出航! 共和国とエルフの国へ向かえ

 船内からストレルカがひょこっと現れ、出迎えてくれた。


「ようこそ、ラスティ様。皆様。いよいよ出航となりますが、準備はよろしいでしょうか」


「ああ、こちらは問題ない。ただ……」

「ただ?」


「この赤髪の女性なんだが、ブレアというんだけど」

「え、ええ……存じております。昨日、視界に入っておりましたもの。ですけれど、彼女はグラズノフ共和国の姫君ではありませんか。なぜ、同行を許しておられるのです」


「色々あったんだ。色々な」


 一応、ブレアは国の為に動いているのだと説明すると、ストレルカは納得してくれた。


「一応、仮想敵国なんですけどね。分かりました。ラスティ様の頼みとあらば関係ありません。それに、帝国と共和国は不仲とはいえ貿易は盛んです。商船であるこの船なら、余裕で入港できましょう」


「おぉ! さすがストレルカ。任せたぞ」

「は、はい……!」



 あっさり承諾してくれるストレルカ。良かったぁ、これでブレアを送ってやれる。


 そんなわけで、まずは『グラズノフ共和国』へ寄っていく事にした。俺の島から北の方角『ルサルカ大陸』へ入るようだ。どうやら、ここから半日もあれば大陸へ入れるようだな。そう思うと結構、距離があったんだな。


 ただ、エルフの国『ボロディン』は『オラトリオ大陸』という更に東の位置。ちょっと寄り道だけど、仕方ない。ブレアを共和国へ返さないと大事にもなってしまうだろうし、そういう意味でもこの船旅は意義がある。



 錨を上げて渡橋を離し、船は島からゆっくりと離れていく。



「ついに島を離れるんだな。思えば、ハヴァマールに飛ばされて一週間以上を過ごしていたな」

「うん、兄上はよく頑張った。諦めずにここまでよく成長した」

「褒めてくれてありがとうな、ハヴァマール。全部、お前のおかげさ」


 なんとく嬉しくて、俺はハヴァマールの頭を撫でた。


「うへへ。なんだか照れるなぁ」



 船体は緩やかに波へ乗っていく。どんどん島が離れて、俺はいろんな思いが込み上げた。――また戻ってくるかな。



「帆を張り、出航します!」



 ストレルカの指示が飛ぶと、船が勝手に帆を張った。驚いた、なんだその仕掛け。しかも、自動操縦で動いているようだし――そうか、魔法か。



「魔力を感じるな」

「よくお気づきです。そう、テテュス号は大精霊・オケアノスの力を借りているのです。海上ですから、その魔力は無限に等しいですよ」


「す、すげえな」



 船はスピード上げていく。う~ん、気持ちの良い潮風。まさか俺が船に乗って島を出る日が来るとはな。イカダでも作って脱出を試みようとした時期もあったけど、思えば、島に定住して良かった。

 こんな立派な船に乗れるとは、感慨深い。


「ラスティさん、船旅ですよっ」

「スコルは、船は初めてか?」

「はい、漂流した時は、ボロディンの崖から海に落ちただけなので、これが初めてです」

「あー、最初に流れ着いた時か。どうしてそんな無茶を」

「う~ん。誰かに背中を押された気がするんですけどね。でも、分かんないんです。気づいたら海に流されていて……ラスティさんの島にいたんです」


 ただのドジっ子かな。でも、押された気がする? それは、ちょっと気になるな。う~ん、と考え込んでいると、ハヴァマールが俺の服を引っ張った。


「兄上、釣りはしないのか。せっかく釣り竿セットを完成させたのだろう」

「おお、そうだな。さっそく試してみるか」



 [丈夫な釣り竿]

 [効果]

  魚を釣る道具。

  頑丈な造りで、丈夫な糸と針がついている。大物を狙うのに適している。釣りをするにはエサが必要だ。エサは虫を使用。



 エサは、島でミミズを取ってある。アイテムボックスから小箱を取り出し、蓋をあける。その瞬間、スコルとハヴァマールは青ざめて距離を取っていた。ですよねー。



「ひ、ひぃ……ラスティさん、それはちょっと……」

「あ、兄上、なんてものを!!」



「あのな、二人とも……釣りのエサはミミズこれが常識だぞ。まあ、エビとかもないわけじゃないけど、そんな高級なエサはないからな。これで我慢だ」



 俺は、針にミミズをくくりつけた。これで準備は完了。ストレルカに頼み、船のスピードを下げて貰った。おぉ、低速にも出来るんだ。この魔法の船、快適すぎるな。


 さあて、大物を釣り上げるぞ。

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