でフーガの顔面に叩きつけた。



「ぶふぉおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」



 フーガの体が吹き飛び、護衛にも命中。巻き込んで海へ転がっていった。浅瀬を通り越し、深い場所へ落ちて溺れていた。



「無断で女の子の肩に触れてんじゃねぇよ」



 しかも、汚らわしい手でベタベタと。とりあえず、アホ共は吹き飛ばした。これで奴隷――いや、女性たちは解放。自由だ。


 振り向いてエドゥの無事を確認する。



「ラ、ラスティ様……ありがとう。とってもカッコ良かったですっ」



 いつもの淡々とした口調ではなく、本来・・のキャピキャピした感じで感謝を口にするエドゥ。こっちが本当なんだよな。

 普段は猫被ってばかりだけど、本性の方が可愛いと思うけどな。でも、いいんだけどね。



「エドゥが無事で良かった。それとテオドールも」

「わ、私は……うぅ」


 まだエドゥのことでショックを受けているのかいっ。

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